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back.gif第16章 メディチ家のイソップ寓話集


インターネットで蝉を追う

第17章

イソップ伝について







[解説]

 イソップの伝記と称する写本に3種ある。

1)G本
grottaferrata.jpg 正確なタイトルは、「アイソーポスの生き方にまつわる、哲学者クサントスとその奴隷アイソーポスの書」。イタリアのローマ近郊、フラスカティのグロッタフェラータ修道院(右図)に保存されていたギリシア語写本で、修道院の名を採ってG本と呼ばれる。この写本の成立は、10ないし11世紀にさかのぼるとされる。
 大革命時代、ナポレオン軍の進駐により行方不明となっていたが、1929年、ニューヨークのピアポンド・モーガン図書館が所蔵していることがわかり、1952年、ペリーによって校訂・公刊された。
 邦訳は、
 島田清太郎『イソップ伝の研究』(中央公論事業出版, 1973.5)私家版のため入手困難。
 正確に訳そうとする姿勢は渡辺訳にまさるが、日本語として意味をなさない箇所が多い。
 渡辺和雄訳『イソップ寓話集 AESOPI FABVLAE』上・下(小学館、1982.11)

 TLGに収録されているテキストは、
TLG 1765 001
Vita G (e cod. 397 Bibliothecae Pierponti Morgan) (recensio 3),
ed. B.E. Perry, Aesopica, vol. 1.
Urbana: University of Illinois Press, 1952: 35-77.
(Cod: 17,247: Narr. Fict.)

翻訳は、
point.gifイソップ伝(G本/W本の対照)

2)W本
 正確なタイトルは、「哲学者アイソーポスの生涯」。13世紀から16世紀の写本十数種に基づき、1845年、ドイツのアントン・ウェスターマンが校訂したもの。

 TLGに収録されているテキストは、
TLG 1765 002
Vita W (vita Aesopi Westermanniana) (recensio 2),
ed. B.E. Perry, Aesopica, vol. 1. Urbana: University of Illinois Press, 1952: 81-107.
(Cod: 13,785: Narr. Fict.)

3)PL本
 ビザンツの学僧マクシモス・プラヌウデス(Maximos Planudes、1255頃-1305頃)が、W本系統のイソップ伝を底本に編んだもの。

 19世紀末にW本、20世紀にG本が世に現れるまでは、プラヌーデス本の『イソップ伝』のみがこの物語の西欧世界における唯一の伝本だったのであり、……イソップ寓話集の巻頭にまず「イソップ伝」を置くという慣習……自体、プラヌーデス本の刊本である1474年のミラノ版に始まり、以後寓話集編纂の際の伝統となり、その間400年(W本の刊行までと見て)、プラヌーデス本『イソップ伝』の権威はゆるがなかったのである。
     (小堀桂一郎『イソップ寓話』中公新書、p.130-131)

TLGに収録されているテキストは、
TLG 1765 003
Vita Pl vel Accursiana (sub auctore Maximo Planude) (recensio 1),
ed. A. Eberhard, Fabulae romanenses Graece conscriptae, vol. 1.
Leipzig: Teubner, 1872: 226-305.
(Cod: 11,718: Narr. Fict.)
翻訳は、
point.gifプラヌウデス編『イソップ伝』

 ペリーの考証によれば、イソップ伝は紀元1、2世紀ごろ、アレクサンドリア近郊で、ギリシア語に堪能なオリエント系の一知識人によって書かれたものであろうという。そのさい下敷きにしたのが、メソポタミアに伝わる知恵文学のひとつ「アヒカル物語」であるとされる。
 「ペリー教授は……G本のイソップの激しい愛憎にアポロとミューズの対立という筋書きを重ね合わせることにより『イソップ伝』の主題はアポロに象徴され、クサントスにおいて戯画化されたギリシャ都市文明とエジプトの女神イシスとその配下のミューズに象徴され、プリュギア人奴隷が体現する地方的な農耕文化の対立であるとした」(遠田勝「『イソップ伝』の伝承と変容」)。
 point.gifアラム語『賢者アヒカルの言葉』
 なお、G本・W本・PL本の内容の対照については、
 point.gifイソップ伝/対照表


 このほかに、TLGには以下の「イソップ伝」が収録されている。  

TLG 1765 004
4)Vita (fort. auctore Aphthonio),
ed. A. Eberhard, Fabulae romanenses Graece conscriptae, vol. 1.
Leipzig: Teubner, 1872: 306-308.
(Cod: 297: Narr. Fict.)

