俳句の読み方7

磯野 香澄   

< 象 潟 や 雨 に 西 施 が ね ぶ の 花 >  
  象潟とは地名ですからこの言葉に思いを込めて<象潟や>と書いてあると言う事は、象潟に心ひかれての句です。<雨に西施が>西施はおんなの人の名前です。<ねぶの花>ねむの花は水が好きな植物で雨の降っている水辺に美しく咲いている。例えば和服の女性が蛇の目傘を差して雨の中にたたずんでいる姿の様に、ねむの咲く象潟の情景はしっとりとしている。この句の言い回し方は高度で微妙な処でその風景と情緒が表現されています。芭蕉の豊かな情緒が溢れんばかりですが、表現が微妙な分だけ読み手は同化出来ません。でも甘い情感をイメージして味わって下さい。  
 
< 池 の 端 の そ ぞ ろ 歩 き も 花 の 雨 >  
  芭蕉さんも何回と無く改作をされていますが、完成度一○○%と言う事は大変なことで、この場合も墨字では<池の端のそぞろ歩きや花の雨>としていますが、ぱっと見ただけではこの方がよいのです。しかしこれでは読み手はこの句を一般的な作品と同じ読み方になってしまい同化する事が出来ません。中七を<そぞろ歩きも>と<も>にする事で現在進行形になり読み手は自分のイメージでこの句を体感し臨場します。<も>と<や>の違いを体で感して下さい。
 
< 平 安 の 美 女 の 井 の 底 木 の 実 溜 め >  
  <平安の美女>平安時代の美女と言う事即ち平安時代を代表する美女と言う事になります。<美女の井の底>とは、美女が顔を洗ったり身体を洗ったりした地面を掘り下げて地下水で洗い場が作ってある井戸の事で、肌もあらわな美女が身体の手入れをしている姿が一瞬イメ−ジとして見えますが、主のいない今は水も涸れてその底には木の実が落ちて溜っている。美女と木の実のイメージがダブって時間の流れ、その歴史が迫ります。
 

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