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vol.1〜vol.10/vol.11〜vol.22/♪2003.8.8 立秋 Vol.23/♪2003.8.23 処暑 Vol.24/♪2003.9.8 白露 Vol.25/
♪2003.9.23 秋分 Vol.26/♪2003.10.9 寒露 Vol.27/♪2003.10.24 霜降 Vol.28/♪2003.11.8 立冬号 vol.29/
♪2003.11.23 小雪号 vol.30/♪2003.12.7 大雪号 vol.31/♪2003.12.22 冬至 Vol.32/
vol.33〜vol.41/vol.42〜vol.50/vol.51〜vol.56/vol.57〜vol.64


♪2003.8.8 立秋 Vol.23
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・立秋号をお届けします。7月が涼しかっただけに、この残暑はこたえますね。みなさま、いかがお過ごしですか?
このところ、上・中・下(かみ・なか・しも…上京区・中京区・下京区)の京町家エリアで小火(ぼや)が多発しているようです。町家住民は防火&防災意識が高いはずなのに…と思ってよくきいてみると、大半がマンションでの出来事のようです。「あぁ、やっぱり…」と思う反面、「同じ京都市民なのになぜ?」という疑問も…。
行政は、木造建築は防火・耐火面で劣るということで、いろいろ消防法で規制をかけていますが、火事が出た後のことをどうこういうよりも、まず火事を出さない、防火意識をUPすることに取り組むことの方が先決問題ではないでしょうか?

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◆ 京町家住民の防火意識の高さは日本一  …火の用心の文化が生活の慣習に
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日本中が町家でいっぱいだったころ…江戸時代、江戸の町人長屋は安普請で有名だったそうです。だいたい、3年ほどでもとが取れる程度の建物だったとか…。それぞれの職人が技を競い、300年はもつような京町家を建てていた洛中とはえらい違いです。これはなぜかと申しますと、「火事と喧嘩は江戸の花」といわれたくらい江戸は失火が多く(大火だけでも100回を越えています)、罹災する可能性を考えて、そんなに立派なものは建ててられない…ということのようです。
アパートやマンションなどの集合住宅を除くと、京都は日本で一番人口密度の高い都市です。つまり、人が高密に住んでいるというわけです。その反面、京都での火災の発生率は人口あたり日本一少ないというデータもあります。これが示すものは何でしょうか?
まず、一つ言えることは、京都市民というより町家住民の防火意識の高さでしょう。神戸大学都市安全研究センターの室崎益輝教授いわく「火の用心の文化が建物の知恵(ママ)として、生活の慣習として根づいている」ということです。ご存知のように町家は木と石と紙と土でできています。もちろん、とても燃えやすいです。火袋のように、構造そのものが防火対策となっているとも言えますが、何よりも、その「燃えやすい家」に住んでいるという住民の自覚が防火意識に繋がっています。更に室崎氏は、「その京都の良さ、防災の知恵を見直して、現代に生かして欲しいと思います。町並み景観を揃えること、自然環境を大切にすること、近隣の付き合いを育てることは、京都の伝統的な防災につながる文化です」。
ご来店されるお客さま(町家購入希望)の中で、たまに「もし、この再建築不可の家が燃えたら建て直すことは全くできないのでしょうか?」とお訊ねになる方がおられます。町家物件は、確かに、「再建築不可」となっているものがかなりあります。今の法律では文字通り「再建築はできない」ことになっています。
でも、ちょっと考えてみてください。
洛中に住まう少なからぬ京都人が、この「再建築不可」の町家に日々暮らしているのです。再建築することなどないように、火を出さないように細心の注意を払って…。と同時に、自分の家のご近所の家々からも火を出されることはないと、暗黙のうちに確信して暮らしているのです。「その根拠は?」と問われると、それは日頃のご近所づきあいの賜物とは言えないでしょうか? マンションやアパートなどで小火騒ぎが多発…というのは、そこには京都の伝統的な生活や文化が継承されていない証拠といっても過言ではないかもしれません。

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◆編集後記
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残暑お見舞い、申し上げます。立秋号、いかがでしたでしょうか。今年の5月6日の立夏号(Vol.16)で、仁和学区の自主防災委員会の幹事をお引き受けしていることを書きましたが、自主防災委員は任命された人だけがなるのではなく、その地域に住む一人ひとりが「自主防災委員」であることをお忘れにならないでください。
今、京都市消防局では、学区やお町内で、「市民防災行動計画」を立てることを推進しています。災害が起こったとき、頼りになるのはご近所です。そんなことは百も承知なのですが、この計画を立てて提出することで、祗園町のように町家改修時の消防法規制が少しでも緩和されるなら有り難いことです。


♪2003.8.23 処暑 Vol.24
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・処暑号をお届けします。
きょうとあすは地蔵盆です。お地蔵さん、つまり地蔵菩薩は子どもをまもる仏として知られていますが、これは「賽の河原地蔵和讃」に亡くなった幼な子をまもる仏さまとして描かれていることによるようですね。よって、このお地蔵さんのお祭りは子どものための行事。関西の旧い町では多かれ少なかれ地蔵盆というものがあるようですが、お町内ごとにお地蔵さんをおまつりし、地蔵盆をしているのは京都・洛中だけです。
京の七口(註*)、「六地蔵」でも知られるように、お地蔵さまは出入り口をまもる仏さまでもあります。自分たちの境界をおまもりしてくださっているのですね。洛中、言い換えると京町家のあるエリアは、辻々にお地蔵さまがまつられているエリアであるともいえます。京都の町を歩いていて、「あ、何だかお地蔵さまが見当たらなくなったな…」と感じると、そこはもう洛中ではなく洛外になっているはずです。
註*京の七口:京の出入り口にあたる所で、一般には、北東端の鞍馬口、大原につながる大原口、山中越を経て滋賀へ向かう今道下口(大原口/北白川口/荒神口とも)、東海道につながる粟田口、伏見へつながる五条大橋口、竹田街道に通じる竹田口、南端の鳥羽口、周山街道への長坂口、西国街道へ東寺口、丹波山陰へ向かう西七条口などを指す。「七口」とは「7つある」という意味ではなく、「いくつもある」ということ。

