間歇日記

世界Aの始末書


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2000年6月上旬

【6月10日(土)】
「ONE WAY DRIVE」(江角マキコ)なんぞを聴きながら、あくせく仕事をする。この曲、ギンギンで元気の出る感じがけっこう好きである。というか、曲だけが好きである。江角マキコの歌なんぞは、声フェチ的には全然クるものがない。華原朋美ほどのハズしかたはしないにしても、あまり歌がうまいとは言えない。まあ、ミュージカル系でない女優さんにしては合格点かな。〈SFマガジン〉2000年7月号によれば、「女優が歌を歌うのは、みんな今井美樹になりたいからだ」と音楽評担当の西島大介氏の知人の方はおっしゃるそうなのだけど、そりゃいくらなんでも目標が高すぎないか? むろん努力も大事ではあるが、人間、持って生まれた才能というものがある。今井美樹は、女優出身としては特例中の特例だろう。「女優が歌を歌うのは、みんな今井美樹になりたいからだ」ってのは、「役者が小説を書くのは、みんな筒井康隆になりたいからだ」と言っているようなものである。
 二度と歌だけは聴きたくない女優というのが、おれには約二名ほど思い当たる。酒井和歌子葉月里緒菜である。天性の下手くそとでも言おうか、美しい顔とギャップが大きいだけに、彼女らの歌声は衝撃的ですらある。酒井和歌子はバラエティー番組(『今夜は最高!』だったと思う)で無理やり唄わされていたのを聴いたのだが、葉月里緒菜はCMの女王だったころにCDすら出していたことがあるのだから、勢いというのは怖ろしい。なによりも本人がいちばん厭であったろう。猫にも杓子にも歌を唄わせるのはどうかと思うぞ。あれはきっと、葉月本人にとってもトラウマになっているにちがいない。でも、買っときゃよかったな。「Yahoo! オークション」にでも出せば、いい金になったかもしれん。あそこって、こういうゲテモノがよく出てるじゃん。“怖いもの聴きたさ”って心理は誰にでもあるものである。で、ふと思い立って、ほんとうに「Yahoo! オークション」で検索してみたら、げげっ、で、出てる。シングル「DOIN'THE DOING ― 彼は無我夢中 ―」(葉月里緒菜/東芝EMI TODT-3232/94.5.25リリース)、ほれ、チオビタ・ドリンクのCMで使われてたやつだ。「お父さんなんて大っきらい!」ってアレね。おや、しかも同じCDが二件も出ている。ひとつが開始値が千円、もうひとつが一万二千八百円。ずいぶん差があるな。どちらももうすぐ時間切れなのに、誰もビッドを挙げてない。やっぱり、CMソングだったからバレてるんだよ、中身が。え、おれ? おれは葉月里緒菜の歌なんて聴きたくないってば。

【6月9日(金)】
▼会社の帰りに小腹が空いたので(出たっ、おなじみの書き出し)、マクドナルドでハンバーガーを食う。例によってトレイに敷いてある紙を暇潰しに読むと、どこぞの学習塾の広告である。「35×16=君はどう解く?」などと、読者を君扱いしているのは、小学生対象の塾だからだ。
 なんでも、この塾は「(35×2)×8=560」と教えるのだそうである。なるほど、小学生が読んだら、「おお、エレガントだ」と思うかもしれん。まあ、大人はふつう、こういうふうにやりますわな。
 しかし、だ。「70」がキリのいい数字だから計算しやすいというのは、単なる慣れの問題なのではあるまいかという気もする。もしかすると、最近の子供の中には「35×16」を見て、「おお、16とはなんとキリのいい数字だ」と思うやつがいないともかぎらないではないか。こういう子供には、「16」は自動的に「10」に見え、当然「35」は自動的に「23」に見えるであろう。したがって、答えは「230」だとあっという間にわかってしまうのだが、このままではカタギの人(?)に通じない。「16の二乗の桁が2だから、512で……」なにしろこういう子供にとっては、512というのはとてもキリのよい数字なので、いちいち計算せずとも瞬間的に出てくるはずだ。「……あとは16×3で48……」これもまるで九九のように出てくるだろう。ここまでは頭を使わずとも稲妻のように計算できる彼あるいは彼女は、最後に最も面倒くさい計算をして答えを出す。「512+48は……560だよな。十進では」
 そぉんなやつはおらんやろぉ〜ってか? そうかなあ。このコンピュータ時代、案外たくさんいるのかもしれんぞ。こういう子供は、どこかのテーマパークかなにかの入場口で、「おめでとうございますっ、あなたは1,048,576人めのお客様ですっ!」となぜ言ってもらえないのか、一生、気色の悪い思いをしてストレスを溜めるにちがいない。

