W


Wormwood(ニガヨモギ)

 アルテミシア・アブシンティウム(Artemisia absinthium〔ニガヨモギ)〕は太母に捧げられた。トレヴィサ〔JoJohn Trevisa (1342-1402)コーンウォール語の作家・翻訳家〕は1398年に、「アルテミシアは薬草の母と呼ばれ、アルテミス女神に捧げられることもあった」と記した[1]。ロシアでは、ニガヨモギは異教のニンフ(ヴィーラVila)に捧げられたので「呪われた薬草」と呼ばれた。しかしこの薬草にはヴィーラたちの悪事を防ぐ魔力もあった[2]

 wormwoodは古英語wermod(「霊-母」)の転訛形で、ドイツ語ではWermut。フランス語ではvermouthとなった。アブサンはフランスの魔女たちが初めてアルテミシアから調合したもので、 18世紀には商品化されたが、劇薬であることが判明した。ニガヨモギは習慣性の薬で、脳細胞を破壊し、譫妄状態を引き起こすこともある。さらに、市販されていたアブサンのアルコール度は68%であった[3]。フランス政府は19世紀の間、アブサンの製造を禁止した[4]


[1]Potter & Sargent, 274.
[2]Larousse, 293.
[3]Potter & Sargent, 275.
[4]Encyc. Brit.,“Absinthe."

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



Artemisia_absinthum.jpg バーバラ・ウォーカーの恣意的な語源説。wormwoodという現在の形は、「worm+wood」とする民間語源説。古英語は、「wer=man+môd=mood, courage」ではないかと考えられている。つまり、媚薬と考えられていた。
 ギリシア語 ajyinqivon、学名Artemisia Absinthium〔右図〕。アルテミスに捧げられる薬草である。ディオスコーリデスもさまざまな薬効を列挙しているが、「そのまま服用してはならない」と但し書きをつけている(Dsc. III-26)。

象徴・苦痛〕 この芳香性植物は甘みの完全な欠如を意味し、苦痛を象徴する。苦痛といっても主として苦み=心の痛みの形で示され、とくに別離による苦痛の象徴である。

ギリシア・ローマ・慣習〕 しかしすでに古代ギリシア人はブドウ酒に香りをつけるために用い、ラテン人は闘技者の喉の渇きを癒した。アブサンは活力をつける飲み物とみなされていた。

聖書・黙示録〕 『黙示録』において、ニガヨモギは松明のように燃えさかる星であり、歴史的には、イスラエルを荒廃させるバビロニアの王、預言的には悪魔を象徴する。

 ……第3の天使がラッパを吹いた。すると、松明のように燃えている大きな星が、天から落ちて来て、川という川の3分の1と、その水源の上に落ちた。この星の名は『ニガヨモギ』といい、水の3分の1がニガヨモギのように苦くなって、そのために多くの人が死んだ……」(『黙示録』8_10-12)。

災厄〕 聖書解釈者によれば、「ニガヨモギ」星の落下は、神の「大いなる日」、つまり世界の終末や最後の審判に先立って起こる宇宙のさまざまな大異変に数えられる。この落下した星は「地上の住民にの苦しみを与えるであろう」。奇妙なことにこの苦しみと死者は、「苦くなった水」が原因で生じる。ここでという、生命にとって最も重要な源泉に含まれる一般的な象徴体系と関連づければ、このニガヨモギが天から降ってきて生命の源泉を汚染する災厄と解釈したくなる。ヒロシマとか核爆発を連想させる。が放射能に汚染されをもたらす。また、農業で殺虫剤を濫用した結果、地下水にしみ込んだ硝酸塩が思い浮かぶ。

精神分析・倒錯〕 人間の内面の次元では、精神分析の立場からいえば、「ニガヨモギ」は性欲動の倒錯や、源泉の汚染、つまり「苦くなった水」を象徴する。
 (『世界シンボル大事典』)


画像出典:Artemisia_absinthum