着生蘭の栽培

ナゴランの栽培
はじめに基本的な考え方をご覧ください。

ナゴランの生育サイクル

生育状態

管理と作業は生育のサイクルにあわせて行います。下の表は生育の目安です。

ナゴランの生育サイクル

無加温の状態で冬越ししたナゴランも、4月になると葉が生き生きと張りを戻し、付け根に花芽が見え始めます。 やがて株の頂部から新しい葉が顔を出し、株元からは 新根が出てきます。また前年伸びた根の途中からも新根が枝分かれしたり、先端が伸びたりします。 生育期に入ったサインです。

夏場に新しい葉が1〜3枚出て、10月頃に下の葉が1、2枚枯れ落ちて休眠します。

開花の時期

6月〜7月にかけて開花します。フウランよりも少し早い時期になります。
通常、前年花茎を伸ばした葉のすぐ上の1、2枚の葉の付け根から1本の花茎を伸ばし、10輪前後 の花を咲かせます。充実した株の場合には花茎が枝分かれすることもあります。 セッコクやフウランと違い、花形と花色の変異はほとんどありません。斑紋や斑点の数と色の濃さがちがう程度です。

斑紋が全くなくなると白花(東洋界では素心、洋蘭界ではalba=アルバ)になり、唇弁全体に色がのるとベタ舌 等といいます。黄花と称して薄黄色の花を咲かせる株もありますが、色は安定しません。

花の可憐さは勿論ですが、ナゴランの魅力は芳香です。昼間匂いを発します。花は一週間ほどもちます。

ナゴランの入手について

一般の園芸店では、通常の開花より早く5月頃に開花株が流通します。花の咲き方は年によって 変化することはなく、毎年似たような斑紋が入り、匂いがします。好みの株を選びたいところですが、 流通量が少ないので選択の余地はあまりありません。 肉厚で張りのある葉がたくさんあり 根の数が多い株を選びましょう。

葉芸物について

葉の変わりものとして、矮化した丸葉、出芽時に薄い黄色で葉が展開する曙、あるいは縞などがあります。 セッコクにおける長生蘭、フウランにおける富貴蘭のような古典園芸植物と同じ扱いでしょうか。 花は咲きにくく、咲いたとしても普通種と変わりません。一般的ではありません。


管理

夏場

ナゴランの育て方はセッコクの栽培に準じます。 セッコクの管理 も参考にしてください。

生育期のナゴランは

直射光を避けて湿度を保つ

ように心がけます。

灌水

セッコクよりも湿った状態を保ちます。セッコクと同じ様な植え方で水苔に植えた場合

ナゴランにだけ水を掛けるのは面倒なので、植え方を変える方が楽です。

ヘゴ着けの場合は水をたっぷり掛けます。日本でも多雨地帯に自生しています。特に梅雨時は積極的に雨に当てるか 毎日水を掛けましょう。根もぐんぐん伸びます。

遮光

半日陰に吊るすのがよく、直射光は望ましくありません。

肥料

4月になったら、鉢の縁に緩効性化成肥料を置き、 根の先が伸びている間は2000倍程度に薄めた液肥を追肥として与えます。油粕を置くと根を傷めます。

病害虫

ナメクジが大敵です。

冬場

保護が必要ですが

過保護はだめ

冬はしっかり休眠させます。15℃以上の暖房した部屋の中では正月頃から花芽が伸びだし、 3月には花が咲いてしまいます。明るさ・湿度も併せて確保しないと貧弱な花しか咲きません。

10℃前後の明るい無暖房の部屋に置くことができれば、いい状態で休眠します。 この場合は10日に一度をめどに水をやります。

凍結の心配が無ければ戸外で越冬できます。 寒風を避け、乾燥を防ぐためにビニールで覆った簡易フレームの中入れて、月に2回ほど軽く水を掛けます。

夏はコチョウラン、冬はフウラン

ナゴランはコチョウランと非常に良く似た形態です。分類学の資料では フウランともどもバンダのグループに属しています。同じ仲間が台湾あたりで留まったのがコチョウラン。 北方へ進出したのがナゴラン。さらに寒さと乾燥に耐えられるように進化したのがフウランということでしょうか。 フウランとバンダ、フウランとナゴランの交配種が昔から作られているのも同じ仲間だからこそで、納得できます。
このことを踏まえてナゴランの育て方を端的に言い切ってしまうと、夏はコチョウランのように強光を避けて湿度を保ち、冬は フウランと同じ様に冷温下で乾燥気味にして休眠させる、といえるでしょう。ただしフウランよりは保護が必要です。


作業

植え替え

植え方はフウラン とほぼ同じです。

水苔で植える場合もヘゴなどに着ける場合も、生育開始直前の3月末から4月に作業します。

水苔で植える

ほぼ2年おきに水苔を全て交換します。根が太く、本数も少ないのでセッコクに比べると作業ははるかに楽です。 折らないように気をつけます。
置き場の乾き具合に応じて、中空にする・中心まで水苔を詰める・発泡スチロールか木炭を芯にする等、 いずれかの方法で山形に盛り上げて植えます。→植え込みの参考画像

ナゴランの種子をフラスコ培養するときに、培地に活性炭の粉末を入れておかないとうまくいかないそうです。 自ら出した老廃物で弱ってしまうのが原因らしいのですが、この老廃物を吸着させる活性炭と同じ作用があるのか、 木炭を芯にすると生育がいいような気がします。水分を保持でき、水苔の節約にもなるので3.5号以上の鉢の場合に適します。

洋蘭の培養土で植える

カトレア用の培養土で簡単に植え込むことができます。ただし水苔に比べて乾きやすく、肥料保ちが劣ります。 微量要素も不足するのか、水苔で植えた場合よりも生育が鈍くなります。プラ鉢を用いて根の生え際まで植え込みます。 あとの管理をこの培養土に合わせることができれば便利な植え込み材です。

ヘゴに着ける

ヘゴ着けの詳細は作業編

活着するまでは水苔で植えた場合と比べて厳しい条件で生育することになるので、 作業後の水分保持と遮光には気をつけます。新しく伸びてきた根しか着きません。古い根はしっかりとヘゴにくくりつけておきます。

流木やコルクにも同じようにして着けることができます。


増殖

無菌培養による種子繁殖以外、ほとんど増やすことができません。

株分け

単茎性の性質が強いようで子株はまず出ません。(自生地域での栽培については不明)
手元に数株あれば、中には子株を出すものが現れる場合があります。不思議なもので、子株を出す株は次々と 出す傾向があり、出さない株は葉が20枚を越えるような大株になっても出しません。個体の性質によるのか、 あるいは株の状態や管理・環境によるものかわかりません。
子株が出てきたとしても、株分けしないで大株にして豪華に楽しみたいものです。

古い茎を切り離したところ、下の生き残っていた部分から脇芽が伸びたことがあります。 →参考画像  しかしこれは増殖法として積極的に行う方法ではありません。


ナゴランはセッコクやフウランに比べると少しだけ育てにくい面があります。 セッコクほど生育のリズムがはっきりしていません。フウランほど夏の陽に強くありません。 しかし、少しだけ気を使ってやれば決して栽培の難しい蘭ではありません。開花時の素晴らしさは 苦労を補って余りあるものがあります。