俳句の読み方4

磯野 香澄   

< あ か あ か と 日 は つ れ な く も 秋 の 風 >  
  この作品は短歌が下敷きにあるのですがその本歌と同じ言葉を使いながら、内容的には全く異なり芭蕉独自の情感が溢れんばかりの完成振りです。この作品を口にすると私はこの情感に同化してたまらない気持になるのですが、芭蕉さんもこの句が一番お勧めだった様です。そこでどう読むかと言う事ですが、先ず<あかあかと日は>で、この言葉は赤いを重ねて夕日が落ちて行く状態を示し、次に<つれなくも>と、つれなくは難面と書いてふりがなしてあるのですが、つれないと現在の言葉と同じ意味でその侭感じれば良いと思います。そこからすぐに<秋の風>と結んであるので、この中七と下五の間に無言の省略があります。それは上五中七と視覚から言うていて、下五は秋風を肌で感じている。この<秋の風>は風が吹いているのをきょろきょろ見て言うているのではなく、視線はあくまでも沈みかける太陽に吸いつけられた侭で、目と心は沈み行く太陽にそして秋風を肌で感じている。この状況に同化し、ご自分の情感として味わって下さい。  
 
< 升 酒 で 一 会 を 語 り 榾 火 の 輪 >  
  この場合榾火の説明がいるかと思います。それはお正月に神社等で参拝者の為に焚火してあるのを主に言います。榾とは大きな木の枝を切り取ったのを言いそれで焚火するのですから榾火です。<升酒で>京都の松尾大社はお酒の神様で、祈願したお酒をそれ用の升に注いで授与と言うか売ると言うか、そばには榾火が焚いてあってそこへ升に注がれたお酒を持って行き火にあたり乍ら呑むのです。知らない同士が輪になって色んな事を話している。状況説明になってしまい知っている方には無駄な事になりましたが、どうかイメージで同化してその気分を味わって下さい。
 
< 灯 り 消 し 窓 の 手 枕 天 の 川 >  
  <窓の手枕>とは「窓辺での」と言う事になります。<天の川>は七夕の星逢いでそのイメージです。窓辺の手枕で仰ぐ空に銀河が伸びその中には星が逢っている。ドキュメンタリーの一コマをご自分のものとして体感して下さい。読み方としては上五中七と続けて読み、「枕」と「天」の間が省略されていてそこに思いが込められています。この場合枕の「ら」が切れ字になっています。
 

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