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カオス〔混沌〕(CavoV)

 宇宙は造られては壊れ、壊れては造られるが、ギリシア語でカオスとは、その宇宙創成前、あるいは宇宙が破壊されたのちに、世界-女神子宮の中にあると思われる宇宙創成の原料が、どれがどれと見分けがつかない状態でまじり合っているさまを言う。それはその女神自身が「永遠の変転」の状態にあることを意味した。そのとき、女神の子宮の中にある液体は、まだ、形ある固体状の世界にかたまってはいなかった。カオスは、聖書では、天地創造前の「形なく」、「むなしい」地の状態とされている(『創世記』 1 : 2)。
 point.gifDoomsday.
 point.gifTiamat.
 point.gifTohu Bohu.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 〔一般〕 古代ギリシア・ローマではカオスは「創造以前の、世界の諸要素に秩序が与えられていなかった時代の原初の虚空の擬人化」である(GRID、88)。この概念は『創世記』(1、2)の混沌と通じる。「地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた」。フランス語の混沌(tohu-bohu)は砂漠と虚空を示す。そして深淵の上の闇もまた否定的価値を持つ。すべてが、〈未分化〉、非在、そしてまた完全に対立するものまで含めたあらゆる〈可能性〉のシンボルである。ユダヤとキリスト教の聖書解釈者はここに「無からの創造」 の啓示を見てとる。

エジプト・宇宙開闢説〕 エジプトの宇宙開闢説では、カオスは「大洋が陸地を取り巻いているように、秩序ある世界を取り巻く……形のない無秩序な、世界の可能態」である。それは天地創造以前に存在し、形ある世界と共存し、その世界を包み込む、あたかも膨大な不滅の〈力の貯蔵庫〉のように思われた(MORR、48-49)。時の終わるとき、すべての形はその中に解け去るであろう。〈ヌン〉は根源のカオスにつけられた名のようである。このカオスは神々、太陽、人間、あらゆるものの父であり、原初の水と理解された。そこから「自分の創造主より偉大で力のある神」ラーも出てくるのである(MORR、225、229)。

中国〕 中国の伝承では、カオスは「4つの地平を分割」した創世以前の均質な空間である。この分割から、ものの区別が始まり、方向の決定が可能となる。分割は宇宙のあらゆる組織の基礎である。方角がわからなくなること、それはカオスへ戻ることである。カオスからの脱出は能動的な思考の介入で初めて可能となる。それが原初の要素を切り分け、区別する(SOUN)。

ケルト・神話〕 ケルト世界の始原のカオスは不吉で邪悪な人間、フォモーレ族が象徴的に表現する。彼らはこの国のすべての部族と反対に、移住者ではなくずっと昔から住み着いている本当の原住民なのである。しかし、生命と知恵はカオスから生まれたのだった。「形」を意味するデルボイスが神々とフォモーレ族の父である。神々はしたがって皆兄弟で、母はダナ(あるいはアナ)、「芸術」である。彼女はだが、処女である(ギリシア・ローマのミネルヴァにあたるブリジットはダウダの娘であり、同時に始原の3人の神の処女なる母である)。「知恵」を意味するエラサはエリ(アイルランド)と結ばれ暴君プレスを生む。モイチューラの戦い(〈世界の創造〉の描写)があり、その後トゥアーザ・デ・ダナーン(女神ダヌの一族)の神々が「あらゆる技芸の達人」ルフの指導のもとにカオスの支配に成功する(OGAC、17、399-400;18、356-399)。これらの戦闘はギリシア神話の神々と巨人族の戦い、ギガントマキアを思い起こさせる。

精神分析〕 現代の精神分析にとって、カオスは「生の神秘を前にした人間精神の混乱を象徴する……象徴的な呼称」でしかない(DIES、110)。カオスは無意識の形成にさえ先行する。それはプラトーン主義やピュタゴラス派の古くから言及している〈原・物質〉、未分化なもの、非定型なもの、完全な受動性に等しい。
 (『世界シンボル大事典』)