西村幸夫 東京大学都市工学科卒業、同大学院修了。工学博士。明治大学助手、東京大学助教授を経て、96年より東京大学教授。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員、コロンビア大学客員研究員、フランス社会科学高等研究院客員教授等を歴任。
 

「近代日本都市計画の中間決算」を語る

2011年2月、『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に「近代都市計画への根底的な疑問」を書かれた西村幸夫さんに、その意図をお聞きしました。ストックをどういうふうにして磨いていくかが課題となっている今日、成長を前提とした都市計画があまりに時代遅れではないかと指摘されました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

ご執筆の意図は

前田:
 今回『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』という本のなかで、「近代日本都市計画の中間決算」をお書きいただいたのですが、その狙いや、どういう方に、どんな感じで読んで頂きたいかということを、簡単にご説明いただけたらと思います。

西村:
 中間決算と書いているので、ある意味まだちゃんとした決算は済んでいないのですが、私は元々制度論者ではなくて、現場に行っている訳なんですね。現場に行っていると、制度の問題にもものすごく疑問があるということで、現場から見て今の制度が抱えていること、今の限界を議論しようとしてみたわけです。
 一番言いたかったのは、今の都市計画は、変化して、動いて、成長していくということを前提として、すべての制度が出来上がっているわけです。用途地域や都市計画道路や線引きにしても、いろいろなインセンティブにしても、物が動くことが前提になっているわけですね。しかし、これから物が動かないというか、ストックをどういうふうにして磨いていくかという時代にそれでは対応できないんじゃないか。全然違う仕組みが必要なんじゃないかとずっと思っていたわけです。
 それと、もう一つは、ある意味こういう根底的な疑問はなかなか議論する機会がないんですね。日々の問題がありますから。
 だからこういう機会をいただいたので、ちょっと青臭いかもしれないけれど、きちんと考えてみたいということが私が書いた意図です。

デザイナーへの期待は

前田:
 この本の著者のなかでは先生が、フィジカルな空間デザインに一番近いお立場かと思いますが、そういうお立場から、デザイナーに特に考えていただきたいことはございますか。
西村:
 そうですね。これは法律と制度の議論なのですが、法律と制度は基本的に最低限のことを満たすものですし、それから国土の均衡ある発展、健康で文化的な生活は法律のなかでうたってあるわけですね。そういう最低限のものを満たして、それより上のものは各自でやってくださいというスタンスなんですけども、そうじゃないんじゃなかと。良い物をつくっていく仕組みを制度のなかにも持っていかなければいけないんですね。それはやっぱり作り手の問題でもあるし、作り手が自分ががんばって良い物をつくったらそれで良いということじゃなくて、それがうまく制度のなかにも反映されるようなところでやっていかないとダメだと思います。
前田:
 有り難うございました。

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都市計画
根底から見なおし新たな挑戦へ

−−目  次−−

  • 蓑原敬 大きな曲がり角にある都市計画・まちづくり

    第1編
    都市計画を根底から見なおす

  • 西村幸夫 近代日本都市計画の中間決算
      ──よりよい都市空間の実現に向けて
  • 佐藤 滋 地域協働の時代の都市計画
      ──まちづくり市民事業からの再構築
  • 大方潤一郎
      まちづくり条例による国際標準の計画制度
      ──持続可能な都市圏構造と日常生活空間の実現のために

  • 中井検裕 分権下における広域計画
      ──続・都市計画と公共性

    第2編
    総合的な都市政策と直結する都市計画へ

  • 中村文彦 都市交通戦略のあり方
      ──公共交通を中心とした展開の方向性

  • 広井良典 コミュニティとしての都市
      ――定常型社会と「福祉都市」のビジョン

  • 小川富由 地域主権における住宅政策
      ──住まいまちづくり政策の多面的な展開

  • 若林祥文
      地域を豊かにするガバナンスと協働の展望
      ──見沼田圃の保全とホームレス支援の現場から

  • 木下眞男 地域主権における都市と地方自治体
      ──横浜市の現場から

  • ●本書の関連セミナー

    ・大方潤一郎ほか「まちづくり条例による国際標準の計画制度」(110310夕方より、東京)

    ●本書の関連論文

    基本的な認識を共有できるか
    6月5日を皮切りに連続で議論する建築学会のシリーズ第一回「建築・社会システムに関するシンポジウム〜市民社会の建築・まちづくり−新たな制度と仕組みの提案−」で蓑原敬さんが話されたメモです。これが第1章の中身に化けると思います。(蓑原)  

    2010.09.06 蓑原敬さん京都セミナー

    蓑原敬さんインタビュー(脱稿時)

    佐藤滋さんインタビュー

    大方潤一郎さんインタビュー

    蓑原敬さんインタビュー(出版時)

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