 物語作家(logopoios)アイソーポスは、生まれはリュディア人であったが、運命(tyche)によって、アテーナイでケラシアという添え名を持つゼーマルコスの奴隷となった。性格的にはすこぶる高潔な人物にして、主人思いの奴隷として仕え、学芸(mousike)が彼の舌に霊感を与えたので、ヘッラス人たちをさまざまな寓話(mythos)によってもてなした。とりわけ、活き活きとした教育ならびに若者たちの教導に不適切ならざる — 教訓的にして有益な寓話(logos)を編集し、人生に寄与したが、それは言葉なき動物たちの共同体を縒りあわせることによってであり、その寓話の中で、人間たちのひねくれた行為や禁断の習慣、種々様々な性格を譬えて、後付(epi-mythios)の中に明らかにした。また、教育の法則に合致した自然本性を有していたので、最善の書籍として尊重された。そのため、市民たちや、語ることを選択した人たちの間に、名誉愛をかけての競いあいが起こり、物語の豊富さを増した。こうして、ある人たちは〔例えばストバイオスのように〕、悲劇作品の中から要点を寄せ集めて、*詩人たちの警句の*真ん中に置いた、個々人の知識には、詩人たちの警句を証言として提示し、そうすることによって、その性格をより信じられるものにできると考えたからである。また他の人たちは、人生について美しく述べられた名言集の中から、はるかに多くを掻き集めた、われわれがそれの模倣者として、言葉〔書物〕の中から大事な事柄をより多く得られるとみなしたからである。またある人たちが手がけたのは、同じように言葉〔書物〕の中から矛盾点や合意点を、おのおのの種類ごとに譬え話に結びつけることであった。この種類を市民たちに伝え、そうすることで、競作に多大な有用性をもたらし、これによって反対論を強化することが可能となるためである。ところで、このような方法をアイソーポスが発見したのは、大衆演説においては、先ほど述べられたような奴隷たちや自由人たちにとって、寓話(mythos)による説明が有用であることを眼にしたからである。すなわち、ライオンたちやオオカミたちやシカたちやその他の動物たちの義務や、彼らの有する驚嘆すべき特質を眼前に据えて、聞き手の魂を導くを彼は常とした。つまり、作品に含まれる警句(gnomologia)の中に、彼の似たり寄ったりの解説(diegesis) — 遠回しに表現され、警句と同じような、作品によってこしらえられた — をわれわれは見出すけれど、それはなおそのうえに、おのおのの寓話(mythos)の中で言われている要点を、われわれが真理そのものと対比的に置くからにほかならないのである。

5)TLG 1765 005
『アイソーポスの寓話集 — 言葉なき動物たちに、人間の自然の行為を譬えたる』
ed. A. Eberhard, Fabulae romanenses Graece conscriptae, vol. 1.
Leipzig: Teubner, 1872:
309-310.
(Cod: 159: Narr. Fict.)

アイソーポスの寓話集 — 言葉なき動物たちに、人間の自然の行為を譬えたる

 寓話作家(mythopoios)アイソーポスは、生まれはプリュギア人であったが、運命(tyche)によって奴隷となった、黒人にして、途方もないまでにはなはだ不細工だったからである。この人物に関することは、本書において完全・明解にわかる。運命(tyche)がこの人物に知恵の言葉という恩恵を施したゆえに、この人物は善行(agatho-poiia)によって富み栄え、その理性(nous)に相応しい者となった。すなわち、綜観的教育と教訓にとって有益にして教訓的なさまざまな寓話(mythos)を編集し、人生に寄与したのであるが、そのさい、言葉なき動物たちの共同体(koinonia)を人間たちに適用し、さまざまな禁断の習慣や行動や性格を譬えて、寓話のなかで明らかにした、これによって、市民たちの間に名誉愛をかけて競いあうことが起こり、物語の豊富さが増大した。すなわち、ライオンたち、シカたち、その他の動物たちの驚嘆すべき特質が眼前に置かれると、聞き手の魂を導くことを〔アイソーポスは〕知ったのである。そこで、まったく同様にして、彼の物語は作品の警句の中に婉曲に表現され、これ〔???〕がまた類似していることを見出すのである。

          //END 2003.05.04. 訳了。

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