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back.gif第7巻・第1章


Xenophon : Hellenica



第7巻






第2章


[1]
 かくのごとく事態が推移している間に〔BC 366〕、アルゴス人たちは、 ヘラ神殿を見下ろす トリカラノンにプレイウウスに対する攻撃要塞を築いたのみならず、シキュオン人たちも、自分たちの国境の テュアミアを城塞化したため、プレイウウス人たちは大いに圧迫され、必需品にも事欠くようになった。それでも依然として、彼らは〔ラケダイモン人たちとの〕同盟関係を堅持した。とにかく〔筆者がこのような小国の話をするのは〕、大都市については、何か美しいことを実行した場合には、歴史編纂者たちはこぞって記録する。だが、たとえいかなる小都市であろうとも、多くの美しい所業を成し遂げた場合には、むしろなおもっと顕彰するにあたいするとわたしには思われるからである。

[2]
なるほど、プレイウウス人たちは、ラケダイモン人たちが最大であった時に、その友邦となった。しかし、彼らがレウクトラの戦いで殺戮された時も、そして、多くの周住民が離反し、すべての隷属民が離反し、さらには同盟者たちまでもが、わずかな例外を除いて〔離反し〕、いってみれば全ヘラス人たちが彼らに向けて出兵した時も、〔プレイウウス人たちは〕信頼に足る者でありつづけ、ペロポンネソスにおける最高権力者たちであるアルカディア人たちとアルゴス人たちとを敵としてもちながら、それでも彼ら〔ラケダイモン人たち〕の救援に赴き〔BC 370〕、そして、救援者たち――コリントス人たち、エピダウロス人たち、トロイゼン人たち、ヘルミオン人たち、ハリアイ人たち

[3]
(この時にはまだ離反していなかったから)――これらの救援者たちの中で、最後に プラシアイに渡る籤に当たりながら、しかも、傭兵隊長は先に渡る連中を引き連れて彼らを置き去りにして行ってしまっても、彼らは引き返すどころか、プラシアイ人たちの中から嚮導者〔案内人〕を雇って、敵勢はアミュクライあたりにあったけれども、可能なかぎり潜行してスパルテに到着した。じっさいまた、ラケダイモン人たちも、彼らをとりどりに称賛したが、わけても客遇するために牛を遣わしたのであった。

[4]
さらに、敵勢がラケダイモンから引き揚げると〔BC 369〕、アルゴス人たちはラケダイモン人たちに対するプレイウウス人たちの献身に怒り、全軍でもってプレイウウスに侵入し、彼らの領土を荒らした時も、彼らは服属するどころか、相手が可能なかぎりのものを壊滅させて退却を始めるや、プレイウウス人たちの騎兵は反撃に転じて相手を追尾し、相手は全騎兵とそれに配属された旅団がアルゴス人たちの後衛にあたっていたが、60騎でこれに攻めかかり、後衛全体を背走させた。そして、殺したのは相手勢のわずかをであったが、それでも、相手勢を皆殺しにした場合となんら異なるところなく、アルゴス人たちの見ているところで勝利牌を立てたのである。

[5]
 それでは再び〔もとにもどって〕、ラケダイモン人たちとその同盟者たちとはオネイオンを守備し、テバイ人たちは山越えをするつもりで接近していた。他方、アルカディア人たちとエリス人たちとが、テバイ人たちと合流するつもりで、ネメアを通って進軍している時、プレイウウス人たちの亡命者たちが、自分たちのところに現れてくれさえすれば、プレイウウスを略取できるとの申し出をもたらした。このことが同意をみたので、夜、亡命者たちと他にもその配下の者たちと、およそ600人が、梯子を携えて城壁のすぐ下に身を潜ませた。そして、物見の者たちが、敵勢接近中との合図をトリカラノンから送り、国がその者たちの方に心を傾注している時、まさにこの時に売国奴たちは潜んでいる連中に〔城壁を〕上るよう合図した。

[6]
かくして彼らは上って、守備隊の人手の薄い部署を押さえ、昼の守備兵を探し求めた。その〔守備兵の〕数は10人。つまり、各5人隊(pempas)のそれぞれから1名が昼の守備兵として残置されていたのである。そして、一人は眠っているところを殺し、もう一人はヘラ神殿に逃げ込もうとするところを〔殺した〕。しかし、昼番の守備兵たちは、市域を臨む城壁から飛び下りて逃げ、上った者たちは文句なくアクロポリスを手に入れた。

