俳句の読み方17

磯野 香澄   

< 五 月 雨 を 集 め て 早 し 最 上 川 >  
  奥の細道で芭蕉は舟で最上川を下ります。文中(最上川乗らんと)とあり、冒頭の月日は百代の過客にしてと言うくだりと共に、読者をしびれさせる処ですが「最上川乗らんと」と舟とは一字もありません。そこからでもこの句は舟で見ていると言えます。普通岸から見る大きい河はたゆとうとしているので、この句は流れの早い所で水嵩が増え、競う様に早く流れている事を詠んであるかと思えますが、ゆっくり流れていると見える最上川も舟で行く中央は結構早くて、それが水かさが増えると、この句の状態になるのだと。カギは<集めて早し>です。両側から雨が流れ込んで中央で集まり、普段でも中央は流れが早いのにそれが五月雨で水かさが増え非常に早くなっている。<五月雨を集めて早し最上川>と読みくだした瞬間、読み手は舟に乗って進んでいます。同化して舟足の早さを体感して下さい。ポイントは「集めて」の「めて」と「早し」の「し」が一つになる時です。二つの動詞が一つの言葉になる妙です。  
 
< 鴨 河 へ 一 滴 づ つ の 岩 清 水 >  
  先の最上川は水がいっ杯で今度は鴨川で一滴です。鴨川の源流である雲ガ畑、美しい岩から滴たる一滴の水。こうして一滴一滴が集まって大川になる水の不思議。雲ガ畑を故郷に京都市街に住む作者に取っての感慨があるのですがそれはともかくとして、ここで味わう清涼感。<一滴づつの>の「の」が読み方のポイントです。この「の」が<岩清水>の「水」に届いた時一滴の水がポトッと流れに混じります。そしてこの涼やかな水が、うだる様な暑さの京都市街へ流れて行くのだ。この清涼感と感慨。同化してみて下さい。
 
< 池 の 堂 弁 天 さ ま の 風 涼 し >  
  池にお堂があればお祀りしてあるのはたいがい弁天様です。この弁天様は霊力が強くてか、お堂の中がイヤに涼しい気がするのです。そこでこの句は<弁天様の風>と言い切っています。本来は弁天様の堂に吹く風と言う処なのですが、この涼しさは弁天様が吹かせているのだ。とカリスマを効かせてこの涼しさを表現しています。有情俳句の特性である憑り(のりうつり)と句の内容である霊力が重なって完全に同化すると<弁天さまの>の「の」と<涼し>の「し」で背筋がゾクッとする涼しさになります。試みて下さい。
 

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