俳句の読み方3

磯野 香澄   

< 古 池 や 蛙 飛 び 込 む 水 の 音 >  
  この俳句は俳句の頂点に位置する作品で当然読み方の基準になります。先ず<古池や>で一旦切ってあり、切る事によって池の情景に深い思いを感じさせる効力が発生しています。普通に書けば「古池に蛙飛び込む水の音」です。処がこれでは読み手は何の感慨も感じません。<古池や>と、や切れにして池のイメージを充分換気させて置いて、次に移ると言う事になります。読み手は素直に一字一字書かれている通り感じて行けば、自分のイメ−ジした池に蛙が飛び込んでその音が聞こえてきます。そしてその余韻を感じているのです。その時読み手はこの句に同化し憑って、この句を自分の情感として感じているのです。俳句とは読み手が自分の情感としてその句に同化し楽しめばよいのです。この古池の句は皆が無意識の内にそのようにして、人々の心に棲み憑いて来たのです。  
 
< 断 崖 の 松 の 枝 折 れ 冬 怒 涛 >  
  俳句は先に書いた様に書いてある通りにイメ−ジすれば良いので、この場合も断崖の厳しい条件の処に松が頑張って生えている。その松をイメ−ジし、その松は海から吹きつける強い風の為に枝が無くなっている。そんな情景のイメ−ジが起れば自ずと冬の荒々しい波、怒涛の打ち寄せる風景が浮びます。打ち寄せる波の音も聞こえます。その時厳しい情感に同化し、どんな思いになったかは読み手それぞれです。風景に吸い込まれそうになったら書いてある通り読めたと言う事です。
 
< 断 崖 に 椿 二 三 花 海 光 る >  
  同じ断崖でも椿が二三咲いて海が春の陽射しにきらきらと光っていると言うと、先の句と全く異なった情感が棲み憑きます。読み処としては取立る処はありませんが、厳しさの中にそれでもけなげに椿は咲いている。ふわっとして暖かいのです。先の句と比較の為に取り上げました。(日本語を正しく使いたいので四五輪と書く場合がありますが、情感として二三花とする方がしっかりしますのでここでは<二三花>として説明しています)
 

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