【6月8日(木)】
小渕元首相の合同葬が営まれる。それはそれとして、突然まったく別の話題に跳ぶが、たまたま小渕元首相の実子にあたる小渕優子という人が、これから代議士を目指して活動をするのだそうである。この激動の時代に政治家になろうというのはたいしたもんだと思うけれども、どういうことをしてゆきたいと思っている人なのかが、なぜかさっぱりわからない。民間企業の入社試験を受けたら、まず確実に落ちるであろう。二世作家は、少なくとも一行くらいは小説を書かないと二世作家にはなれないのであるが、政治家はそうでもないらしく、たちまち後援会ができる(というか、受け継がれる)。このあたりの感覚が、おれにはさっぱりわからん。生理的にわからん。ご本人が父親の同業者になろうと思うのは個人の自由だが、「はいそうですか」と後援会が押すのはどうしたことか。後援会とやらの人たちは、政治家を天皇かなにかだと思っているのであろうか。小渕優子氏に於かれては、まず、考えていることをきちんと言葉にしてどしどし表明していただきたい。ほかのなにを以て、突然出てきた議員志望者を判断せよというのだ? おれは田中角栄は大嫌いだが、田中眞紀子はけっこう好きなのである。
▼サイエンス・ライターの森山和道さんが言いふらせというので、どんどん言いふらすことにする。7月4日にオープンするオンライン書店「bk1(ビーケーワン)」の宣伝用プレサイトが今日オープンした。おれも月に一度くらいのペースでSFの書評を書くことになっている。森山さんは、SFと科学の棚のマネジメントをなさっているのである。「bk1」を運営する株式会社ブックワンプレスリリースを読むと、じつにこれがどえらい構想なのであった。構想どおりのものが順調に立ち上がってゆけば、まさに“日本のアマゾン”が誕生するではないか。さてさて、どのようなサイトになるか、ライターとしても客としても大いに楽しみである。

【6月7日(水)】
大森望さんの「新・大森なんでも伝言板」で、「-H"」の話が盛り上がっている。オープンネットコンテンツ対応のSF関連サイトも続々登場。趣味嗜好を同じゅうする人が「-H"」で快適に使えるサイトを作ってくれれば、おれ個人も恩恵を享受できてけっこうなことである。「-H"」なんてまだまだマイナーだと思っていたが、先日百万ユーザを超えたのだから、考えてみればiモード七分の一くらいはユーザがいるわけである。しかしまだ『パラサイト・イヴ』瀬名秀明、角川書店/角川ホラー文庫)を買った人の半分にも届かないくらいであろう。がんばれ、エッジ、負けるな、エッジ。
 って、なにもおれがこんなにDDIポケットの宣伝をしてやる必要はないのだが、どうも判官贔屓なものでねー。いや、実際、都会で過ごす時間の多い人には、PHS――じゃなかった、“ハイブリッド携帯”のほうが便利だと思うよ。もちろん、自分のライフスタイルに適した機能があるかどうかの確認は必要だけどね。
 あんまり「-H"」の話ばかりしていても、非ユーザの読者には面白くもなんともないよなあと思っていたら、「新・大森なんでも伝言板」で♪きむらかずしさんが紹介なさっていたサイトが便利なので、ここでも紹介しておこう。shino さんという方のサイトの「オープンネットコンテンツ研究所」にある「ONC Read」というサービスを使うと、オープンネットコンテンツ用のページがパソコンのブラウザからちゃんと読める。「冬樹蛉のページ“A Ray of Hope”ONC版」のURLを入れてみたら、ほぼケータイの画面に出てくるように表示されるではないか。ブラウザの窓をわざと小さくして見ると感じが出るかも(わざわざ不便にしてどうする)。これは便利だなあ。というわけで、「-H"」のユーザじゃない読者の方も、ぜひ一度こちらからお越しください。本家サイトにはないオリジナル・コンテンツを用意しております。

