俳句の読み方14

磯野 香澄   

< 野 を 横 に 馬 引 き 向 け よ ほ と と ぎ す >  
  この句は芭蕉さんがほととぎすに喋っています。ほととぎすは鴬と同じ頃に人が喋っている様な調子で鳴く愛嬌のある鳥です。芭蕉はほととぎすが自分に喋りかけていると思う程、よく鳴くので<野を横に馬引き向けよ>「そんなに言うのならほととぎすよ、野道を通っている馬をその鳴き方でお前の方へ向かせてみよ」と思わず言っている。読みのポイントは、<引き向けよ>の「よ」と<ほととぎす>の「す」が響き合った時、キョッキョキョッキョキョキョッキョと音程を替えて鳴き続けるほととぎすに、気持を奪われ本気になっている。その芭蕉の気持に同化する処です。春の野をイメージして芭蕉さんとほととぎすのやり取りを聞いて下さい。  
 
< 花 の 下 孔 雀 は 我 へ 羽 根 広 げ >  
  ペットと飼い主の気持の通じ合いは深いと言いますが、野生やそれに近い動物でも結構人にちょっかい掛けて来ます。私に鳴きに来た鴬も二度経験していますし、放し飼いにしてあった孔雀が桜の花を見ている私の目の前へ来て美しい羽根を目一杯広げて見せてくれました。それにはびっくりやら以外やら感心やらで目を見張りました。孔雀は「どうだ凄いだろう」と言わんばかりです。桜の花の下で二メートルと離れていません。孔雀はその美しい羽根を見せびらかすのです。私は密かにこの孔雀は私にラブコールしていると思いました。読みのポイントは<我へ>の「へ」が<羽根広げ>の「げ」に働いた時その情景が憑ります。この<我へ>の「我」は読み手の事になります。この情景に同化して快感にひたって下さい。
 
< 枝 曲 げ る 梅 や 三 方 の つ む る じ 風 >  
  三方五湖の一つ福井県の水月湖に面した梅畑。そこの梅の枝が皆横へ曲がっているのに気付きました。梅の枝振りは美しい物ですが、この枝々は同じ方へ曲がってしんどそうなのです。探梅を終え強い風に首をすくめ乍ら水月湖のほとりで見ていたら、水鳥が岸へ上り始めました。水面に三角波が立つのです。強い風が回っています。その風は梅の枝にも容赦なく吹き付けて居ます。この句の読み処は<梅や>の「や」です。このや切れで梅と風を完全に切り離し、その後で上下の曲がると言う共通点で意味する処に繋いでいます。又<梅や>の「や」に梅が苦労をしているなあと言う思いを込めています。つむじ風に吹かれる梅をイメージして下さい。
 

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