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セイレーン(Seirhvn pl. Seirh:neV)

 キューレーネーの魔力のをもった女たちに対してホメーロスが用いた言葉で、彼女たちは航海中の船に魔法をかけて、岩礁に打ち上げさせた。セイレーンたちがオデュッセウスの水夫たちを魅惑しようとした「甘美な歌」は、外国船をキューレーネーの浅瀬に誘い込むための呪文であった。この浅瀬で原住民たちが難破船荒らしとして有利な取り引きをしたのは明らかである。



 三人のセイレーンたち — ホメーロスは二人だけだとしている — は、大地の歌をうたう娘たちで、これまでの犠牲者たちの骨が山となって朽ちはてている彼女たちの島の草地へ水夫たちをおびきよせる(『オデュッセイア』第一二書・三九以下および一八四以下)。披女たちはの形をした女として描かれており、ウェールズ神話のなかで、プランやそのほかの英雄たちを悲しんでいるリアノンのたちと共通するところが多い。リアノンは、雌馬の頭をしたデーメーテールである。

 セイレーンの地は、アーサー王伝説におけるアヴァロンのように、死んだ王の亡霊をうけいれる埋葬のだと解釈すれば、いちばんよくわかる。セイレーンたちは、王の死を悼む巫女たちでもあり、またその島に出没するたち — つまり、の女神の侍女たちでもあった。したがって彼女たちは、プレ・オリュムボスの信仰に属していたのである — 彼女たちがゼウスの娘たちであるムーサたちに競技で負かされたといわれているのはこのためである。

 彼女たちの故郷は、バイストン沖のセイレーヌシア諸島だとか、カプリ島だとか、「シシリアのペロロス岬に近いところ」(ストラーボン・第一書・二・一二)だとか、さまざまに言われている。対になったセイレーンたちはエウリービデースの時代にもまだ墓に彫られていた(『ヘレネー』一六七)。

 彼女たちの名前は、普通 seira:n 「ひもでしばる」からきているとされているが、もし「干あがる」を意味する seirei:n から出ているとすれば — この方が当っているようだ — 二人のセイレーンはギリシアの牧草地が干あがる夏至のころの女神の二面をあらわしていたのであろう。つまり、アンチ・ウォルタとポスト・ウォルタ — 新王の治世を予言によって待ち望む者と旧王のを悼む者とである。

 人魚の形をしたセイレーンは、古典期以後のものである。(グレイヴズ、p.843-844)
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