【6月6日(火)】
会社から帰ったら明日だった――ってのは、日記の書き出しとしてかなり画期的ではないかと思うのだが、こないだも使ったよな。
「カーボンナノチューブの量産プラント完成」という情報が入ってきたので、 Mainichi Interactive の当該ページをあわてて見にゆく。あたりまえの話だが、きわめて現実的な工業的応用の可能性が報じられているのみである。ふつうSFファンというやつは、こういう見出しを見ると、「国連にも顔が利くどこかの国際的フィクサーが、軌道エレベータを作ろうとしている熱血工学者の支援をしているのだ。このプラントはその一環にちがいない。そうだ、そうにちがいないっ!」と反射的に考えてしまうものだと思うのだが、考えませんかそうですか。でも、アーサー・C・クラークはマジでカーボンナノチューブに期待しているとどこかで言ってたぞ。おれが生きているうちに『楽園の泉』は実現するか? 月に人間が立った。クローンも実現した。個人用の携帯通信機も腕時計型カメラも壁掛けテレビも実現した。I've seen things you people wouldn't believe.( from Roy Batty's last words in Blade Runner

【6月5日(月)】
▼な、なんだこれは。今日の“紙の讀賣新聞”を読んでいたら、「光速300倍に加速!?」などという見出しが目に飛び込んでくる。プリンストンのNEC研究所でそういう実験に成功したのだという。300倍だろうが3000倍だろうが6600倍だろうが、光速を“加速する”などという表現が、まずもってなんのことやらさっぱりわからない。内容を読んでも、「NEC研究員のリュン・ワン博士らが、セシウム・ガスで満たした実験装置内に光のパルスを通す実験を行ったところ、光が、入力とほぼ同時に反対側の端に現れたという」とあるだけで、実験に関する詳細はやっぱりさっぱりわからない。なんだか素人目にも眉唾な話である。眉唾もなにも、ちょっと考えると、言っていることがヘンだとわかる。仮に特殊相対性理論がまちがっていて、真空中の光速度が一定不変でなかったとしよう。光が秒速9000万キロメートルで伝播する現象が起こったとしよう。とすると、そのような現象が起こっているところでは、物理学者がいままで考えてきた時空のものさしそのものが通用しないのだから、光速の“300倍の速さ”で光が伝わったということをどうやって測ったのだ? 速さというのは、時間と距離の関数だと小学生だって知っている。これでは、スーパージェッターが、タイムストッパーで「三十秒間時間を止める」などと言っているのと本質的には同じではないか。
 うーむ、わからん。なにがなにやらさっぱりわからん。続報を期待しよう。

【6月4日(日)】
「冬樹蛉のページ“A Ray of Hope”オープンネットコンテンツ版」を突貫工事で立ち上げる。“オープンネットコンテンツ”とはなんぞや――という方は、DDIポケットのサイトで説明を読んでね。ってのもあまりに不親切なので、簡単にご説明すると、DDIポケットのメールサービス「PメールDX」を利用して、ウェブ上のページを見られるようにした仕掛けのことである。なんのことはない、「このウェブページに書いてあることを取ってきて送ってね」という電子メールをDDIポケットに出すと、向こうが「はいどうぞ」と電子メールで送り返してくれているようなものだ。とはいえ、オープンネットコンテンツの仕様に則って書いたページであれば、ふつうのウェブページのようにページ間を往来し(ているかのように見せ)たりすることもできる。賢いといえば賢い、姑息なといえば姑息なアイディアだ。iモードのような自由度はないが、ニュースや日記や掲示板など、そのページのテキストだけ読めればいいケースには、なかなか便利ではある。「-H"」(エッジ)をご利用の方は、一度アクセスしてみてね。URLは「http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ray_fyk/h/index.txt」。ふつうのブラウザでも中身は見える。URLを気長にコピー&ペーストして追いかけてゆけば、トップページ以外の部分も読めないことはないけど、はなはだ面倒である。まあ、これがiモードのように広まるとはとても考えられないなあ。いずれはもっと便利になるのだろうけれども、あくまで過渡的な技術でしょうね。