[7]
しかし、悲鳴が都市に届くや、市民たちは救援に駆けつけ、初めのうちは敵もアクロポリスから反撃に転じ、都市に通じる城門の前で闘った。次いで、増援部隊に攻囲されたので再びアクロポリスへと退いた。しかし市民たちも彼らもろともなだれ込んだ。そのためすぐにアクロポリスの中央部は〔敵勢が〕空となった。が、城壁や櫓に上って、敵たちは内側にいる者たちに吶喊し飛び道具攻撃をした。これを相手は地上から防戦し、城壁の上に通じる梯子のたもとで猛攻を加えた。

[8]
かくして、あちらとこちら両側の櫓のうちいくつかを制圧したのは市民たちで、上った連中に対して死にものぐるいで白兵戦を展開した。そのため相手は彼らの大胆さと戦闘ぶりに圧倒されて、より狭いところに押し込められた。が、まさにこの時に、アルカディア人たちとアルゴス人たちが都市を取り巻き、アクロポリスの城壁をその頭のところで掘り崩した。このため、中にいる人たちは、ある者は城壁上の連中を相手に、ある者は、外側からなおも上ってこようとして梯子の上にいる連中を相手に、吶喊し、ある者は、彼らのうちで上りきった連中を相手に櫓の上に向けて戦闘していたが、 幕屋の中に火を見つけて、藁束――当のアクロポリスからたまたま収納されていた――を運んできて、櫓の下からこれに火をつけた。ここにおいて、ある者は炎を恐れて櫓の上から飛び下り、ある者は城壁の上で人々の吶喊をくらって場外に転落した。

[9]
いったん退き始めると、たちまちのうちにアクロポリス全体に敵兵の姿は空になった。そしてすぐさま騎兵も撃って出た。対して敵は、これを見て退却した。梯子も、屍体も、さらには生きている者たちまでも、完全に跛になったのを何人か置き去りにしたままである。敵のうち死んだのは、内側で闘った者と外側へ飛び下りた者と、80人を下らなかった。この救国に、男たちは互いに握手をかわし、女たちは飲み物を運び、かつ、歓びに涙するのを眺めることができたのは、まさにこの時であった。この時には、居合わせた者たち全員を、ほんとうに、泣き笑い(klausigeros)がとりついたのであった。

[10]
 しかし、次の年〔BC 368〕にも、アルゴス人たちとアルカディア人たちとはみな、プレイウウスに侵入した。彼らが絶えずプレイウウス人たちに攻めかける理由は、かつは相手に腹を立て、かつは中間に位置していたことによるが、必需品の欠乏によって自分たちの側につくものといつも希望をいだいていた。しかし、プレイウウスの騎兵と選り抜きたちとは、この時の侵入にさいしても、〔アソポス河〕渡河の最中を、居合わせたアテナイ人たちの騎兵といっしょに攻めかかった。そして制圧して、その日の残りは、敵兵をして、山の背の下へと敗退させたが、その際、平野にある収穫物を、あたかも友のものであるかのように、踏みつけないように用心させながらである。

[11]
 再び〔もと(本章の初め=BC 366)にもどって〕、あるとき、シキュオンにあったテバイ人指揮官がプレイウウスに出兵したことがあった。彼が引率したのは、自分が保有していた守備隊とシキュオン人たち、およびペッレネ(1)人たちであった。というのは、〔ペッレネ(1)人たちは〕この時すでにテバイ人たちに追随していたからである。さらにまたエウプロンも、自分の傭兵およそ2000を率いて共同出兵した。さて、彼らのうち、その他〔=本隊〕の者たちは、トリカラノンを通過してヘラ神殿にむけて攻め下り、平野を壊滅させるつもりでいた。そこで、コリントスに通じる城門のところに、シキュオン人たちとペッレネ(1)人たちとを高みに残置し、この道を使ってプレイウウス人たちが迂回して、ヘラ神殿の上方、自分たちの頭上に出現することのないようにした。

[12]
しかし、都市からの人たちは、敵勢が平野に進発したと知るや、プレイウウスの騎兵と選り抜きたちとが反撃に撃って出て闘い、相手勢に平野を好きにはさせなかった。そして、その日の大部分はその地で小競り合いをして、エウプロン麾下は騎馬に適した〔平野〕まで追撃し、市内からの人たちはヘラ神殿まで〔追撃して〕過ごした。

[13]
しかし、好機と思われた時に、敵勢はトリカラノンから迂回路をとって退いた。というのは、近道をするようにしてペッレネ(1)人たちのもとに達することは、城壁の前の峡谷が妨げたからである。これを山の方へと少しく追尾しはしたが、プレイウウス人たちは引き返して城壁に沿ってペッレネ(1)人たちとその仲間の連中の方へと向かった。

