俳句の読み方20

磯野 香澄   

< 痩 せ 蛙 負 け る な 一 茶 こ こ に あ り >  
  これはよく知られた一茶が蛙を応援している句ですが、今ではこの様な光景が無く何故蛙を応援しているのか分りませんが、当時はよくやっていた遊びだそうです。見ている一茶は本気です。<痩せ蛙負けるな>それぞれに持ち寄った蛙は色々なのがいるのか一茶は痩せた蛙を勝たせたいのです。そして<一茶ここにあり>と「一茶がついているぞ負けるな」と丸で大相撲を応援している様なものです。自分の名前を名乗って弱そうな蛙を応援している。これは一茶の人となりを如実にしています。そして一茶独特の表現の仕方に読み手はころっと憑り、一茶になって蛙を応援しています。<痩せ蛙>と呼んで一茶に同化してみて下さい。この句のポイントは「一茶」と言った途端に読み手が一茶にすり替っている処です。  
 
< つ い て 来 る 鵞 よ も う 無 い 懐 手 >  
  池でガアガア鳴いているガチョウの一団の処へお菓子を持って行ったら取り囲まれてしまいました、沢山いるのでお菓子はすぐに無くなりそれでもガチョウは催促します。抜け出しても着いて来るのです。<もう無い>と言っても通じません。こうなったら姿で見せるより仕方が無い。<懐手>をして、手を隠したら分るだろう。「懐手」は手を暖めるのに着物の胸へ入れるのをこう言ったのですが、服のポケットに手を入れるのもこう使います。この句は餌が無くなってからの風景を書いて先に何をしていたかをも書いています。イメージしてぞろぞろ着いて来るガチョウの可愛さに同化して下さい。この句のポイントは「ガチョウよもう無い」と読み手が作者になってしまう処です。
 
< 徐 行 車 に 猿 が 群 が る 花 の 尾 根 >  
  桜満開のドライブウエーをゆっくり走っていたら、猿の群れがボンネットに乗ってきて走れなくなりました。猿達はしめたとばかりに群がるのです。迷惑と思い乍らも可愛いいので食べていたお菓子を少し窓を開けて渡すともう向こうのペースです。終いに袋の侭持って行かれてしまい完全に猿の勝ちです。この句は山の上で桜を見ながら野生の猿に関わって結構喜んでいます。読みのポイントは<群がる>の「る」と<花の尾根>が一つに働いた時喜びが浮き上がって来ます。こんなくだらない事にたまには引き込まれてみませんか。風景をイメージしてください。
 

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