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◆ 町家暮らしのメインイベント、「地蔵盆」    …「六地蔵巡り」も忘れたらあきまへん
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町家暮らしの中で、どうしても避けて通ることができないお町内の行事は「地蔵盆」です。京都市内には5千体を超えるお地蔵さんがあるそうですが、それぞれ日頃は小さな唐破風の屋根のお厨子に鎮座しておられます。室町辺のお地蔵さまは友禅の前掛け、西陣は金襴緞子の前掛けをつけてもらっているのはほほえましい限りです(ちなみに、丹後ではちりめんの白生地の前掛けだそうです)。お水やお花の世話は、お町内の各世帯で持ち廻りでやっておられるところや篤志家のおばあちゃんに任せ切りのところも…。明治の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)を乗り越えた洛中のお地蔵さまは、現在もなお、静かにお町内をまもりつづけています。
さてさて「地蔵盆」ですが、そのもともとのいわれは…
その昔、大津・三井寺に常照というお坊さんがおられ、僧侶であるにもかかわらず、地獄に堕ちられました。常照は大変苦しみましたが、ある時、お地蔵さまが現れ、「おまえは小さい時に、よく私を拝んでくれた。極楽にやることはできないが、もう一度人間界に戻してやろう。そして、世のため人のために役立つ人間になりなさい」と、生き返らせてくれたのでした。それが8月24日であり、それからというもの、お地蔵様を祀る「地蔵盆」が行われるようになったとか。
いわれはともかく、地蔵盆は子どもにとっては楽しい楽しい2日間です。まず、お地蔵さまは祠から出されて清められ、きれいにお化粧までしてもらいます。提灯を吊り下げたり、お地蔵さんの前には花やお菓子、果物などのお供えを。宗教的なこととしては、お坊さんに読経をいただき、子どもたちは大きな数珠をぐるぐる廻します(百万遍数珠廻し)。あとはお地蔵さんを前にして、お供えのお下がりという名目でお菓子をもらったり、ゲームをしたり、福引きがあったり…。それぞれ何時から始まるというのが決まっていて、その時間になると、お役の子どもたちが擦鐘と小さな木槌で、かぁんかぁんと鳴らしながら、町内を一周します。この鐘の音で子どもたちが寄ってきて、お地蔵さんの所に集まります。夜には演芸大会や盆踊りを、花火大会も。
洛中の住人は自営業者が多いため、普段はなかなか本腰を据えて子どもと遊んでやれない罪滅ぼし(?)もあってか、大人が子どものためにいろいろ企画をして、遊ばせてくれるというわけです。
各町内で子どもたちが楽しんでいる一方、洛中六つのお地蔵さまを巡る習慣もあります。六地蔵の場所は、山科(徳林庵)、伏見(大善寺)、鳥羽(浄禅寺)、鞍馬口(上善寺)、桂(地蔵寺)、常盤(源光寺)で、いずれも洛中と洛外を結ぶ街道の出入り口にあたるところです。現在では観光バスなども出ているようですが、かつては朝早くから夜までかけて廻ったとか。罪障消滅、家運繁栄、厄病退散を祈り、各寺で色違いのお札(お幡/おはた)を授与してもらい…6寺巡ると6色(赤・青・黄・緑・黒・白)になります…、祇園祭の厄除けちまきといっしょに玄関先に吊るします。この「六地蔵巡り」、3年間巡拝すると六道の苦(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上の迷い)を免れるともいわれています。

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◆編集後記
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処暑号、いかがでしたでしょうか。最近では子どもが少なくなり、23・34日の前後の土・日に振り替えているお町内も多く、1日間だけに短縮したりしているところもあるようです。また洛外では、「地蔵盆は仏教行事だから他の宗旨の方が参加できない」からと言って、「〇〇町子どもまつり」と称するエリアもあるとか。自分のうちの宗教と地蔵盆との関係なんて考えたこともなかった私にとっては非常に違和感を覚えます。


♪2003.9.8 白露 Vol.25
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・白露号をお届けします。
京町家の夜は、通りにわの天窓から月の光が射し込んで、思ったよりも明るいです。月の出ていない星月夜(ほしづくよ)もしかり…。町家で暮らすということは、そうした季節の移り変わりとか自然を家の内に居ながら感じる、自然と共棲することでもあるといえましょう。
さて、この9月11日は、仲秋の名月です。
旧暦8月15日の月を十五夜、旧暦9月13日の月を十三夜といって、秋草や畑の初物、お団子などをお備えして月を愛でます。この、いわゆる「お月見」は、奈良〜平安時代初期に中国から伝わったものだそうですが、往時は月を鑑賞しながら歌を詠み、お神酒をいただくものだったとか。また、「十五夜」にだけ月見をして「十三夜」に月を見ないのは「片見月」と呼ばれ、良くないことだと言われています。また、この「十五夜」は里芋の衣被(きぬかつぎ)をお供えすることから別名「芋名月」、「十三夜」は「栗名月」「豆名月」ともいわれます。

お月見にかかせないのが、月見団子。絵本などのお蔭か、三方の上に真ん丸いお団子が山積みになっている…というイメ−ヂがありますが、京都では里芋の形(丸いお団子をすこし伸ばした形…この時期の芋は丸くない!)にしたお餅を帯状の餡子でくるんだものです。
ところで、このお団子、いくつお供えするものなのでしょうか? 京都では十五夜は15個、十三夜は13個という話も聞きますが、大方は両日共に12個の月見団子というところが多いように思います(ただし、閏年は13個)。

