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ラト(Lat)

 イタリア語のlatte(「乳」)は、乳を与えてくれる女神ラトから派生した。女神ラトは、ローマ以前の部族国家ラティウムの名祖だった。この女神は、ラトナあるいはレートーとも呼ばれ、「世界卵」や太陽の母親だった[1]。ラトは、アラビア人たちにはアラート(「」)の名で知られていた。アラートは、のちに男神に変えられ、イスラム教のアラーになった。ラトは先王朝時代のエジプトでもよく知られており、ヘーロドトスは彼女のことを「下エジプト王国の古代の女王」と呼んだ。ラトの礼拝堂は、エジプト最古の神託所で、ギリシア人にはエスナ〔ラトポリス〕の名で知られていた[2]。この神託所は、エジプト人にとっては、メンヘト(「の家」)だった[3]

 ラトは、「」だった。古代世界においては、が万物の栄養源、すなわち、「乳の道」(天の川)Milky Wayを生み出した「天界の乳房」とみなされていたからである。水、乳、血、樹液、ならびに生命を維持してくれるそのほかさまざまな液体は、すべてから生じた。

 ラトは、古代ラティウムにおける母権的文化の創始者だった。latifundiaという古語は、女神ラトが自らの手で区画し、家母長たちに分配したそれぞれの土地という意味だった[4]point.gifMatrilineal Inheritance. マルタ島は、かつては、マー・ラタ(「母神ラト」)だった。

 1428年にキリスト教会は、住民が異端思想をいだいている疑いがあるという理由で、イタリアにある町を完全に破壊してしまったが、奇しくもその町の名は、マグナラタ(「大いなるラト」)だった。


[1]Graves, W. G., 318.
[2]Larousse, 29.
[3]Budge, G. E. 2, 50.
[4]Cumont, M. M., 74.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)