俳句の読み方12

磯野 香澄   

< 一 つ 家 に 遊 女 も 寝 た り 萩 と 月 >  
  この句は<遊女も寝たり>が<遊女と寝たり>「も」と「と」の一字違いの面白さで知られている句です。芭蕉さんはきわどい事を言っている様にみえて大真面目です。<萩と月>は月に萩はつきものだけど一つになる事は無い。これは遊女と芭蕉さん自身を萩と月に比喩して言っています。この話は奥の細道で芭蕉は宿をとり襖一つ隔てて聞こえて来る隣の客の話し声に女が遊女だと知るのです。俳句の特質として大げさに書くと小さくなり控え目に書くと、とても強く表現出来ると言う風に反転する事が多くあるのですが、この句はそんな代表見たいなもので、大層な事が書いてある様で、何の事は無い隣の客が遊女だと言うだけの事でした。他の句で何気無くサラッと書いてある句に色っぽい句が案外多くあります。  
 
< 板 の 間 に 素 足 の 太 夫 初 点 前 >  
  太夫さんもすっかり観光向きになって、「太夫」と言うのは正確でないかも知れませんがまあ堅い事は言わずに、板の間に立って、観光客の為にお茶を立ててサービスする太夫さんの足元を見てびっくりしました。素足と言う事にどんな意味があるのか知りませんが、そこが太夫さんなのだろうとそれにしても強い衝撃を感じました。この句の読み処は「板の間に太夫は素足で」とした場合は普通の文章で単なる写生ですが、<板の間に素足の>として、太夫の特異性とそこから受けた衝撃を表現しています。イメージして同化して下さい。
 
< 掃 き 清 め 遊 女 の 墓 の 菊 白 し >  
  <遊女の墓>京都鷹ガ峰の常照寺、多くのお墓の中にかつて名高かったと言う遊女のお墓がありそこだけが一際手入れが行き届いていて、大きく心に感じるものがありました。<菊白し>白い菊が花筒にさしてあったのですが、ここで「白い菊」と言うのと「菊白し」と反対にしているだけですが、意味は大きく変ります。<掃き清め遊女の墓に白い菊>だとしたら、単なる写生句で読み手は「あそう」で終りです。<菊白し>白い菊が殊更白いと言う事によりお寺が手厚くお守しているのが伺え、そこに色んな思いに心動かされた気持が「し」一字で書かれています。白い菊の供華に焦点を当てゝイメージして下さい。
 

俳句の読み方トップ

戻る  次へ

トップ 推敲 絵解き

アクセスト 出版ページ ギャラリー