【6月3日(土)】
▼で、今日なのだが、まだ昨日行った会社の帰りである。遅くなったので、家の近所の居酒屋で晩飯を食い、例によってコンビニをうろつく。また「昆虫パーク」を買ってしまうのではないかと厭な予感はしていたのだが……な、なんということだ。だからもう、やめてくれというのに、こういうものを発売するのは。今度はバンダイが、「ハイパーウルトラメカ」などという玩具菓子を出しているではないか。ウルトラシリーズに出てきたメカのプラモデルだ。どうして玩具メーカのバンダイがわざわざラムネを5グラムだけ同梱して菓子として売っているのかさだかではないが(キャンディ事業部の商品の流通ルートはこっちなのか)、そんなことはどうでもよろしい。「ジェットビートル」「ウルトラホーク1号」「マットアロー1号」の三種類である(来月一種類増えるらしい)。三個まとめて買ってしまったことは言うまでもない。PL法対策に「対象年齢3才以上」などとわざとらしく表記してあるが、そんなもん、どこの三歳の子供がジェットビートルを欲しがるかい、ウルトラホーク1号を欲しがるかい、マットアロー1号を欲しがるかいな! これは絶対おれたちを狙っている商品にちがいない。いや、おれを狙っているのかもしれん。ウルトラホークやマットアローはともかくとして、いまとなってははなはだ野暮ったいジェットビートルなんぞを、最近の目の肥えたガキがかっこいいと思うであろうか。「お父さん・お母さんが子供との対話の時間を持てるように」というスカした意図を込めているのやもしれないけれども、ちょっと待て。『ウルトラマン』は三十四年前だぞ。ウルトラマンを三歳のときに見ていた人が少々早めに十七歳で子供を作ったとして、その子供がまたもや十七歳で子供を作ったとすると、その子供が三歳になるのが今年だということになるではないか。下手をすると、「これはお爺ちゃんが子供のころに人気だった『ウルトラマン』ちゅう番組に出てきた科学特捜隊の……」などと、このジェットビートルのモデルを前に孫に語り聞かせている人が日本のどこかにいないともかぎらない。それともなにか、ビデオの普及のおかげで、いまの三歳の子供もジェットビートルを馴染み深いものとして知っているのであろうか。
 あまりのことに驚き、やたらめったら忙しいくせに、帰宅してすぐ三機とも組み立ててしまう。ジェットビートルとマットアローはまあまあだが、ウルトラホーク1号はむちゃくちゃにかっこいい。これが三百円か。よい買いものをした。枕元に飾っておこう。ふと気がつくと、スタンドからはずして、「キイイィーーーン」などと無意識に効果音を発しながら、尾翼を指でつまんで腕を振りまわしていたおれは今年三十八歳になります、アンヌ隊員

【6月2日(金)】
会社から帰ったら明日だった――ってのは、日記の書き出しとしてかなり画期的ではないかと思うのだがどうか。そういうわけで、主業も副業もやたらめったら忙しい。というわけで、今日の日記はネタが発生した時間に忠実に明日に書くことにする。わははは、こういう手の抜きかたは、田中哲弥さんですら思いつくめえ。

【6月1日(木)】
『巨泉』(大橋巨泉、講談社)という本がえらく売れているらしい。そりゃまあ、みんながみんな大橋巨泉みたいな生きかたができたら、それはそれはけっこうなことだとは思うけれども、仮にみんながみんな大橋巨泉みたいに生きている社会があったら、おれはちょっとそこに住むのは遠慮したい。でも、おれ自身は、大橋巨泉とか淀川長治みたいな生きかたには憧れる。勝手なものだ。大橋巨泉のほうは、本人には憧れないけどね。


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