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マヨラナ(Marjoram)〔Gr. ojriganon or ojriganoV

origanon.jpg  シソ科ハナハッカ属の植物。
 古来、毒消しとして有名で、パラドクサ作家たちが好んで取りあげた話題の植物。アリストテレースも —

 カメは、マムシを〔一部分〕食うと、後で〔毒消しとして〕オリガノンを食べるが、このこともすでに観察されている。また、すでにある人は、カメがこういうことを何度も繰り返し、オリガノンの葉をむしっては、またマムシに向かうのを見ていたら、ついに葉を全部むしりつくしてしまい、その結果、カメは死んだ〔という〕。……コウノトリやその他の類は、戦ってどこかに傷を受けると、〔傷口に〕オリガノンを当てる。
  (『動物誌』第9巻6章、612a)
 point.gif『異聞集』第11章
 point.gif『アンティゴノス断片集』第36章参照。

 テオプラストス『植物誌』第6巻2章(3)によれば、「オリガノンには黒くて実をつけないものと、白くて実をつけるものがある」という。
 前者が"Origanum viride"など、後者が"Origanum heracleoticum"(上図)とされる。
 現今でもギリシアに野生し、"rhigani"と呼ばれているという(島崎註)。

 ディオスコリデスによれば、 —

 オリガヌム・ヘラクレオティクム(0riganum Heracleoticum)はコニラ(Conila)とも呼ばれるが、それはヒソッブ〔hyssop、ヤナギハッカ(Hyssopus officinalis)〕に似た葉をつける。花序は、丸い形ではなく分割されたようにみえ、小枝の先にぱらばらと種子をつける。これには暖める作用があるので、煎じ汁をブドウ酒と混ぜて服用させると、毒獣に咬まれた者に効く。レーズン酒と混ぜて飲ませれば、キクタ(Cicuta「ドクニンジン」)やメコニウム〔ケシの果実をつぶしてトローチとしたもの〕を服用した人にもよい。オキシメルと混ぜて服用すると、石膏やイヌサフランを飲んだ人にも効く。痙攣、ヘルニア、水腫の治療には、イチジクと混ぜて食べる。乾したもの1アケタブルム〔約66ml〕を水割ハチ ミツ酒に混ぜて飲むと、黒胆汁を腸から排泄する。ハチミツと混ぜて舐めれば、月経を促し咳を抑える。その煎じ汁を浴剤として用いれば、痒疹、乾癬、黄疸に効く。緑色のものの搾り汁は、扁桃腺炎、口蓋垂炎、アフタを治し、イリス香油と混ぜてたらせば鼻孔を浄化する。牛乳と混ぜたものは耳の痛みを和らげる。また、これをタマネギおよびソース用のイチジクと混ぜて吐剤をつくるが、その方法は、これらの材料すべてを真鍮製の器に入れて、土用の灼熱の太陽のもとで40日間、日干しにするというものである。この草を地面にまき散らせば毒ヘビを追い払う。(『ディオスコリデスの薬物誌』III_32、p.317-318)

 さらに、野生オリガノンについて、 —

origanum_vulgare.jpg
AGRIORIGANOS(Origanum vulgare)〔右図〕
 野生のオリガヌム(0riganum)は、パナケス・ヘラクリオン(Panaces heraclion)、クニラ(Cunila)とも呼ばれるが、そのうちコロポンのニカンダーとも呼ばれるものは、この植物の実によく似た葉をもつ。枝は1スパン〔約23Cm〕の長さで細く、項端にイノンド〔Anethum graveolens、セリ科の多年草〕に似た花序をつける。花は白く、根は細くて薬用にはならない。その葉と花をブドウ酒と混ぜて飲むと、毒ヘビに咬まれた者によい効き目がある。
(『ディオスコリデスの薬物誌』III_34、p.319)

 なお、野生オリガノン/オリガノスを、日本では「マヨラナ」と訳される場合が多いが、同定には権威者の間でも異論があるという。(同上、p.484)



[画像出典]
Origanum heracleoticum L. (Labiatae)
Origanum vulgare