「銀河」は英語でgalaxyであり、ギリシア語のgala(母の乳)を語源とする。古代人は、この天界の星の川が「天界の女王」の胸から流れ出ると信じていた[1]。
アルゴスのヘーラーの崇拝者は、ヘーラーの化身の「月の雌ウシ」から出る乳で星は作られた、と言い、イオーニア人は、彼らの「月の雌ウシ」であるイーオー(「月」)の乳房から流れ出ると言った[2]。他の人々は、「1月の雌ウシ」は白い雄ウシの姿となったゼウスの妻エウローペーであると言った。白い「月の雌ウシ」はすべて同じ女神であり、インドからスカンジナヴィアにいたるまで、世界に滋養を与える神、星の精の母として知られていた[3]。Cow.
「楽園の4つの川」は「月の雌ウシ」の乳房にある4つの乳首から注がれると考えられていた。ノルウェ一人は、これらの川は、他の生物が住む以前に存在していた神聖な雌ウシのアウズムラ(「養育する者」)の乳房から流れ出ると言った[4]。アウズムラは月母神マナと同一視されていた。
スカンジナヴィアの神話は、銀河をマナヴェグ(「月の道」)として知っていた[5]。ケルト人にとっては銀河は「白い雌ウシの道」Bothar-bó finnéであった[6]。乳房から星の川が流れ出す原初の白い雌ウシは、童謡の「お月さまを跳ぴこえた」ウシとおそらく同じ雌ウシであろう。キリスト教時代以前の図像に、月の上で跳びはねる雌ウシが描かれているからである。
アッカド人は銀河を「紳聖なる女神の川」あるいはヒダガル(「創造の川」)と呼んだ。聖書はこれをヒデケル川としている(『創世記』2:14)。アラビア人は銀河を「空の母」Umm al Samaと呼んだ[7]。エジプト人は「月の雌ウシ」であるヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕-アセト〔イーシス〕の乳房から注がれる「空のナイル」と呼んだ。ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕-アセト〔イーシス〕は、「真のナイル」をエジプトのために取っておき、世界の他の国には雨を与えたのであった。
ギリシア・ローマ神話は、星の母であるガラ-テア(「乳の女神」)を作った。ガラ-テアは、アプロディーテーの「祭司-夫」ピュグマリオーンが彫ったアプロディーテーの大理石の像であった。ピュグマリオーンは、ビブロスのアスタルテー-ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕の「祭司-夫」ブミヤトンのギリシアにおける名前である[8]。
銀河は、ヘーラーがヘーラクレースに乳を飲ませたとき、ヘーラーの胸からほとばしったとも、あるいはレアーがゼウスに乳を飲ませたとき、レアーの胸から流れ出たとも言われる[9]。名前は異なるが、いたるところで銀河は女神の「星の乳」とみなされ、凝固して、世界と生物を創った。
月は緑のチーズから作られたというラプレー流の言い方は、月は銀河を凝固させて作ったチーズの球だという古い伝説にさかのぼる[10]。ときには女神の乳から作った緑のチーズでできているのは地球であるとも言われた。聖書は古い月への呼びかけを模倣している。「あなたはわたしを乳のように注ぎ、乾酪のように凝り固まらせたではないか」(『ヨプ記』10:10)。
アングロ・サクソン族の銀河に与えた名前は、銀河が単なる川ではなく、天界の主要な道であったことを示している。銀河はイルミンの道、ワエトリンガの道(Waetlinga Street、Vaelinga、Vaetlinga、Watling Street)などと呼ばれた[11]。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
〔北米・魂の道〕 北米インディアンのあらゆる部族にとって、銀河は、彼岸への道を再びたどる魂の道である。その端に死者の国がある(ALEC、245)。
