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シーラ・ナ・ギグ(Shíla-na-Géige)

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Cavan, Ireland
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Ballylarkin Chuech, Country Kilkenny, Ireland
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Llandrindod Wells, Wales

 石塊に刻み込まれた裸の女性像で、両膝を開いてしゃがみ、両端が尖った楕円形vesica piscisとして示されている陰門を誇示している。両手で女陰を示したり、片手で女陰を広げていることもある。シーラ・ナ・ギグ像は、16世紀以前に建立されたすべての古いアイルランドの教会に見られた[1]。19世紀にはまだそのうちの多くのものが原型をとどめていたが、ヴィクトリア朝のお上品ぶりによってその大部分は摩損または破壊された。教会の近くに埋もれていたのがいくつか発見されているが、これらはかつては教会を飾っていた[2]

 シーラ・ナ・ギグ像は、女陰をあらわにしたカーリー女神像とよく似ており、後者は現在もなおヒンズー教寺院の入り口に見られ、参拝者はをなめ、ヨーニ(「女陰」)に触れて「幸運」を祈る。比較的古い像の中には、ヨーニの部分に深い窪みができているものもあるが、これは多くの信者が触れたためである[3]

 シーラ・ナ・ギグ像の多くの例に見られる突き出た胸部はの女神としてのカーリー、つまりカーリカーの像を模倣しており、このことは、アイルランドではカーリカーはカレハCaillech(「老婦人」)として記憶していることから明白である。カーリカーはまた創造女神であり、全種族の生みの母でもあった[4]。ケルト人の間では一般に戸口を守るのに女陰の形に似た呪物を打ちつける習慣があったが、やがて、誰もがカーリカーの由緒あるオメガに似ている馬蹄を用いるようになった。インドでは、オメガは女性を表す宇宙を意味しており、その中でシヴァは絶えず創造的な性の舞踏をくりひろげた。もっともシヴァはカーリカーに同化吸収され、女神の添え名である「破壊者」という添え名を与えられたが[5]

 シーラ・ナ・ギグという言葉の由来は定かではない。これは「陰門-女」といったような意味であった。gig(またはgiggie)は女性性器を意味し、フランス語のgigue(キリスト教時代以前の狂宴的舞踏)に由来する。アイルランド語のjigと関連があったかもしれない。古代エレク(古代シュメールの都市ウルクの聖書名)では、gigは聖なるヨーニのことであったと思われる。神殿娼婦はnu-gigとして知られていた[6]


[1]F. Huxley, 63.
[2]G. R. Scott, 239-43.
[3]Rawson, E. A., 30.
[4]Knight, D. W., pls. xxix, xxx.
[5]Campbell, M. I., 358.
[6]Stone, 158.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



"Sheila-na-Gig"と"Sheela-na-Gig"の表記の違い
 Shíla-na-Géigeという名称の書き方自体に関しては、様々な説が存在している。語源的には、アイルランドのゲール語で、Sighle-na-gCiochであるという説が一般的なようである。しかし、Sighleの代わりに、初めからSileであったとしている説もある。研究者の中には、元々は、Sile-ina-Giobであったと主張する人もいる。<……>
 アイルランドでは、Silaは、 Sile、 Sheila、 Sheele、 Sheelaghなどとも綴られる。これらの語は、英語のshield、shelter、 effeminateに通じ、 盾、保護、女々しいことなどを意味している。アイルランド語でのShelleのルーツを、妖精あるいは妖精の住む丘を意味するSidhと結びつける考え方もある。<……>スコットランドでは、シーラはsheilingあるいはshealであるが、これらは古アイスランド語のskjöldur、すなわち盾に由来するともいわれている。
 シーラ・ナ・ギグのシーラがこのように様々なスペルで、書かれる理由として、キャスリン・ニックダーナ(NicDhana、Kathryn Price)は、 アイルランド語はルーツ的に見ると単語のスペリングよりも発音に重点を置いてきたからであると説明している。ニックダーナは、詩文の混ざった小論「シーラ・ナ・ギグと聖なる場所」(Sheela na Gig and Sacred Space) において、Sheela、 Sile、 Silなどは、源、起源、種あるいはこれらに類する意味をもつのではないかと推定している。ここから、彼女によれば、シーラは「最初の女性」、「祖先の最も年長の女性」など、いずれも女性 を指しているというのである。その傍証として、現在でもアイルランドのある地域では、年取った女性をsileと呼んでいるという事例を挙げている。
 これとは異なって、シーラとは石に刻まれた女性のヴァルヴァそのものであって、生殖や多産を祈る対象を意味する言葉であるという説もある。シーラ・ナ・ギグのヴァルヴァの窪みの部分が人の手によって撫でられている間に深くなっていることを見ても、おそらく妊娠あるいは豊穣を祈願する対象であったことは確かであろう。
 Silaという単語と同様に、 na-geigeも不明確なところが多い。ある説はna-giegeは、na-gCioch、すなわち「胸の」から来ているという。すると、Sila-na-geigeは、直訳すれば「胸の女'性」ということになるのである。しかし、石彫のシーラ・ナ・ギグからは殆ど胸の膨らみが感じられない。多くのシーラ・ナ・ギグの胸が平らであるのに、「胸の女性」という表現はそぐわないように思われる。また、別の意見によれば、シーラ・ナ・ギグは、本来はSile-ina-Giobで「臀部あるいは腰部の上のシーラ」を意味するという。
 Geigeに注目する見方もある。Geigeは現在もアイルランドでスラングとして使われているgighで、これは俗に「女'性器」のことである。この説を採る場合には、Shíla-na-Géigeという表現が使われ始めた昔の時点でgigが女性器のスラングとして存在していたという事実の検証が必要となるのである。この他、ゲール語のgiog(しゃがむ)と結びついているとの主張もある。
 <……>
 カンプハウセン(Camphausen, Rufus)によれば、シーラ・ナ・ギグ の特徴は性器露出そのものにあり、古代ギリシヤの「バウボー」(Baubo) との関連を示唆しているが、語源的には未だ不明である。しかし、彼は、メソポタミアの「エレクの神殿」(Temple of Erech)の「聖なる娼婦」 がnu-gugと呼ばれていた事実を指摘している。Nu-gugとは、「無垢なもの」という意味である。カンプハウセンの説では、シーラ・ナ・ギグは、キリスト教以前の存在の域際的受容であり、ヴァルヴァの秘めた魔力を誇示すると同時に、ネガティヴなエネルギーを排除するポジテイヴな要素をもつものなのである。
(石渡利康「シーラ・ナ・ギグ(Shíla-na-Géige):ヴァルヴァ・ディスプレイの象徴性」)

 バーバラ・ウォーカーは"Sheila-na-Gig"という表記を採用しているが、これの初出は18世紀、西インド方面で活躍した英国海軍の軍艦の名前である。"Sheela-na-Gig"は、これよりも早く17世紀、カトリック教区や地方の彫像に現れる。(Kelly, Eamonn P. Sheela-na-Gigs, Origins and functions, Dublin, 1996. p.5)

[画像出典]
右・上図Cavan County Museum
右・中図Goddesses
右・下図 Casglu'r Tlysau :: Gathering the Jewels

melusine.gif 左図は、イタリア・チヴィダーレの大聖堂にあった彫刻(8世紀)。
 中世、セイレーンは修道院や聖堂にも、写本や古代の書物にも、うようよしていた。その頃から、セイレーンは半女半魚の姿だった。彼女たちの尾と乳房は、いったいどこから来たのだろう?
(ヴィック・ド・ドンデ/荒俣宏監修『人魚伝説』p.43)