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Cemetery(墓地)

 ギリシア語ではkoimeteria。「母親の場所」の意。死者はそこでできるだけ女神の神殿近くで安息することができた。こうした風習はキリスト教のヨーロッパにおいても継承された。英語のchurch-yard (yardは「死者の住まい」の意)はゲルマン語のgard、またはgarthに由来するもので、このゲルマン語は「大地」、または「世界」を意味した。したがってyardは土の下の死者の世界、の意である。

 タントラのダキニdakiniたちは、普通の人は恐れて行かない火葬場で、死者のための葬儀を行った。ダキニたちはと関わりの深い巫女たちで、埋葬地にとくに詳しい者たちであったからである[1]。彼女たちの女神カーリー・マー(「破壊者J」)は、フィン人とウグリア人の神話では、カルマと呼ばれる同じく墓地の女神であった[2]。ダキニたちは、ヨーロッパにおいては、スラプ語ではvila、スウェーデン語ではvala、サクソン語ではwiliとなった。彼女たちは死者と関連のある女性たちで、のちに、魔女と呼ばれた。魔女たちが墓地で集会を開くという伝説が昔からあるが、それは古代の母権制にもとづいた話であったのかもしれない。


[1]Rawson, E. A., 152.
[2]Larousse, 306.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 「ギリシア語ではkoimeteria。「母親の場所」の意。死者はそこでできるだけ女神の神殿近くで安息することができた」 — これは、バーバラ・ウォーカーのたわごとの中でも、その最たるものである。

 ギリシア語koimhthrivaは、koimavw(「眠る」)という動詞と、ある特別の目的をもった場所や建物を意味するthvrionとの合成語で、この合成語の中に、母親(mhvthrという語形が含まれるのは、偶然の一致にすぎない。すなわち、koimhthrivaのなかに母親は含意されていない。〔しかし、墓地が死者の眠る母なる大地子宮であるという主張は、「語源説は真実でないとしても……神話宗教的世界観には内包されているかもしれない」エリアーデ『豊穣と再生』p.155〕。

 ところで、koimhthrivakoimhthvrionともいう)とは、医神アスクレピオスやアンピアラオスに病気平癒を願って籠もる「お籠もり堂」(別名a[baton)のことである。この「お籠もり堂」が「永眠所」つまり「墓地」を意味するようになるのは、ビザンツ時代になってからである。(馬場恵二『癒しの民間信仰:ギリシアの古代と現代』東洋書林、2006.8.を参照せよ)

 「要するに、病気なおしの超能力に関する限り、アスクレピオスもキリストも、同じ次元で出会うのである。彼らは、古代世界に、それぞれの治癒力を競い合ったライバル神だったのであり、したがって地中海世界におけるキリスト教の最初の勝利は、治癒神キリストの勝利、つまりキリストがその驚異の治癒力においてアスクレピオスを圧倒し、ついに駆逐することに成功した結果であったと考えてよい」(山形孝夫『治癒神イエスの誕生』p.106)
 両者間の葛藤は、4世紀に入って、キリスト教に改宗したコンスタンティヌス帝が、改宗のために、アスクレピオス神殿の徹底的破壊を命じた後までも続き、抗争の終わりは5世紀ころであったろう(山形、p.108)。
 バーバラ・ウォーカーは、アスクレピオス派の「お籠もり堂」を墓地に転落させたキリスト教の悪意に気づいていない。