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◆ 「消防団員募集中!」 …防火・防災の基本はご近所づきあい
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「うちが町家を仲介する際には附録で消防団がついてくる…」なんて、冗談半分、実は本気で言うているのですが、先ごろ、西陣京町家にご入居されたC君が仁和消防分団に入団してくれました。どこの消防分団詰所の前にも「消防団員募集中!」の貼り紙があるのをご存知でしょうか? 新入団員がないままに団員の高齢化が進んでいるのが現状です。学区のために一つ頑張ろう!という若者が不足しています。
当店のある仁和学区も例外ではなく、ここ十何年も新入団の方がなかったとかで、C君入団のニュウスには学区の役員さんたちも大喜びで、入団式(上京消防署署長も列席)までも執り行なわれました。私も仁和福祉団体連合会(これが学区のいろんなことをやっています)の自主防災会の幹事であり、C君の紹介者ということでお呼びがかかりました。
そのとき、上京消防署署長・消防分団長・自主防災会会長の話がいろいろありましたが、結局、みながいいたいことは…
「防火・防災、災害時の基本はまず向こう三軒両隣です。その次が組・町内、そして学区です。これを統括するのが区や市となります。これらがきちんと連携プレーができ、機能してこそ、安心して暮らせる町といえます。常日頃からのご近所づきあいを通してみなのモチベーションを高め、意識しながら暮らしていくことが大切です。このごろ、若い世代やよそから越して来られた世帯においては、この学区意識とかご近所づきあいの感覚がもともとの上京住民とはズレと言うか溝が生じていることも事実です。
きょう、こうして新しい消防団員をむかえ嬉しい限りですが、C君の入団をきっかけにすこしでもこの溝がうまることを願っています…」ということでしょう。わたしも全く同感です。
京町家でお商売をしている自営の方、20〜40代のあなた、消防団に入りませんか?

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◆編集後記
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白露号、いかがでしたでしょうか。子どものころ、「お月さまにはうさぎが住んでいて、餅つきをしている…」なんてよく聞かされましたが、イギリスでは何と言われているかご存知でしょうか? かのマザーグースによりますと、「クリームチーズでできた帽子をかぶった男性が住んでいて、その外套はローストビーフ」なのだそうです。いかにもイギリスらしいと申しますか、でもちょっと甘い匂いが漂ってきそうな…。いろいろ調べてみると面白いかもしれません。。。

♪2003.9.23 秋分 Vol.26
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・秋分号をお届けします。
東京のデパートの地下などでは「京野菜」というのがブランド化してブームをよんでいるとか。東京在住の友人に訊くと、これが結構なお値段がついているらしい。水菜だの金時人参だの、われわれから見れば、どうということもない普段「おぞよ*」として食べている野菜たちなのですが…。
3里四方(一説には4里四方)の産のもの(野菜)を食べて暮らすと元気でいられる…なんて話をよく聞きますが、確かに、そのときそのときの旬で、かつ近在の野菜を食べるとほんとうに「おいしい」です。やはり、そのときそこの気候風土・暮らしにあった産物なのでしょう。
考えてみれば、家だって同じことです。その地域の気象条件の中で育つ木は、そこの暑い寒いにじゅうぶん馴れているはずです。ですから、近在の木で家を建てていれば、その木が木材になってからも無理なく存在しつづけることができるのではないでしょうか?町家は最も新しいものでも築53年。大方は戦前の築ですから、遠方から材料を運んでくるにはその技術も経費も捻出できなかった時代の産物です。
ということは、当然、町家は近在の木でできています。「町家は長生き」というのは、こんなところにも秘密があるのかもしれません。。。
註 *おぞよ:普段のおかずのこと。副食物。「お廻り」とも。

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◆ 30年後の棟梁を育てていくことも考えんとあきまへん!   …町家を残していくためにしなあかんこと
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木の家は300年もつ…なんて話を以前にしましたが、これから30年後、50年後、100年後…、今ある京町家はたぶん、壊されさえしない限り残っているはずです(うちの近所には室町時代の京町家が残っているくらいです)。でも、その30年後、いわゆる「棟梁」と呼ばれる大工さんは何人おられるのでしょうか? もちろん、今の棟梁さんはお年を召して、現役ではなくなっておられるはず。では、この30年後の京町家、もし傷んだら誰が直してくれるのでしょうか?
少し数字的なことを挙げると、1970年から1990年にかけて30歳未満の大工技能者の就業者数は半分になっている一方で、50歳代の数が2倍以上になっているとか。大工さんの高齢化が著しく進行しているということですね(参考:新しい建築生産システムに則ったこれからの技能のあり方基礎研究…(社)住宅生産団体連合会平成8年3月)。そうでなくても、釘の打てない大工さんが増えているというのに…!
このままでいくと町家を始め、伝統工法の技術は継承されず、町家を残したくても残せない…廃屋になっていくのをただ呆然と眺めるしかない…という日がくるのかもしれません。
「町家の保存再生」を願うならば、この「町家を残せる」技術を持った若者を育てることにもっと目を向けていかねばならないはずです。梅岩の「100年の計の…」ではありませんが…。
ところで、みなさん! 「葭塾(よしじゅく)」というのをお聞きになったことがおありでしょうか? 葭屋町通に「よしやまちの町家」というのがあるのですが、このお家は、京都府建築工業協同組合によって平成13年に再生された住居としての町家です。この共同組合が、木造改修工事における感動創造型技能後継者育成のため、若年技能者や技能者を目指す初心者(原則として当組合員)を対象に研修を行っており、これを「葭塾」と称しています。この塾生の方々は先輩の職人さんからの教えを受ける一方、「墨壷展」などのイベントをされたり、自己申告による等級制を前提に塾生による町家改修の仕事を受けたりしています。もちろん大工さんの卵の集団ですから、技術面での不安を覚える方もあるかもしれませんが、必ず指導・監督には棟梁級の職人さんがあたり、木材などの部材は直接施主が購入することで、職人の手間代及び材料代の経済面でもおトクになっています。依頼主への条件というか、お約束としては、町家改修工事期間中2回ほど一般公開してほしい…ということだとか。
将来の京町家、京都のあり方を考えるとき、京都府建設工業共同組合の取組はほんとうに素晴らしいと思います。
この取組を利用してどなたか町家を改修されませんか?

