俳句の読み方11

磯野 香澄   

< 早 苗 取 る 手 元 や 昔 忍 ぶ 摺 >  
  <昔忍ぶ摺>奥の細道で書いてあるのですが、ちょっと説明しますと、[その昔ここにあった岩を草でこすると恋しい人の面影が浮き出ると言うので、ここを通る女達が岩をこするのに作物を抜いて田畑を荒すので、その岩を谷へ落してしまったのだ」と芭蕉はそこに居た子供達に聞くのです。その後で苗取りをしている風景を見て<早苗取る手元や>とその事を書いています。推敲の時点で「早苗つかむ」ともあり、どう書けばその言い伝えを表現出来るかと言葉を探している苦労の跡が伺えるのですが、昔乙女達がこんな風にして稲等を掴んで抜き、田畑を荒らして顰蹙をかっていたのだと、芭蕉は苗取りをしている女達を微笑み乍ら見ている。<昔偲ぶ摺>こうして抜いた草で恋しい人の面影を見ようと岩を擦ったのだろうなあ。「昔]一字で早苗を取っている今の乙女達と、かつて岩を擦った女達の姿を繋いでいます。情景に臨場して句の妙味を味わって下さい。  
 
< 薫 風 や 竹 師 竹 裂 く 京 の 軒 >  
  「薫風」とは逆さにして「風薫る」とも言いますが、俳句でどちらを使うかはその言葉にどんな力を持たせたいかで使い分けます。この場合<薫風や>としてこの言葉にうんと思いを込めています。そしてこの「や」にはとても重労働をしてもらっています。この「や」は<竹師竹裂く>と言う中七とを完全に切り内容が全く違うのにその違った二つの内容の芯を貫いているのです。どう言う事かと言いますと竹を裂く音と言うのは節毎に小気味よい音がしてとても爽やかな気がします。そして「京の軒」だいたい京都の家は間口が狭くて奥行が深く薄暗いのですが、この竹屋さんは作業場の為に全部土間になっていて、そこへ長い竹を積んで一本づつ裂き、竹細工の下ごしらえをしている。そうした作業風景があり、そこを爽やかな音と風が吹き抜ける。「薫風」を使った理由として竹を裂く音に対応させ又内容を表現する為にや切れにしていると言う事です。京の軒の作業風景をイメージして同化して下さい。
 
< 緑 陰 や 釣 瓶 錆 た る 御 猟 宿 >  
  <御猟宿>大正の頃迄京都の北部の山村に御猟場と言って宮内庁管轄の猟場があり、村人達も猟に駆り出され賑わった様です。しかし皇室は東へ行かれ時代も替ってそんな事が行なわれて居たと言う話さへ聞く事もなくなったのですが、皇族や軍人等のお宿になっていた旧家にその当時料理をしたと言う炊事場に、使われ無くなった井戸があり、蓋をされその上に錆びた釣瓶が大事そうに載せてあるのです。その釣瓶一つにかつての様子が伺われ、又旧家だけあって大きな樹々が繁り、御猟場として賑わったであろう当事が想像されるのです。この作品は芭蕉の「忍ぶ摺」の句の「昔]一字で年月を書いてあるのと同じく、釣瓶が錆びている事で百年の時間と歴史を書いています。イメ−ジして臨場して下さい。
 

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