秋津 伶
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「割れた鏡面(エディット・パルク)Kindle版電子書籍

  ―裏側にNの署名を持つ7つの短編―

  鏡面を覗き込む時、鏡面もまた〈私〉を覗き込む。何が映っているのだろうか。「鉄槌をもって哲学する」フリードリッヒ・ニーチェによってその鏡面は叩き割 られた。亀裂が走り、砕け、乱反射する無数の破片と化した自我。映っているのは、慣れ親しんだ自分でも他の誰かでもない。これら七つの短編は、その砕かれ た鏡面の破片である。それらの裏側には、すべて彼の頭文字Nが刻印されているはずである。
 『ボヴァリー夫人』を仕上げたフローベルが「ボヴァリー夫人とはわたしだ」と告げ、プルーストが『失われた時を求めて』で生身の自分と入れ替 えようとした〈私〉は死んだ。物語の反省意識である小説が死に、小説の隠された真の主人公である作者が死に、作者の〈私〉が死に、文字の記されたテキスト を覗き込んでも、映っているのはお馴染みの〈私〉ではなく、無数の言葉の断片と化した〈私〉、もはや〈私〉とは呼べない亀裂の入った空白の何かである。
 小説の主導権は作者から言葉に移行した。

      

その他

『レトリカー比喩表現事典』白水社1988年掲載より

P29 
刀身の淡い光が雨をはじけ、冷ややかに雨に濡れていた。稲妻が青白く山間を走り抜け、耐えがたい神経繊維の棘のように、空を引き裂いた。(『日時計』)

P107 
嵐にひきちぎられてゆく不吉な雲、難破した木造船の帆のように、ひきちぎられて……(『日時計』)

P118 
〈太陽はみごとに南中した。真昼だ〉。ブラインドの鉄切片は、〈最高潮に達した楽曲のシンバルのように〉、圧縮した光線をはじき散らしている。(『日時計』)

P130 
交響曲第九番を書き下ろしたベートーベンは、病弱と意志の衰 退のなかで、神経の白い棘のような美しい作品を、弦楽器の立体派風の均衡でまとめ上げた。(弦楽四重奏曲第十六番ヘ長調)(『日時計』)

エディット・パルク Copyright(C)2001