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◆ 「消防団員募集中!」
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京町家でお商売をしている自営の方、20〜40代のあなた、消防団に入りませんか? 募集中です!
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◆編集後記
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秋分号、いかがでしたでしょうか。きょうはお彼岸の中日です。うちの近所に京町家でしておられるお花屋さんがあるのですが、ここのお家の家主さんはお寺です。実は、入居時の条件(!…かたく考えないでくださいネ)に、「しきび(樒)を置いてほしい」というのがありました。
覚えておいででしょうか? 先月、お盆はかなりの雨でした。お寺のお墓参りの方も普段の半分くらいだったとかで、「きょうはお客さんが少ないのと違いますか? ぎょうさんしきびを用意しはったやろに大丈夫ですか?」と、お寺さんが心配して花屋さんを覗きに来てくれたそうです。
このお寺さんは、普段から檀家の方々にこのお花屋さんの宣伝をしてくださったりと、何くれとなく気遣ってくれているそうです。まだ若い店主曰く、「いつもほんまによぅしてもろて、応えていかんとあかんと思てます…」。
家や部屋を貸し借りするという、ビジネスとしての関係には違いないのですが、京町家の家主と入居者には言うに言われぬ心の交流があるような気がします。ま、残念ながら全部が全部そうであるとは言えませんが…(笑)。

♪2003.10.9 寒露 Vol.27
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・寒露号をお届けします。寒露にはまだ少し日があるのですが、編集後記に10月5日からの歌合せの日程を載せましたので、ちょっと早めの配信にいたしました。ご高承くださいませ。
10月の京都は行事やお祭りが目白押しです。有名なところではずいき祭(北野天満宮・10/1〜10/5)、時代祭・鞍馬の火祭(ともに10/22)、京都御所の一般公開なんてのもありますね。本格的な紅葉は11月からですが、場所によっては10月末から淡い紅葉が楽しめたりもします。
ところで、「今様歌(いまよううた)」というのをご存知でしょうか?一言でいうと、平安時代に流行した歌謡のことです。今様とは、「今風の」という意味。「今様歌」といえば、「今風の歌」ということになります。今様を愛好し、歌詞集「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」を編んだ後白河院が1174(承安4)年、十五夜にわたって今様合せをした史実に基づいて、今秋、「平成版・今様歌サロン」とも言うべき「15ヶ日連続今様歌合せ」が京都市内の社寺15ヶ所で催されます。
歌合せでは、狩衣姿の歌人(うたびと)が2人1組で詠み合い、琴などの伴奏と舞いが加わることになっているのですが、平安時代の座敷は今と違って床は板貼りで、人が坐ることろだけに現在の座布団のごとく置き畳がおかれました。お雛さま(お内裏さま)を思い出していただくとわかりやすいかもしれません。もっとも、これは貴族のお屋敷だけの話で、庶民は筵(むしろ)や菰(こも)が一般的でしたが…。

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◆ 京都に作家はおりまへん! …京町家で、だからできること
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先日、知り合いの指物師さんがあそびに来られました。えらく憤慨しておられるので、話をきいてみると…
「作ったものをあるお店に委託で出したところ、『指物作家の作品』とプレートをつけられた…」とかで、ご自分は「作家なんてもんじゃない、自分は職人だ。職人の方が作家より上なんや」とのこと。「作家」と称されたことがよほど癇に障ったようです。
作家と職人とどちらが上位かはさておき、
多少の誤解を恐れずに言うと、「京都に作家はおりまへん」。京都は職人の町です。京都の伝統産業は一般に分業分業で、一から十までひとりの作家がやる…という形態にはなっておりません。例えば、京友禅を例にとると、図案を考える人、下絵をかく人、糊を置く人、色を挿す人、地色を染める人…、この辺が金沢の加賀友禅との大きな違いですね。伊万里・鍋島と九谷の違いと同じことです。
作家と職人さんとの違いは何か? 見解のわかれるところだとは思いますが、わたしの個人的な考えでは、職人さんは「商品を作る人」で、作家は「自分の思いを形にする人」ではないでしょうか? 作家=芸術家と言い替えてもよいかもしれません。ですから、作家と呼ばれる人は、それがお金になろうとなろまいと、世の中に受け容れられようと受け容れられまいと関係ないことになります。ある意味、作家の求めるものは、作品と同時に作家としての自分自身の評価かもしれません。
一方、職人さんの仕事は需要があって成り立つもの、人が生活の中で使うものでないといけないと考えます。もちろん、腕の立つ職人さんの仕事(作品)は例えようもないほどに美しいです。でも、これは見た目の美しさのみならず、「用の美」でもあります。同じ建築物でも、モニュメントと京町家の違いを思い浮かべていただくとわかりやすいのではないでしょうか。職人と呼ばれる人は、製作者としての名声を求めるよりも、作品が世に出ることに価値を覚えるものだと思います。千家さんの職方さんで、一生独立することが叶わないことを前提で弟子に入り、日々を重ねておられる方もおられるくらいです。また、その作品単独でどうこうというよりも、いっしょに存するもの…着物であれば帯との釣り合い、お茶碗であればのみくちの心地よさ、お皿であればお料理を盛ったときの姿…が、ともに引き立つことに重点をおいて製作されています。
で、このそれぞれ分業の職人さんたち、だいたい近所(同じ学区)で暮らしておられます。自分のところの仕事がすんだら、風呂敷に包んで次の工程の職人さんのところへ…。室町辺では、自転車の荷台に数反の織物をつんで運ぶ姿をよく目にされるはずです。
京町家は本来、職住一致のための建物…とは何遍も申し上げていますが、京都のような分業体制の町にあってはこれが大きな意味をもつことがおわかりになると思います。一人の人が全工程をするとなると、かなり大規模な作業場(工場)が必要ですし、下仕事をする多くの人を雇う必要も出てくるかもしれません。自分の家の店の間(或いは機場)で一作業工程をやって次へ廻す…、そうすることで熟練もし、新技術の開発や弟子(後継者)の育成へと繋がっていくのではないでしょうか?
また、それぞれが個人企業の経営者ですから、お給料を得るために仕事をする…というようなサラリーマン的発想は出てこないわけです(夜なべ仕事をしたところで、残業手当はつきません!)。京都は世界的なベンチャー企業が多いことでも有名ですが、それにはこんな下地があることも忘れてはならないことです。

