俳句の読み方13

磯野 香澄   

< 田 一 枚 植 え て 立 ち 去 る 柳 か な >  
  この句は誰が<立ち去る>のか。芭蕉が自分が立ち去るのを想像していると言う人もありますが、私は芭蕉が本当に田植をして立ち去るのだと言い切ります。旅人の芭蕉がどうして田植が出来るかと言う事ですが、先づ俳句にそう書いてあるからです。それは<柳かな>この「かな」は「あゝあゝ」と言う意味になります。<柳>は柳の木の事なのですが、それともう一つ芭蕉は西行の立たれたと言う柳を自分も見たいとわざわざ来たのですから、この有名な柳の木の下で感慨に耽りたいのです。それが「もう立ち去るのだ。あゝあゝ」と名残惜しんでいます。ではどうして旅人である芭蕉が田植など出来るのかと言う事になりますが、芭蕉さんは道中いろんな所に泊めてもらい、そのお礼にそこの手伝いをしています。そうする事で土地との馴染みも深くなるし俳句の句材との出会いも多くなり、それが旅と言うものかも知れません。その事からもお百姓さんに田植を手伝わせて下さいと頼んだ事が容易に伺えます。芭蕉は田植えをする事で柳に深く係わりたいと思ったけれど、他の人と共に立ち去る事になって、もっと柳の下でと心残りに思っている。芭蕉さんの残念さに同化して味わって下さい。  
 
< 村 人 の 車 断 わ り 藤 の 道 >  
  先の句は頼んだのですがこの句は反対に断っています。山道を走っていたら藤が余り美しいので車を止めて貰い、一人でその景色を楽しみ乍ら歩いていたら後から来た仕事帰りらしい人が「車に乗せて上げよう」と言うのです。せっかく降して貰って楽しんでいるのに、親切は有り難いけれどこっちにも事情があると言う処です。藤の紫の中を一人歩くのはリッチな気分でした。この句のポイントは<断わり>の「り」です。この「り」が、最後の<藤の道>の「道」に関わった時句に命が宿ります。イメージで美しい藤の道を歩いて下さい。
 
< 大 杉 の 根 元 や 三 輪 の 冬 日 向 >  
  芭蕉さんは柳の下に居りたかったのですが、今度は杉の木の下に安らぐ句です。何故三輪なのかと言う事ですが、く明るい冬の日向。何も考えずにぼうとする程の安泰感。これが大和盆地の歴史に培われた安らぎでは無いか。三輪でこそ感じられた句境だと言う事になります。この句の読みのポイントは<大杉の根元や>の「や」です。この「や」は切れ字で場所を一旦切って<三輪の冬日向>と閑かな冬の日向は三輪を代表する日向なのだ。と大和人の感慨をうながす力を溜め込んでいます。イメージして日本の故郷に安らいで下さい。
 

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