シュメール-バビロニアの女神「偉大なるアールール」は、粘土から人類を創造した最初の「陶器師」であった。彼女は神の姿に似せて人間を作り、天界の息を吹き込み、それによって人間に生命を与えた[1]。アールールはまた、イシュタル、アナンナ、ニンフルサグ、さらにマミ、ママ、あるいはマミトゥのことでもあった。彼女は粘土(adamah、女性の土)から最初の男性(アダム)を作った。アッシリア人は、彼女は女性のために粘土で7つの母親-子宮を作り、男性のためにも粘土で7つの母親-子宮を作った、と述べている。「運命の創造女神は、男女をl対として完成させた。それが女神マミの形造った人々の姿であった」[2]。
神が粘土からアダムを創造する聖書の物語は、聖書に記された太祖たちが神の性別を女性から男性に変えた上で、古代の書物から剽窃したものである。メソポタミアの「肉体は土」という考え方は原初の母権制社会に由来し、その時代には土器造りはすべての女性の仕事であった。「製陶の技術は女性が発明し、最初の製陶師は女性であった。すべての原始的人間の間では、窯業の技術は女性の手中に置かれる。進歩した文明の影響下にある社会においてのみ、窯業は男性の職業となる」[3]。
女神はユダヤの神殿では陶器師として崇拝され、その神殿で女神は生贄の犠牲者の値として「銀30枚」を受け取った(『ゼカリア書』11: 13)。彼女は「血の地所」(アケルダマ)を所有しており、そこの土は、このようにして買われた生贄たちの血でしめり気を含んでいた。同じ値でイエスを売ったと言われているユダ Judas は、彼自身もまた「陶器師」に捧げられた別の生贄であった。彼は「陶器姉の血の地所」で首を吊って死んだ(『マタイによる福音書』27: 5)とも、あるいは腹が裂け、はらわたが流れ出した(『使徒行伝』1: 18)とも言われる。このことは「陶器師」が、創造し破竣する女神にほかならないことを暗示している。
インドのカーリー・マー Kali Maは、同じく創造と破壊の女神であり、特別に化身して「つぼの女神」ケル・マリとなった[4]。彼女は粘土から最初の人間を作ったが、その人々がアーリア人であった。アーリア人の名は「粘土の男」aryaに由来する[5]。ケル・マリは、メソポタミアのマリ、マリアンヌ、ミリアム、あるいはマリアに繋がり、マリアの名は、洗礼者ヨハネとイエスの両方の死に結びつく。生贄の血を飲んだ陶器師の土地は、ユダの血を飲んだアケルダマ(血の地所)と同じ土地であったのかもしれない。
カーリーの別名マーヤーは中央アメリカの文明と同じ名であり、マヤ文明の女性はすぐれたつぼを作った。マヤのつぼの中で最も古い型はマモン(「おばあさん」)として知られた。フォン・ハーゲンは述べている。「つぼは女性である。我々が見ることのできるマヤの窯業技術の残存するものは、すべて女性の手で作られている。これは強調すべき事実である。つぼの製作が古い時期に行われていたアフリカやメラネシアのほとんどすべての地域で、つぼは女性が作り、そのデザインは女性が思いついたものであった。アマゾン川流域一帯にかけて、つぼ作りは女性の仕事であった。古代ペルーにおいては我々の知る限り、陶器師は女性であった。原初のギリシアと原初のエジプトのつぼは、ろくろが導入されるまでは女性の手で作られた。……つぼの上に見られる見事な美しい模様は(織物と同じく)女性によって考案された」[6]。
聖書の神は子を生むととができなかった。そこで神は次善の創造技術を模倣し、女神が彼より前に行ったように、粘土から最初の人間を形造ったのであった。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)