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◆編集後記
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寒露号、いかがでしたでしょうか。最初の部分で書きました「十五ヶ日連続-今様歌合せ」ですが、わたくし、井上信行も14日目の城南宮の会に出演します。何れも参観自由(ただし場所によっては要拝観料)ですので、ご興味がおありになりましたら、ゼヒどうぞ!以下に日程を掲げておきます。
△▼△▼ 十五ヶ日連続-今様歌合せ ▼△▼△
10月5日(日)14:00〜 賀茂別雷神社(上賀茂神社)/6日(月)14:00〜 八坂神社/7日(火)14:00〜 今熊野観音寺/8日(水)13:00〜 拾翠亭(京都御苑内)/9日(木)18:00〜 印空寺/10日(金)14:00〜 長講堂/11日(土)14:00〜 賀茂御祖神社(下鴨神社)/12日(日)15:00〜 法住寺/13日(祝)14:00〜 三千院/14日(火)14:00〜 禅林寺(永観堂)/15日(水)14:00〜 石清水八幡宮/16日(木)11:00〜 新熊野神社/17日(金)15:00〜 教王護国寺(東寺)/18日(土)12:00〜 城南宮/19日(日)16:00〜 平安神宮
◎お問合せ:日本今様謌舞楽会 http://www.ren-produce.com/imayou.html пF075-872-2888 п彦ax.:075-871-3205 

♪2003.10.24 霜降号(vol.28)
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・霜降号をお届けします。ここ数年の間に、京町家を利用したギャラリーとか雑貨店、アンティークショップがずいぶん増えました。先日、ふと気づいたことなのですが、京町家で物を売るとき、そこそこのクォリティのものを並べないと陳腐に見えてしまう…。もし、その品をマンションの1Fのテナントに陳列すれば、すごく素敵に或いは可愛らしく見えたはずです。しかし、旧い町家の店の間に置かれると、何だか、その値打ち以下に見えてしまったりします。その一方、本当によいもの、本物を並べると町家の重厚さとあいまって、より輝きを増すように感じます。
いったいこれは、何故なんだろうか…?考えてみると、やはり年月を経ているとはいえ、町家はそれなりの材料(しかも近在の!)を使ってしっかりと建てられています。ちゃんと改修・改装すれば、本当に美しく蘇ります。きっと、ちょっと見がよいだけの安物は町家の風格に負けてしまうのでしょうね。
「京町家でお店をやればうまくいく!」と考えて、町家探しをされるお客さまがありますが、並べられる商品と町家との相性なんてのもちょっと考えてみられてからの方がよいかもしれません。

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◆ 当店でご成約にいたるお客さまの多くは…   …まず第一に「町家暮らしがしたい」とおっしゃる方
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当店が町家を積極的に扱うようになって、この秋でちょうど丸2年になります。インターネットの普及もあって、ほんとうにたくさんのお客さまがご来店くださいました。厚く御礼申し上げます。
みなさん、「町家(京町家・古民家)で商売をしたい・暮らしたい」ということでご来店くださるわけですが、お客さまのタイプもいろいろです。この2年間で、何となくその傾向が見えてきましたので、今回はその話をしたいと思います。
当店でご成約にいたるお客さまの多くは…
*「町家に住みたい」のではなく、「町家暮らしがしたい(ご近所づきあいも含めて)」と言ってみえる方
*「どのような意匠の町家に住みたいか」ではなく、「その町家でどんなことがしたいか」「将来どんなことをやりたいか」を語ってくださる方
*子ども好き、かつお年寄りとの会話を楽しめる方
*町家の文化的価値を認識してくださっている方
*改修についてきちんとご理解いただける方
*異文化に対して臆病でない方
*即断即決できる方
*同居の方々(家族・カップル・友人問わず)の町家(暮らし)に対する温度差がないこと。。。。くらいでしょうか…。
言い替えると、上記のようなお客さまは、町家についてわたしたちとうまくコミュニケイトできる方とも言えます。町家は、マンション・アパートや町家でない貸家と違って、賃貸条件と間取、アクセス及び周辺環境が気に入ったからOKというわけには行きません。その地域で馴染めるかどうか、或いは、そのお家をあんじょうやっていくだけの覚悟(?)をお持ちかどうか、大切なキーポイントです。その他、いろいろなことを勘案した上で、お客さまに対して「このお家、どうですか?」とご提示するわけですが、そんなときにその方とのコミュニケイトがうまくいっているときには、えてしてお家のマッチングも不思議なくらいうまくいきます。
逆に当店では成約なし難いお客さまとは…
*ご近所や学区のあれこれをできれば避けたいとお考えの方(したくない方はもってのほかです!)
*条件の希望が常識ハズレな方
*ご自分のことを語らず秘密主義の方
*全てのことに先行して外観重視の方
*町家という「ハコ」が手に入れたいだけの方
町家物件の仲介というのは何度やっても一つとして同じケースがなく、常に新しい発見と先人の智慧の豊かさに敬服することの連続です。京町家というと、同じような間取の家ばかり…と思われがちですが、それぞれが永い年月を経、いろんな人と品物が行き交ったお家ですから、むべないことと思います。町家に暮らそうとされる方は、そんな歴史をもひっくるめてのお家であることにちょっと思いを馳せていただきたい…と、願っております。

