俳句の読み方10

磯野 香澄   

< 波 の 間 や 小 貝 に ま じ る 萩 の 塵 >  
  この句は芭蕉が種ガ浜にある本隆寺へ寄った時のもので、俳文と共に懐紙に書いて渡したと奥の細道の文中に書いてあり、それを慕って多くの俳人が訪れて、お寺ではそんな人達に小さい貝を袋に入れて渡していました。その貝は萩の花にとてもよく似ていて見た途端にこの句を思い出したものです。人によっては小貝の中に本当に萩の塵が混っていると解釈している様ですが、<小貝に混る>と書いてあるのですから、貝のいる様な底に塵が沈む訳は無いので「萩の花に似た貝が他の貝の中に混っているのが波の間に見える」と言う事です。芭蕉の作品で比喩の句が割合あるのですが、現代俳句の様に何でも如しにすればよいと言うのでは無く、この場合水が澄んでいて底がよく見えたそして、萩の花に似た珍しい貝が一杯いるのでそこに心ひかれた。と言う事になります。しかし何故この程度の句を奥の細道に搭載したかと言う事ですが、それは訪れた所の特徴を詠むのが当然で、又種ガ浜で句心を動かされたものが余り無かったとも言えます。俳文を渡している事からでもそれが伺えます。  
 
< 派 出 所 の 錠 に 錆 く る 冬 の 浜 >  
  この句は芭蕉さんの萩の塵よりもっと小さくて、「錆」です。しかも<錆来る>と言うのですから、こんな微小な句材はまあ無いと言えます。しかしこれで夏から冬迄の時間を書いているのです。少し絵解きしますと、夏には警官の常駐が必要な程賑わった浜もその派出所には錠が掛けられ、その錠も触る者がいないので錆が来て曇っていると、誰もいない冬の浜の情景を書いています。イメージして冬の浜を体感して下さい。
 
< 廃 線 の 鉄 橋 灼 け る 貿 易 港 >  
  <廃線の>とは下五の<貿易港>で時代と共に鉄道が廃止されている事が伺えます。そしてその線路も路面には跡形も無くなり、鉄橋の部分だけが鉄道が敷かれていた事を物語っている。その赤錆た鉄の橋が触るとやけとをしそうな程夏の酷暑に灼けている。今は輸送手段が船から自動車に効率よくなって、港は活気があるけれど、消えて行った鉄道の寂しさが、わずかに残る赤く灼けた鉄の橋に見られる。今の繁栄を支えた時代の変遷を裏から感じている。その情景をイメージして同化して下さい。
 

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