俳句の読み方21

磯野 香澄   

< 笠 島 は い づ こ 五 月 の ぬ か り 道 >  
  この句は奥の細道の道中困難な事が色々あった中で、笠島を目指している時の難儀さが詠んであります。五月雨でぬかるんだ湿地帯。道もどうなっているのか分からない。行くに行けず帰るに帰れずと言った状態で「笠島はどう行けばよいのだ」と二人の男が泥まみれになってよろけている。この句は読みの中に一字として特別な効力を持つ字はありませんが、<いづこ>で今の思いが書かれていて、この「いづこ」と<ぬかり道>が響き合い読み手は同化しています。十七文字の言葉が何十行もの文章を読んでいる気になります。ポイントは「いづこ」と言う具体的な表現と思いを表す二つの働きをしている処です。  
 
< 南 天 の 土 塀 や 昔 関 所 道 >  
  山科から大津へ越える逢坂山に関所があったとその旧街道に道標があり、かつての雰囲気が何と無く漂っていました。古い土塀から赤い南天が覗いているその立たずまいに、昔関所を通る人達が往き来していたんだなあと、言う実感がするのです。ほかにもそんな形跡の伺える処は無いかと辺りをキョロキョロ見回していました。読みのポイントは<昔>です。この一語で時の流れを瞬時にして<昔>と<関所道>の「道」が響きあった時憑って、あちこち見回しています。同化して土塀の辺りで、昔関所道だったのだなあとそこらを見回して下さい。
 
< 一 人 旅 風 の 落 ち 葉 に 追 い 越 さ れ >  
  この句は西村最上の作品で、旅の道すがら話す相手も無く<落ち葉に追い越され>て独り言を言っています。一人旅の哀愁を吐露しているのに、その情け無い風景の寸描で色んな心理描写になっています。「落ち葉にすら追い越されて」と言いながら惜寂感は無く、真面目に言っているのにくすぐりになっている。普通自分のマイナ−な事は余り言わないものですが、それを句にする事によって笑いを誘い面白味を促している。<風の落ち葉>は「風」と「落ち葉」の間に省略があり、そこが一つの読み処となっています。読みのポイントは<落ち葉に>の「に」と<追い越され>の「れ」が一つに働いて読み手は風に吹かれる落ち葉に足をすくわれた感じがして、自分の経験を思い出し、そうやそうやとニヤリとします。
 

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