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◆ 「消防団員募集中!」
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京町家でお商売をしている自営の方、20〜40代のあなた、消防団に入りませんか? 募集中です!
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◆編集後記
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霜降号、いかがでしたでしょうか。さて、TV出演のお知らせをしておきたいと思います。11月3日(祝)14:00〜17:54の朝日放送「まるごと京都!秋の4時間スペシャル」のなかで「町家に住もう!」というコーナーでわたくし、井上信行が町家物件を案内している風景と、当店があずかっている京町家に、とある一家が一泊体験入居…が放映されます。お楽しみに!
もう一つ文化の日の話題。実はわたしはこの日、城南宮で行われる曲水の宴に歌人として参宴しています。当日は、神事ですのでひそやかに行われますが、その模様はTVの夕方のニュウスで放映されるはずです。こちらもお楽しみ(?)に…。

♪2003.11.8 立冬 Vol.29
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・立冬号をお届けします。
さて、テレビ放映のお知らせです。11月18日(火)20:00〜20:54 「再発見!京都の裏側」(仮)というテレビ東京(全国7局ネット予定)の番組で、当店と紫竹の古民家で11月1日オープンの「和こころ」さんの様子が放映されます。「和こころ」さんのオープン前後のあれこれと、私、井上信行の日常…物件&家主さん探しや「京町家・風の会」の例会、当店はもちろん職住一致でやっておりますから家族も(ご近所の方々も!)出る
予定です。
京町家専門の不動産屋ってどんなんやろ…他の不動産屋とどこが違うんやろ…と、思っておられる読者の方、ぜひご覧ください。ただ、残念ながら関西での放映はないようですが…    和こころURL:http://www.wa-cocoro.com/

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◆ せやけどシェアはねぇ…    雑居生活はご近所さんにとって、どうですやろ?
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日本家屋はプライバシーが守りにくいと言われていますが、京町家は通りにわがあるために、ミセの間を通らずに奥の間に行けたり、2階に上がることができたりします。それゆえ、構造(間取)だけを見ると、家族や共同経営者でない何人かで雑居をする、いわゆるシェア・ハウスに適した住居のように思われます。シェアは家賃、光熱費などの出費を頭割等の基準で負担することになるので、入居者にとっては経済的に望ましい借り方といえるでしょう。確かに、学生同士で町家を借りて共同生活をしている…というのは新聞やテレビの話題になったりもしています。
でも、このシェア・ライフ、問題はないのでしょうか?
まず、ご近所・町内との関係はうまくやっていけるのか? 所帯主は誰がなるのか? 町内会費は払うものの、町内や学区、氏神さまの行事やお祭り等には無関心とならないのか? 借家が友人知人のたまり場になり、ご近所迷惑にならないか? いざ同居してみると、今まで見えなかった友人との生活スタイルやリズムの相違点や嫌な面がみえてきて、共同生活がスムーズに行かなくなったりすることはないのか? 実際には、このようなことでシェアが立ち行かなくなるケースは結構多いのではないかと思われます。また、契約面から見ると、誰が借主になるか、シェア・メンバーの一部が引越した場合、その後の契約は解約となるのかどうか、或いは残った人が家賃を負担できるのか…など問題が考えられます。実は、うちのご近所でも、三人のうち一人が海外留学をしてしまい、残った二人が泣く泣く退去したというケースがありました。
家族なら何ら問題にならないことが、シェアであるがために俎上にあがってしまうことになります。
以上の点から、うちの場合は原則的に京町家でのシェア(雑居)はご遠慮願っています。例外的に、シェアが成り立つのは洛外の古民家で学生がせいぜい在学期間のみを共に過ごす場合くらいでしょう。例えば、左京区吉田などのエリアでは、京都大学があるがために、地域の人々が学生のシェアに寛容であったり、それ用のお家があったりします。
確かに、若いうちに一度、シェア生活を経験しておくというのは、人生においては有意義であるかもしれません。ただ、そのことによって、廻りの人々(ご近所の人々)にどのような影響を与えるのかについても深く考える必要があると思います。京町家はシェア・ハウスとして存在しているのではないのですから…。

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◆ 「消防団員募集中!」
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京町家でお商売をしている自営の方、20〜40代のあなた、消防団に入りませんか? 募集中です!

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◆編集後記
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立冬号、いかがでしたでしょうか。11月とは思えないほど暖かな晩秋です。ちょっと気味悪いくらいですね。
最初にちょっと書きましたTVのことですが、最初話が来たときは、「また、いつもの物件案内を撮りたいってやつかなぁ…」と話していたのですが、撮りたいのは物件ではなく、実は、我々人間だということでした。担当の彼もよい方で、我々のことを柔軟によく理解してくださり、よい雰囲気でロケが進みました。うちの下のボン(1歳8ヶ月)などはすっかりなついてしまったくらいです。その担当のN氏曰く、「状況が許せば、ぼくも京町家で暮らしたいくらい」町家暮らしが魅力的に思えてきたそうです。今度はぜひ、プライベイトでご来洛くださいね〜!せっかくのご縁、大切にしたいものです。

♪2003.11.23 小雪 Vol.30
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・小雪号をお届けします。
先日、TV東京のニュウス情報番組で視たのですが、今、東京では超高級店ばかりが加盟するサイトがあって、人気だそうです。利用は会員制で、有名レストランのシェフが家でパーティの準備をしてくれたり、高級料亭のお弁当を宅配してくれたり、歴代総理大臣御用達のテーラーの方が家まで仮縫いやらに出張してくれたり…という、いわば「ホテルのルームサービスの家庭版」のようなことだそうです。世の中の「超高級志向」ということで位置づけられておられましたが、「そうかなぁ…?」という感じを持ちました。
どう考えても、京都では普通のことなのです。馴染みの仕出屋さんなら献立の相談はもちろん、そのように頼めば出張で料理をしに来てくれますし、何時からのお茶会で使うお菓子を…と注文すると、それから逆算して餡をたいてくれるのが和菓子屋さんです。着物を作るとなると、白生地えらびから柄、地色、八掛の色…もちろん採寸も帯やもろもろ小物あわせまで、適当な候補を用意して家まで来てくれる呉服屋さん…。
京都以外の町では珍しいことなんでしょうか? 改めて自分が「井の中の蛙」であることを再認識しました。あっ!「井の中の蛙」というより、「お土居の中の蛙」でしょうか…(笑)。。。

