当時は地元の建築資材とか文化的な伝統が支配的であったわけです。
そしてまた、 産業化というものが都市のランドスケープに対してあまりインパクトのなかった時代といえます。
こういった前近代に出来上がった特徴のある場所への脅威は、 地震、 ハリケーンなどの自然災害、 そして人工的なものとしての戦争でした。
こういった破壊に対しての地元の住民の反応は、 それが天災であろうと戦争であろうと、 前と同じ形でその場所を再構築することです。
それによって地元の強靭性や文化的な連続性を表明しようとしたわけです。
ところが今世紀に至って場所を破壊するもっと微妙な、 そしてもっと強力な要素が新たに二つ出てきました。
これは二つの偉大なデザイン、 そしてまた都市計画の流行であるモダニズムとポストモダニズムであります。
すなわち、 すべての気候、 すべての地域に対して一つの同じ建物を建てたい、 そしてすべての都市に対して一つの都市計画をしたいということです。
その例が写真14に示した彼の有名な著作に表わされています。
建築・都市計画のモダニズムの様式の基礎となっているのは普遍的な科学の原理であり、 標準化・規格化を強調するものです。
そしてモダニズムというのは自分で意識しながら将来に目を向けており、 伝統を拒否するものです。
時には過去というものが都市の再計画において系統的・体系的に消されてしまうところまで伝統を無視することがあります。
モダニズムのデザインにおける特徴は、 標準化したパーツを組み合わせることによって完成され、 歴史とかローカル色によって完成されるわけではありません。
モダニズムのデザインには地理の要素が完全に抜けており、 どこに対しても完全に適応できそうなものです。
モダニズムの様式が使われたのは“標準化”というものが重要であると考えられたからです。
例えば公団住宅とか高層のオフィスビル、 ホテルとか空港建設に使われました。
その結果として、 ローカルなアイデンティティというものが劇的に失われ、 標準化されたモダニズムのデザインが広まってゆき、 場所の特徴というものが消えていきました。
そしてまた、 系統的に計画された画一性というものが生まれたわけです。
写真15〜20はアパートの写真ですが、 こういった所はどこにでもありうるわけです。
シカゴはモスクワに対して正反対の資本主義の都市として紹介しました。
これは、 アメリカでも一番の貧困層が住んでいる所であって現在では建物がすべて使われているわけではありません。
入居しているのは5〜6階までであって、 建物もかなりダメージを受けており、 また火事になった部屋もあるようです。
最近では“マックワールド”、 例のハンバーガーのマクドナルドの世界とも呼ばれています。
すなわち、 コミュニケーション、 情報、 旅行、 そして商業と完全に密着した世界ということであって、 そこでは効率と標準化が極めて重要であるということで、 ローカル色は完全に意味がないという風に見くびられています。
私はマクドナルドの写真をあらゆる国で撮影してます(写真21〜23)。
ところがカナダのマクドナルドへ行きますとこれはカナダであると良く分かります。
なぜかというと、 マクドナルドのマークの中にカナダのシンボルであるメイプルリーフが入っているからです。
地理的な経験という枠組みにおいては、 没場所性とマックワールドとは全く同じ事を意味しています。
全くの同一性、 そしてアイデンティティの消失ということであります。
モダニズムの伝統というものは、 今日までいろいろな形で続いており、 また大型開発プロジェクトの場合、 よくそういうことがあるわけです。