間歇日記
世界Aの始末書
【7月19日(月)】
▼あまりの蒸し暑さに気が狂いそうである。おまけに昨日今日は連休だというのに家で PowerPoint とにらめっこで会社仕事の資料を作る。家で仕事しても一文にもならんのに、肉体を会社にさえ置いておけば、ぼーっとしていたとしてもどうでもいい会議ばっかりしていても自動的にお金がもらえるというのは、知識労働者にとってはまことに理不尽なことである。そう思わんか、ピーター・ドラッカー? 知識労働者が生み出す価値の絶対指標みたいなものがなにかあって、知識労働者の仕事の成果をパチンコ屋で玉を数えるようにして機械にジャラジャラと流し込むと、「2153」とかなんとか点数が表示され、それに応じてお金がもらえる――ということであればじつに明確で納得がゆくのだがなあといつも思う。いくらジャラジャラと大量に成果を流し込んでも、メーターはずっと「0」のままだったりしたら、それはそれで虚しいものがあるけどな。全社員の全仕事の全成果をその機械に流し込んでも、やっぱり「0」のままだったりしてな。どわははははは。
それはともかく、世界は驚異に満ちている。一昨日のことだ(って、なんて日記だ)。夕方スーパーへ買いものに行ったおれは、ふとある店の前で違和感を覚えた。ぶっといマジックで書いたわけのわからない値札が立ててある――「一銭洋食 280円」
一銭洋食が280円なのだなあと思えば、たしかにそれはそうであって、あんまり深く考えてはいけないのかもしれないが、そこはかとない不条理感があることは否定できない。おっと、そもそも関東の方は“一銭洋食”なるものをご存じない可能性もあるな。要するに、ほとんど具らしい具が入っていない“プレーンのお好み焼き”といったようなものである。主にお好み焼きの地の部分とソースとのハーモニーを楽しむための(だと思うが)、京阪神には古くからあるファーストフードだ。その一銭洋食が280円ということは、この食いものは当初に比べると二万八千倍にも値上がりしているのである。そういうことにならんか? いったいこの食いものは、いつまでこの名前で呼ばれ続けることになるのだろう。やがて現金などというものが日常生活でほとんど使われなくなり、ケータイみたいなものでピピッと決済するのがあたりまえの時代になっても、やっぱりこれは一銭洋食であり続けるのかもしれない。よおし、ここまで来たらとことんゆけ、一銭洋食! 火星の寂れた路地裏で力なくうずくまる疲れた男に、「ああ、一銭洋食が食いたいなあ……」とつぶやかせてやれ。冷凍睡眠から覚めたばかりの植民者に、他の恒星系の陽のもとで「腹減った。一銭洋食が食いたい」とため息をつかせてやれ。ゆけ、一銭洋食! そのなんだかわけのわからない名前を背負って、人類の歴史の証言者となるのだ。
【7月17日(土)】
▼ここ一か月ばかりのあいだに、テレビでは民主党の岡田克也代表の“顔”を、ある政治評論家は「フランケンシュタイン」と呼び、ある局アナは「ガーフィールド」と呼んでいた。ひどい言われようである。ちがう、それはちがうぞ。おれは今日ようやく気づいたのだ。あの顔はどう見ても「ジャイアント・ロボ」である。ま"っ。これからの政界は、ライオン丸対ジャイアント・ロボになるのだ。
【7月15日(木)】
▼そういえば、以前テレビで聞いて「へぇ」ボタンを叩いたのだったが、民主党の岡田克也代表はカエルの置物を集めているのだそうだ。誰かが投稿するだろうと思っていたら、案の定、「かえる新聞」(2004年7月11日付)で大きく報じられた。かえる新聞によると、「これが、心からカエラーであることを表明するものなのか、あるいは全国に数千万人はいると思われるカエラーに取り入って、政権を取りたいがための方便なのか、日本の全カエラーたちは見極めなければなりません」ということだが、数千万人はちょっとオーバーだろう。せいぜい一千万人くらいだと思う。非カエル系の新聞ではこれほど大きな記事にはならないから、岡田代表がカエラーだなどとは、知らない人はまだ知らないのではなかろうか。マジで選挙戦のポスターに書いておいたら、かなり票が動いたのではないかと思うがどうか。
そういえば、社民党の土井たか子前党首は、フクロウの置物を集めていたはずである。党のトップに立つことになるような人は、置物を集めるのが好きなのだろうか。土井前党首の場合は、知恵の象徴であるフクロウにあやかりたいということだった。カエラーならぬ“アウラー”である。土井前党首がやたらマスコミに露出していたマドンナ旋風のころ、ずらりと並んだフクロウの置物を前に、ヘーゲルの「ミネルヴァのフクロウは黄昏に飛び立つ」(Die Eule der Minerva beginnt erst mit der einbrechenden Dämmerung ihren Flug.)を引用する土井前党首……なーんてのをテレビで観たような気がする。社民党のフクロウは、たぶん朝になったので巣に帰ってしまったのだろう。
数年後に、「そういえばカエルの置物を集めていたなんとかいう人の率いるなんとかいう党があったなあ……」なんてことになっていないように、民主党には自民党と真に拮抗し得る実力派政党に育ってもらいたいものである。いますぐ政権渡したいとは思わんけど、ちょっと自民は調子に乗りすぎだ。おれは“ぶち壊し屋”としての小泉純一郎を高く評価し応援もしてきた(いまだに“壊す仕事”では支持している)が、小泉純一郎は、最近その才能を自覚せず、分を外れて“創る仕事”をしようとしすぎである。しかも、余計なものを余計な方向に創ろうとしすぎる。小泉純一郎という人は、あくまで「日本ブレイク工業」でなくてはならない。新たな創造のために、もはや害毒と化した旧いものをぶち壊してほしいのであって、誰もあなたに“創ること”は期待しておらんと思うぞ。ただ、あなた以外にまだ賭けてみてもいいと思える器の人物が表に出てこないのだ。
そういうわけで、そろそろ民主党にはほんとうの力をつけてもらいたいと思う。共産党じゃあるまいし、なんでも反対しとればいいってもんじゃない。アウラーが「ミネルヴァのフクロウ……」云々とカッコいい座右の銘を持っているのなら、カエラーにはやはり「初心にカエル」というのがいいだろう。じつは、おれの持っているカエルの扇子に、そう書いてあるのだ。