間歇日記

世界Aの始末書


ホームプロフィール間歇日記ブックレヴューエッセイ掌篇小説企画モノリンク

← 前の日記へ日記の目次へ次の日記へ →


2003年12月中旬

【12月19日(金)】
▼なにやら最近「ヘルシア緑茶」花王)ってのが、コンビニでやたら大きな顔をしている。売れているらしい。電車の中でおばちゃんたちが話題にしているのも聞いたことがある。かく言うおれも、何度か飲んでみたことがあるが、あたりまえのことながら、突然痩せたりはせん。
 この商品は、やはりアイディアとマーケティングの勝利でありましょうなあ。ボトルが小さいのが効いてる。値段が高いってのもわかりやすい。さらに、飲んでみるとはっきりそれとわかるほどに渋い味がするってのもアピールするんでありましょう。いかにも濃縮された有効成分が身体に染みわたってゆくかのようなイメージを与えることに成功している。おまけに、ソフトドリンクでおなじみの会社から出てるんじゃなくて、「花王」が出してるってことも、イメージ戦略上、プラスに働いている。花王のあらゆる“指し手”が、市場という盤面で商品イメージの差別化を増強する方向に活きていて、消費者心理に王手をかけてくる。おみごと。
 「もっと知りたいヘルシア緑茶Q&A」ってページを読んでみると、茶カテキンが脂肪の低減に効果があるらしいことは事実なのだろうけれども、この商品がそれほど画期的な大発明だというわけでもなさそうなのである。ヘルシア緑茶のワンボトル分(350ml)あたりに含まれている茶カテキン(540mg)の量は、急須で入れたお茶(煎茶10g、湯量430ml、抽出温度・摂氏90度、抽出時間・一分)に含まれるカテキンのほぼ二倍だと書いてある。たかが二倍なのである。だったら、ふつうに緑茶を煎れて860ml飲めばよいだけの話だ(もっとも、カフェインも多量摂取してしまうから、茶を飲むと眠れないなんて人にはお勧めしない方法である)。冬場なら、おれなんか緑茶を一日一リットルは飲んでると思うぞ。ものぐさなので、葉を替えるのは一日一回だがな(これも長時間放置すると雑菌が繁殖するので、“チェーンドリンカー”以外の方にはお勧めしない)。最後のほうになるとほとんど白湯なのだが、茶葉を骨までしゃぶる(?)ようにして出しているから、かなりカテキンも摂取できているだろう。おれが緑茶を飲んでいなければ、もっと体脂肪がついてしまっているのかもしれん。
 花王はべつに誇大広告をしているわけでもないし、公開すべき情報をただただ淡々と正直に公開しているだけである。ふつうに緑茶をたくさん飲むのと(少なくともカテキンの摂取量に関しては)変わらんということは、誰にでもわかるはずだ。なのに、ヘルシア緑茶は売れている。単に商品イメージをわかりやすく差別化しているだけのことで、である。さすがはマーケティングでは一目置かれる花王だけのことはあるよなー。他社にしてみれば、文字どおり「一本取られた」って感じだろう。
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『ハリー・ポッターの科学 空飛ぶほうきは作れるか?』
(ロジャー・ハイフィールド、岡田靖史訳、早川書房)
bk1 で見てみる amazon.co.jp で見てみる

