聖王の葬儀のときに悲しみに泣いて発する言葉で、多くの国に共通であったのを、中世のキリスト教徒が神を賛美する語として用いたものである。本来は、古代の宗教劇で聖王が死の国へ赴くことを告げる言葉であった。それは「ほえる声」ululationと呼ばれた。アッカド人の神アラルAlaluとは、礼拝のときに泣くその泣き声をそのまま人格化したものであった。
ハレルヤは*ギリシア語ではhouloi、ラテン語ではululatus、古代アイルランド語ではhulluloo、またはhulla-balooであった[1]。ヘーロドトスによると、「神殿でほえ声をあげる」ということはリビアにおけるアテーナー崇拝に由来したものであるという。リビアでは「女たちが実にうまくそれをやる」という[2]。
ハレルヤは中世では鬨の声として用いられ、勝利が得られる強力な魔力があると思われていた。聖ゲルマニアの伝説によると、ハレルヤの鬨の声はサクソン人とブリトン人の間の戦闘で聞かれたという。牧神パーンPanが声をあげると、数にパニックpanicを起こすと考えられた。それと同じように、ハレルヤの声を聞くと、敵は戦闘心をなくすと考えられた[3]。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
いや、そもそもヤハヴェなる名からして、それを「ある(h?y?)」に還元し「あらんとしてあるもの」などとする、さも深遠そうな語源解に我々は寄りかかり過ぎてはいまいか。でももっと端的に、これをロパの叫喚《I-A》から導き出すこともできなくはないのだ。
例の「ハレルヤ」にしても、そこに核として包み込まれているのは、ロパの叫び《I-A》と驚くほど近い類音だとされたりする。ヘブライ語で《h-l-l》とは、ヤハヴエを讃えて「歓呼する」ことであるが、リュビアのトゥアレグ族の言葉《hulal》は野生のロバを指し、第一義的には「喚くもの」を意味した。同じくハレルヤでも、キリスト教会の敬虔なそれではなくて、何ともけたたましい荒っぽいものではあった。原初における遊牧生活の「音」であるが、音楽の誕生の意外なルーツではあるまいか。
欲情に歓びを爆発させる、天地をも動かすロバの叫喚が「音楽」の原点であるとすれば、その「音」によりよく共鳴し共振するのは、理想的にはロバの体からこしらえられる楽器であろう。
その点、最も完璧に近いものがバグパイプである。皮革をよく叩きなめせば革袋ができ上がったし、そこに差し込むパイプも肢骨からつくることができた。脇の下に革袋をはさんで、革袋の中に吹きこんだ空気を押し出しながら音を出す。素朴さにおいてこれに勝る味はないであろう。