〔中米・ヘビ〕 マヤのキチェ族の神話『ポポル・ヴフ』では、銀河は大きな白いヘビとして表される(FGRP、151)。
アステカ族では、銀河のヘビは、真昼の太陽の神ウィツィロボチトリを表すワシにより、毎日食われる。この神は南と青に結びつけられる。またこの神は、天地創造を司った神の夫婦、「主と二重性の女神」、から生まれた4人の息子の1人である(SOUM)。
ニューメキシコのインディアン、ズーニー族には、銀河と呼ばれる結社がある。チョウや花や春の女神を仰ぐ。女神は太陽の道化でもあり、太陽と人間の仲介役を務める。祭りの日に、結社のメンバーは度外れた行動に及ぶ(猥褻、大食)。銀河は天の「梁」と呼ばれる。
〔南米・川〕 ペルーのインカ神話によれば、銀河は天の大河であり、雷の神が地上に雨を降らせるためにそこから水を汲む(LEHC)。しかしインカの末裔ケチュア族は、銀河を川に見立てるかと思えば、天の道に見立てることもある。
オーストラリア南西部に住む諸部族の最高神バイアメは天に住み、水晶の玉座に座り、傍に大きな水の流れがある。銀河である(ELIT)。
〔鳥の道〕 チュルタ話語では、銀河は「鳥の道」あるいは「ガンの道」と呼ばれ、ヴオルガ川のフィン人もそう呼ぶ。エストニアとラップランドでは、鳥の通り道または小径である。プリヤート人と大半のヤクート人は天の「縫い目」とみなす。トゥルハンスク地方のサモイエード人にとっては「天の背中」である。
〔ヨーロッパ・乳〕 銀河が天にこぼれた乳でできたというのは、ヨーロッパの民間伝承だが、すでにギリシア神話にもある。赤子ヘーラクレースに腹を立てたへーラーが、彼の口から乳房をもぎ離し、ほとばしった乳が銀河になった。これだけでなく、ブリヤート人のようなアルタイ語系諸民族の伝承にも見出される。
〔シベリア・極東〕 中国では、「天河」であり、それは北シベリアや、朝鮮人とか日本人にとっても川である。
〔シベリア・足跡〕 ウノ・ハルヴァ(HARA、144)が、ペルシア起源とみなす、ある伝承によれば、カフカスのタタール人とオスマン帝国人にとっては、「藁盗人」の逃げ道である。ヤクート人の中には、6本脚のシカを追う狩人神の足跡またはスキーの跡と考える者がいる。このシカは「大熊座」であり、プレイアデス星団が神の家らしい。ツングース人では、この狩人はクマで、銀河は「クマのスキーの跡」になる。ムスリムのタタール人は、「メッカ巡礼者の道」と考える(HARA)。
〔ケルト・鎖〕 銀河はケルト人にとって、アイルランドの神で技芸・平和・戦争を司るルフの鎖である(MYFT、25)。
〔北欧・巨木〕 フィン人の場合、「切り倒されて天に横たわる巨木の幹と枝であるらしい。どうやら巨大な〈カシワの木〉のようで、極端に高く伸びたために、太陽・月・星の光を遮ってしまった。雲は天の空間を動きまわらなくなった。なぜなら怪木の枝にからみとられたからだ。すると1人の男が海または地下から姿を現し、木の幹に近づき、金か鋼でできた斧で叩いた。木はどっと倒れて天の一部を塞いだ。しかし、太陽、月、星、雲を解き放った」(MYFT、25、110)。
〔口ーマ〕 4世紀、新プラトーン派の哲人、サルステイウスは、皇帝ユリアメスの後継者となることを拒否した人物だが、物理的・象徴的な解釈を加えている。それによれば銀河は、「変化にさらされる物質の上限」なのである。
こうした伝承のすべてにおいて、銀河は神が造ったもので、通過点であり、神と地上の世界を結ぶ。したがって、ヘビや、川や、足跡や、ほとばしった乳や、縫い目や、木にたとえられる。両世界の旅をする鳥とか魂が利用する。巡礼や探検者や神秘家が、ある地点から他の地点へ、宇宙のある平面から他の平面へ、プシューケーのある水準から他の水準へ赴く道を象徴する。また運動の世界と不動の永遠との境界を示す。
(『世界シンボル大事典』)