ギリシア語のnymphe、ラテン語のnymphaは花嫁、あるいは結婚適齢期の若い女性を意味する。同じ語が、ハスの花、ヒツジグサ、あるいは貝殻のような女性生殖器のシンボルにも適用された。「ニンフたち」は女神の古代神殿において、とくに性的儀式のとき、巫女として仕えた。儀式では彼女たちは花咲ける豊穣の神聖なる原理を表し、ときには「神の花嫁」として知られた。Virgin Birth.
中世時代、ニンフという語は、魔女や妖精fairyに対して用いられた。ともに前キリスト教時代の巫女の系統を引いているからである。自然の精として「ニンフたち」は、太古の時代には女神が支配していた自然界のどこかに、自分たちの霊魂を永遠に埋め込んだと信じられていた。したがって水のニンフ、木のニンフ、山のニンフ、地の中、海、「妖精の国」に住むニンフたちがいた。古代ではニンフと性欲は結びつけて考えられたが、この考え方は、多かれ少なかれその後も引き続き保持された。月の狂気が交合の季節の古代のニンフたちに刺激を与えたと考えられたように、今日でも「ニンフォマニア(nymphomania)」〔女性の色情狂〕は、性的妄想、を意味する語である。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
〔ギリシア・神話〕 清流や水源、泉の神々の総称である。その中には、ネーレーイスたちNhrhivdeV(海のニンフ)、ナーイアスたちNai&avdeV(泉・河川のニンフ)、オーケアニスたち=WkeanivdeV(大洋の神オケアノスの娘)、テティスの姉妹たちがいる。
ニンフたちは、英雄を生み育てる。彼女たちは洞穴や湿った場所に住む。このことから、恐ろしい冥界的な側面を持つことになる。もともと、どんな誕生も、死と関係があるものだし、死も誕生と関係がある。彼女たちの特性が、だんだんと発展していって、無意識中の女性的な側面を代表するようになった。
誕生の神、とくに英雄たちの誕生の神であるが、やがて恐怖心のまじった崇敬の念を起こさせるようになる。彼女たちは、子供を盗んだり、出会った人々の精神を狂わせたりするようになる。「日中は、ニンフたちの出現する時間である。彼女たちに会ったものは、ニンフにあてられて興奮状態に陥る。……だから日中は水源、泉、木陰に近づかない方がよいといわれる。のちに出来上がった迷信によると、水から出てくる彼女らの姿を見たものは、狂気に陥るという。恐怖と魅惑の入りまじった感情にとらわれるからである。ニンフに魅惑されると、狂気にいたり、自己破戒につながるという」(ELIT、178)。
ニンフたちは、英雄的な狂気への誘惑を象徴する。こうした狂気は、戦功や肉欲、その他どんなレヴェルのことがらにおいても起こってくるものである。
(『世界シンボル大事典』)