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◆ 京都でお商売しよと思(おも)たら…(1) しなあかんこと、したらあかんこと(1)
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うちの近所の、山口から越してこられたお豆屋さん*が「例えば中古ギター屋さんとかおこぶ(昆布)屋さんとか、そういう特定の商品のみを扱うというのは京都以外では成り立たないやり方…」と話しておられました。他の地方都市では、いろんな物を幅広くそれなりに並べておかないとお客さまが満足されないというのです。
そういえば、大阪南部のS市に行ったとき、お茶とコーヒー豆を並べて売っておられる店があってびっくりしたことがありますが、これは京都では考えられないことです。洲浜だけの和菓子屋さん。赤ちゃんのお宮参りの初着のみ扱う呉服屋さん。茶花だけを並べている花屋さん…。副業に手を出さないことは言うまでもないことですが、多種目を扱わないことはまさしく京都商法ではないでしょうか。京都人はいいます、「あれやこれや見たかったら、百貨店へ行ったらええのや…」。

1200年以上前から京都・洛中は都ですから、これも当たり前と言えば当たり前の話で、何か特別のものが欲しいときや大切なお客さまを迎えたり訪ねたりするときの品を調達するとき、人は気をはって都に買物に出たのかもしれません。また、「いつもの品を届けてください」と連絡するのでも、専門店は便利です。大切な顧客さまのご注文、であると同時に店のプライドもあります。「さすがに、あこの店やなぁ…」と、言うていただけるようにきちんとお納めいたします。

品目を絞って、質の高いものを。かつ、どのシーンにも対応できるように内容豊かに。店の人はその商品の知識をしっかり持って、オーソリティであるべし。例えば自分が扱っている商品についてカルチャーセンターの講師が務まるくらい(笑)。 
京の町家、すなわち京町家はよく鰻の寝床なんていわれますが、これは言い替えると、京都商法を表現したことばだとも言えないでしょうか? お店が安定してくればくるほど、間口を狭め扱う商品の種類を減らして、専門店化していく…。「ひとつことをただそれだけ、いっしょうけんめい」ってな具合です。

*楽天堂さん…うちの2軒西隣です!
http://www.rakutendo.com

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◆編集後記
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小雪号、いかがでしたでしょうか。先日、11月15日の土曜日、息子・斐文の七五三詣に行きました。3歳のときは帯を結ばずに被布姿で氏神さまである北野天満宮にお参りしたのですが、今回は、西院の春日神社で着袴(ちゃっこ)の儀*というのをしていただけるとのことで、お世話になりました。今までの幼児らしい風采とはちがって、何だか凛々しくみえたのは親ばかのせいとも言い切れないような…。
正直なところ、多少面倒だったり物要りだったりしますが、それでもこうして昔からの習慣を踏襲していくのは価値あることのように思います。来年、かぞえで五歳になる息子をお持ちの方、いかがですか?

*着袴の儀:初めて袴を着ける儀式です。誕生後の健やかな成長に感謝し、今後の健康と安泰を祈ります。小袖に袴すがたで碁盤の上に立ち、左手には「二本の小松と山橘」、右手には「檜扇(ひおうぎ)」を持たせます。足の下には鴨川の青石をひとつずつ。その後、碁盤からぴょんと跳び降ります。


♪2003.12.7 大雪 Vol.31
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・大雪号をお届けします。
先日、またまたTVの撮影がありました。今回は全国の欠陥住宅や優良住宅をみせる…という趣旨の番組で、優良住宅のひとつにうちでご紹介する西陣の京町家(仕舞屋)が選ばれた、というわけです。で、そのロケの最後にディレクターの方から「この家は本当にとてもよいということを締めの言葉として京都弁*で話してください」と頼まれたのですが、はたと困ってしまいました。京ことばで、the bestを表現するのはとても難しいのです。ある意味、「ほんまもん」というのがそれにあたるのかもしれませんが、他府県の方にはちょっとニュアンスが伝わりにくいようにも思いますし…。
ま、だいたいにおいて、京都の人間は素直に誉めたら損!みたいに思っているところはありますね。どこかちょっとケチをつけとかんとあかんかのような…。と言うても、それほどの悪意ではなく、悪口を言うことで、その場にいる人とのちょっとした連帯意識を持つ…といった感じでしかないのですが…。このことが、よそさんからは「京都人のいけず」ととられるのでしょうね…。

*京都弁:当然、京都は都ですから、「京都弁」というのはあり得ないはずです。「京都弁」やのうて「京ことば」です!

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◆ 京都でお商売しよと思たら…(2) とにかく「ほんまもん」を置きなはれ!
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副業に手を出さないことは言うまでもなく、多種目を扱わないことはまさしく京都商法…と、先号で書きました。また、vol.28の霜降号では、もし、その品をマンションの1Fのテナントに陳列すればとても素敵に見えたはずなのに、旧い町家の店の間に置かれると、何だか、その値打ち以下に見えてしまったりする一方、本当によいもの、本物を並べると町家の重厚さとあいまって、より輝きを増すように感じる…と書きました。
町家に限らず、京都でお商売をしようと思ったら、「ほんまもん」を扱うことが何よりも肝要です。
京都のみならず、全国的に有名な、堀場製作所会長の堀場雅夫氏の言葉です。「技術でも人生でも経営でも、一流を目指すなら八合目までは自らが研鑚を積み、高めておかなければならない。私はその点幸運だった。京都という町に生まれ育ったからだ。まったく自力でゼロ合目から八合目まで登るのは実に大変なことだ。だが京都に生まれ、育てば、それだけで八合目まで達することができる。他の地域出身の人は気を悪くするかもしれないが、生まれたときから京都の町の文化に触れてきた京都人は、本物を見る目、本質を洞察する資質を育まれているのである。だから京都で起業した人は成功率が高い」。
京都・洛中というのは、他の地域よりも美術工芸品や伝統産業、芸術にたずさわる職業に就いている割合が非常に高いです。それも、一級品が標準仕様です。その辺をひょこひょこ歩いているおばあちゃんが皇室献上品を製作されていたり、崩れそうな町家の住人が清元の人間国宝だったり…。