 《ハリー・ポッター》シリーズに出てくる魔法の実現可能性を科学的に考察してみる本らしい。おれはこの本のタイトルを見ただけで、「エピグラフがあるとすれば、アレだろう」と当てることができた。この日記を読みにきてくださるような方々の五人に二人くらいは当てられるはずだ。そう、そのとおり――「非常にすすんだ科学技術は、魔法と区別がつかない。/アーサー・C・クラーク」
 もっとも、賛辞や序文に目を通すかぎりでは、“科学の側にも魔法の光を当てる”という方向性を内包しているようだ。そういう意味では、ウルトラマンの科学考証をしてみるといった試みとは、ちょっと毛色のちがう本らしい。《ハリー・ポッター》を読んだ小学生がこの本を読もうとしても、まず理解できない部分のほうが多いだろう。ぱらぱらと眺めただけでも、科学好きの高校生相当以上の知識がないと読めないだろう内容で、大人の知的遊びの本といった感じだ。いや、もちろん、小学生のキミが背伸びして読んでもいいんだけどさ。大人に「読めないだろう」と言われて、おとなしく引き下がるようではキミは伸びないぞ。小学校の先生には、図書室にこういう思いきり背伸びした本をこっそり放り込んでおくという企みを提案したい。もちろん、小学生には読めないすよ。読めないけど、なにやらバカなことを本気で難しい本にして遊ぶ類の大人が世の中にはいるらしいといった、秘密めいた雰囲気を味わわせるだけでも、たいへん教育的効果があると思うのだ。
 単なる便乗本と誤解されそうな軽いタイトルなんだが、原題は THE SCIENCE OF HARRY POTTER How Magic Really Works で、要するに、ほぼそのまんまである。とくに日本版であざとく売りに入った題をつけたわけではない。また、三文ライターが思いつきででっちあげた安易な企画本のような印象を受けている人もありましょうが、このロジャー・ハイフィールドという人は、日本でもきちんとしたお堅い科学書で名を知られている一流の科学記者である。未訳書を調べてみると、The Physics of Christmas: From the Aerodynamics of Reindeer to the Thermodynamics of Turkey なんてのがある。『クリスマスの物理 トナカイの空気力学から七面鳥の熱力学まで』といったところか。こっち系列の一般向け科学啓発書に連なるものとして、『ハリー・ポッターの科学』があるのだろう。ハリポタに便乗して金儲けするという卑しい魂胆じゃなく、ハリポタのように広く知られたネタだからこそ、それをこれ幸いと利用して、科学に対する一般の興味をかき立ててやろうという狙いのようである。哲学者は眼前のコップで哲学を語ってみせねばならないものらしいが、ロウソク一本をネタに歴史に残る名講義をした科学者の国だけあって、こういうポピュラーサイエンスの伝統が脈々と受け継がれているんでしょうなあ。

【12月13日(土)】
▼昨日帰宅して遅い晩飯を食っているあいだに今日になってしまった。酒を飲みながら、テレビのチャンネルをホップしていると、不思議な歌声に手が止まった。いい、これはいい。なんだ、この歌は……。声フェチ・インジケータが、たちまちレッドゾーンに振り切れる。
 運よく聴いたのは、『みんなのうた』NHK)で放映されていた「うちゅうひこうしのうた」(うた:坂本真綾/作詞:一倉宏/作曲:菅野よう子/編曲:菅野よう子/アニメーション:吉良敬三)である。おれもまあSFのスジモノであるし、NTTドコモ関西のCMがしょっちゅう流れる地域に住んでいるのだから、坂本真綾の名や声を知らないわけではない。が、こんなに“おいしい声”をしている人であったとは、不覚にも、「うちゅうひこうしのうた」で初めて気がついた。こりゃあアレだな、最初から唄う歌手が決まっていて、そのおいしいところを熟知した人が(そりゃあ、菅野よう子だし)おいしいところを目一杯引き出すべく作ったといった類の曲だな。おいしい、おいしい。曲もよい、声もよい。もっと聴きたい。
 さっそく amazon.co.jp で調べてみると、発売されたばかりの坂本真綾のアルバム『少年アリス』の“どあたま”に「うちゅうひこうしのうた」が入っていた。収録曲の中では、ドコモ関西のCM曲だった「CALL TO ME」のサワリしか聴いたことがない。じっくり聴いたことのない歌手のアルバムをいきなり買うのも冒険だが、「うちゅうひこうしのうた」だけに二千九百円払ってもよいと割り切って、迷わず買う。


↑ ページの先頭へ ↑

← 前の日記へ日記の目次へ次の日記へ →

ホームプロフィール間歇日記ブックレヴューエッセイ掌篇小説企画モノリンク



冬樹 蛉にメールを出す