サントリー不易流行研究所の近藤さんです。
サントリー不易流行研究所は日本各地の盛り場の調査をしておられますので、 そうした視点から大阪のポジションを明らかにしていただこうという狙いでお越しいただきました。
近藤:
サントリー不易流行研究所の近藤です。
私たちの研究所はごく一般的な人々のライフスタイルや生活の楽しみを調査していますが、 最近では、 生活文化の基盤をはぐくむ都市や盛り場の魅力についても関心を持っています。 北は北海道から南は九州まで歩いてまわり、 デベロッパーなどの作り手の目ではなく、 一般利用者の目で新しいまちづくりの変化や芽を探しています。
最近調査をしていて、 少し気になったことが二つありました。
一つは、 どこの街も個性がなくなって、 ハード優先になっているということです。 新しい複合商業施設やエンターテイメント型のビルが、 東京や大阪などの大都市に限らず、 全国各地の地方都市でも作られています。 しかしそれらは最初は賑わっていてもだんだん飽きられてくる、 そんな状況です。 また情報が早く、 ブームになると一気に「カフェ」「和風」「アジアンテイスト」の店が出来て、 雑誌で取り上げられます。 これではちょっと特徴がないと思います。
もう一つは、 街遊びや盛り場、 文化などが、 世代やテイストによってタコ壺化されていることです。 多世代が一緒に集えるような場所がなくなってきているのではないでしょうか。 先日、 中央公論に「世代間憎悪の時代」という文がありました。 世代間ギャップを通り越して、 今では世代やテイストが違うだけで気分が悪く、 時には犯罪にまでつながるというのです。 これは特に最近の若い人に顕著なようです。
こういった気になる点とは逆に、 最近見つけたおもしろい芽を三つご紹介します。
一つ目は、 ある区域や街がアイデンティティを持ち始めたことです。 それも1年足らずのブームで廃れるものではなく、 その街自体の実力になってきていると思える例。
二つ目は、 既存の建物を利用してうまく仕掛けが進められている例。
三つ目に、 だんだん世代間のコミュニケーションや繋がりがなくなっている中で、 人と人をつなぐような場や仕掛けが生まれていると思われる例です。
面白い街の変化の芽
サントリー不易流行研究所 近藤直久
均質化する街
角野:
個性的なアイデンティティをもつ街
個性的なアイデンティティをもつ街、 名古屋の大須商店街と神戸の旧居留地を紹介します。何でもありのごった煮商店街〈大須商店街〉
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次は神戸の旧居留地です。 先ほどの小浦さんのお話しにもありましたが、 神戸は街の歴史を感じさせない街です。 私は神戸生まれの神戸育ちで、 学生時代にもすでに『居留地』という言葉は知っていましたが、 実際に遊んだ覚えはそんなにありません。 震災後数年経ち、 三宮の北西にはトアウエストが出来、 南の方では居留地が人気を集めています。 居留地には大人びた洗練された町並みがあります。
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大丸の南東にあるリブラブウエストには、 サザビーのカフェが入っています。 ここも昔からの建物をうまく利用しています。
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まちづくり連絡協議会がバリバリやっている感じはないのですが、 景観をそろえようとか、 自販機を置くのはやめましょうとか、 緩やかなチェックをしています。
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居留地の中のテナントは大丸直営店が多いのですが、 大丸さんが中心に動いていることはあまり表立っていません。 大丸の東側のポルティコにはカフェがあります。 サッカー選手のカズと三浦りさ子さんがここでお茶を飲んだ写真が雑誌に載って、 みんなが来るようになりました。 センスのいい街として意識されています。 居留地ができて初めて、 神戸に「本当に神戸らしい場所」ができました。 ちょっとお洒落しながら緊張感をもって歩く、 店員がしっかりしている、 伝統建築を保存している、 そんな街です。 最近、 チャータード銀行跡に間宮さんデザインのカフェ、 E.H.BANKが出来ました。 ここはビジネス街なので夜10時頃になると暗くなってしまっていたのですが、 E.H.BANKが出来てから明るくなり、 中も居心地がよく、 また新しい神戸の魅力が生まれました。
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東京駅と有楽町駅の周辺、 丸の内カフェがある丸の内界隈はビジネス街ですが、 綺麗な街です。 旧居留地と同じようにブランド店が立ち並び、 幅広の通り沿いに街路樹が並んでいます。
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丸の内カフェは富士ビルの一階にあります。 元は銀行だったようです。 内装は香港のアラン・チャン氏によってデザインされ、 エスニック調になっています。 休憩する人もいれば、 パソコンを使っている人もいます。 パソコンは数台用意されていますが、 持ち込んでもかまいません。
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お昼には、 近所のOLさんが弁当を持ち込んで食べることが出来ます。 飲み物はジュースのベンダーコーナーがあるだけです。 このように、 センスのいい街の中で古い建築物を上手く使い、 制約のないお洒落な空間として利用されています。 丸の内カフェは三菱地所が作ったのですが、 上手く広報に使っているようです。 たとえばここはイベントをすることも出来ますが、 アマチュアではなくプロの洗練されたイベントしか許可しないそうです。 丸の内は着実にブランド力をあげていると思います。
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CAPハウスは神戸の北野町の西、 鯉川筋の突き当たりにあります。 もともとブラジル移民センターの建物でしたが、 関西在住のアーティストを応援するNPO組織“C.A.P.”(The Conference on Art and art Projects)が7年ほど前からCAPハウスとして再利用しています。
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1階には事務所とミーティングスペース、 簡単なカフェがあります。
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2階には、 昔ブラジル移民が寝泊まりした8〜10畳程度の部屋が並んでいます。 アーティストはこれを安い賃料で借りることが出来ます。 もともと神戸市がやっていたのですが、 杉山知子さんが代表になって、 期間限定でここを借りてワークショップなどを開催しています。 (参考セミナー報告 「人・つなぐ・ミュージアムづくり」 永田宏和)。 CAPハウスのいいところは、 行政が柔らかい応援方針なので、 あまりうるさく制約をしないということです。 それから、 センスのいいキーマンがいて、 それが発信基地になったことです。 以上の二つの他に、 名古屋の栄にも古い旅館を改造した“桜アパートメント”があります。 蜂の巣みたいにたくさん部屋があって、 宝探しが出来そうで楽しいところです。 一度是非覗いてみて下さい。
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コミュニケーションを促すしくみや場
最後に、 コミュニケーションを促す仕組みや場をご紹介します。 世代を越えて違うテイストを持った人々が何となく集まることができる仕組みが面白いのではないでしょうか。
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今フリーマーケットが流行っています。 東京の井の頭公園では自然発生的に店が出ていますが、 実は非合法のようです。 警察も見て見ぬ振りをしているような気がします。
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屋台といえば博多です。 今はデジタル時代のアナログブームですから、 ますます元気になっています。
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ちょっと新しい感じの屋台、 代官山のストリートフードです。 西梅田のリッツカールトン横でやっているイタリア料理の屋台や、 広尾のテント風屋台もあります。
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8月の末に大阪天満宮であったちんどん博覧会です。 雨だったのですが、 大勢の人が集まってなかなか面白いものでした。 縁日は昔懐かしいイメージがあって、 コミュニケーションを促す仕組みとしてはもってこいだと思います。
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