そういう京都人を相手にお商売をしようと思ったら、その審美眼に耐え得る商品を並べないとお話にならないということです。

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◆編集後記
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大雪号、いかがでしたでしょうか。上記の優良住宅のTV番組ですが、放映の予定は、12/23(月)夜7時ごろからTV朝日系列のスペシャル番組で、「住宅特番2(仮題)」です。お時間ありましたら、視てやってください。西陣の元大宮通にある、出格子の物件(仕舞屋)です。
TVのロケもさることながら、年末に近づき、不動産も動きが出てきました。誠に勝手ながら、ご来店いただく方は必ず事前にお電話かメイルをくださいますようによろしゅうお願い申します。

♪2003.12.22 冬至 Vol.32
こんにちは、エステイト 信の井上です。風通信・冬至号をお届けします。
先日、とある仕出屋さんのおかみさんから電話がかかってきました。「今度、I先生がご飯を食べに来てくれはるいうてお電話があったんやけど、I先生は確か鶏(とり)は食べはらへんいうて聞いてたけれど、他には何ぞ食べはらへんもんはあらへんやろか? 井上さんとこ訊いたら教えてくれはるかと思て電話させてもらいましたんや」と。確かに、うちはI先生ととても親しく、I先生にこのお店を紹介したのもうちなのです。
このお店は仕出屋さんなのですが、一日に一組だけ、お店の2階でのお食事を引きうけてくださいます。と、いうても、まず一見(いちげん)さんはいらっしゃらないとかで(と、いうよりご存知ない?)、うちもここぞというときには利用させてもらっています。
お料理は予算をお伝えして内容はお任せで…と頼むことが多いのですが、そんなとき、上記のようにおかみと大将は献立をあれやこれや苦心してくださるようです。せっかく来てやろ…いうてくれたはるのに、「何がお嫌いですか?」なんて、訊ねられへん!ということなんでしょう。この感じ、分かってもらえますやろか…?

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◆ 京都でお商売しよと思たら…(3)   「一見(いちげん)さんお断り」て…?
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京都・洛中や京都人のことを如実にあらわす言葉や言いまわしのひとつとしてよく挙げられるのが「一見さんお断り」。「京都人のいけず或いは排他性」だとか、「敷居を高くして値打ちを上げようとしている」とか、あまりよい意味ではつかわれていないようですね。
本当のところはどうだと思われますか?
実は、お客さまに対しての気配りから生まれた…という方が本当のようです。いろんなことを「うちうちで」やりたい京都人にとっては、一見さんの来ないお店というのはとても有難い。当然、お店のお客同士も周知の仲ですから少々のことは「またかいなぁ、あほなことして」で済ませてくれます。知らない人にまで恥をさらすのはプライドが許さない。そのためにも、一見さんお断りのシステムが必要…と言う方もおられます。
また、お店側にとってみると、一見さんは恐いのです。そのお客さまがどんな方かもわからない。どういうもてなし方をすれば喜んでもらえるのか、わからない。ひょっとしたら、いつものやり方では気を悪くされてしまうかもしれない…。そんなことを考えると、やはり、一見さんでなく、常連さんのご紹介の方というのはちょっと気が楽ですよね。事前にいろいろ情報収集できますし、また、何か粗相があっても、その紹介者の方に責任をとってもろたらよい…という考え方もできます。もちろん、紹介する側もそれなりの心積りでもってお客様を紹介しなければならないのですが…。
例えば、うちが何方かをご紹介する場合、そのお客様に対してどのように応対してくださったかはとても気になります。「おたくからご紹介いただいたお客様が来られて、これこれこういうことでした」と、きちんとご報告くださらないお店には正直なところ次からお客様を紹介するのをためらいます。紹介した方としては、それなりに対応してくださることを期待して紹介するのですから…。
また、うちは一見のお客様というのはほとんどお見えになりません。HPをご覧いただいてメイルの遣り取りがあり、それなりに互いのことを知った上でご来店いただくか、どなたかのご紹介というのが大半です。別に「一見さんお断り」をしているわけではないのですが…。ただ、町家の賃貸・購入に関して、他の不動産の仲介とは違った面が多々あることを考えますと、たまたま通りかかったから覗いてみた…というお客様とはそこそこコミュニケイトできるまでにそれ相応の時間がかかります。ご紹介者の方がある場合は、うちをご紹介くださるからにはうち向きのお客様なんやろなぁ…ということで、すんなり話の突破口が開けることが多いです。

京都のお商売人がよく言うことには「お客と顧客を区別しなさい」というのがあります。初めて来たお客様は真の客とは認めない。永いお付き合いの中にしか顧客は存在しないという考え方でしょうか。また、一面、新しいお客様にとびついて、ついついいつものお客様をないがしろにすることのなきよう…という戒めもあるようです。

「お客と顧客」…常に頭の中に置いておかんとあかんことです。

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◆編集後記
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冬至号、いかがでしたでしょうか。今年もご愛読いただき、ありがとうございます。本年の発行はこの冬至号でお仕舞です。新年は、1月6日小寒号からの予定です。来る年も変わりませずよろしくお願い致します。

先号でもお知らせいたしましたが、優良住宅・欠陥住宅のTV番組に出演しております。放映の予定は、明日12/23(月)夜7時ごろからTV朝日系列のスペシャル番組で、「住宅特番2(仮題)」です。お時間ありましたら、視てやってください。西陣の元大宮通にある、出格子の物件(仕舞屋)です。