[14]
対してテバイ人麾下も、プレイウウス人たちの急行を察知して、さっそくペッレネ(1)人たちを救援しようと競争になった。しかし騎兵たちの方が先に着いて、ペッレネ(1)人たちに突入した。初めのうちは持ちこたえたが、〔プレイウウス人たちは〕いったん後もどりして、今度は歩兵たちの加勢を得て再び突入し、白兵戦を展開した。 これによって敵勢はもはや崩れ、シキュオン人たちの何人かと、ペッレネ(1)人たちの非常に多くの善勇の士が戦死した。

[15]
こういう結果になったので、プレイウウス人たちが高らかに鬨の声をあげながら勝利牌を立てのは、尤もなことであった。一方、テバイ人とエウプロン麾下は、これを座視するのみであった、あたかも、見物するために駈けてやってきたかのようにである。こういったことが為されたあと、後者はシキュオンに引き下がり、前者は都市に引き上げた。

[16]
 さらに次のことも、プレイウウス人たちの成し遂げた美しいことである。すなわち、ペッレネ(1)人 プロクセノス(1)を生きたまま捕まえながら、彼らはあらゆるものに事欠いていたにもかかわらず、身の代金をとることもなく放免したのである。こういったことを成し遂げる人たちが、高貴で(gennaios)豪気な人(alkimos)であることを否定する人がどうしてあり得ようか。

[17]
 いや、そればかりか、じつに堅忍不屈の精神によって、彼らが友たちに対する信義を守りとおしたということは明白である。彼らは耕地からの収穫を封じられ、一部は敵地から取得し、一部はコリントスから購入して生き延びていた時、多くの危難をおかして〔コリントスの〕市場に出向いた。資金の調達も困難、運搬人たちを〔敵中〕横断させることも困難、運送用役畜の保証人を立てるのもやっとであったからである。

[18]
しかし、もはや完全に行き詰まったので、〔アテナイの将軍〕 カレスに、自分たちの輸送の護送をしてくれるよう交渉した。そして彼がプレイウウスにやってくると、〔戦争に〕役立たぬ連中もペッレネ(1)まで送り届けてくれるよう彼に頼んだ。こうして彼らをそこに残置すると、買い物をし、可能なかぎりの貨物を荷ごしらえすると、夜陰に乗じて出発した。敵勢に待ち伏せされていることを知らないわけはなく、必需品を持たないのは闘うことよりも困難と考えたからである。

[19]
かくしてプレイウウス人たちはカレスとともに前進した。そして敵勢に遭遇するや、ただちに行動に移り、お互いに呼びかけあいながら攻め込み、同時にカレスにも来援してくれるよう叫んだのであった。こうして夜になり、敵勢は道から撃退されたので、こうしてやっと彼ら自身も、彼らが運んできた物資も、家郷に無事たどりついたのであった。
 そして、夜の間眠らなかったので、昼おそくまで眠った。

[20]
やがてカレスが起きると、騎兵たちと重装歩兵の中の有為の士たちとがやって来て言った。
 「おお、カレスよ、今日という日、最美な働きを成し遂げることが貴殿にはできるのだ。すなわち、われわれの国境の地〔テュアミア〕をシキュオン人たちは要塞化し〔 本章1節〕、多くの建築請負師たちは持っているが、重装歩兵は全く多くはいない。そこで、われわれ騎兵と、重装歩兵のうち最強の者たちとが嚮導しよう。貴殿は、外人部隊を率いてついて来てくれるなら、おそらくは、貴殿には成し遂げられてしまったことが残されているだけであろうし、おそらくは、貴殿が姿を見せてくれるだけで、ペッレネ(1)においてのように、形勢を決定づけてくれるであろう。もしも、われわれの言っていることで、何か貴殿にとって心許ない点があるなら、神々に供儀してお伺いを立てられるのがよかろう。なぜなら、貴殿がこのことを実行するよう頼んでいるのは、われわれというよりはむしろ神々なのだと思うからである。ところで、おお、カレスよ、次のことはよく承知していただきたい。つまり、貴殿がこれを実行なさるなら、敵たちに対しては攻撃拠点を築いた人物、友邦を救済した人物となられるであろうし、祖国においては呼び声も高い人物、同盟者たちの間でも敵国人たちの間でも、最も有名な人物となられるであろうということは」。

[21]
 こう説得されてカレスは供儀を行い、他方、プレイウウス人たちの騎兵たちはすぐに胸甲を身に帯び、馬匹に馬勒を装着し、重装歩兵たちは歩兵戦に必要なものすべてを装備した。かくて武器をとって〔カレスが〕供儀している場所まで進軍すると、カレスと占師とが彼らに行き会い、卜兆(うらかた)は美しかったと言った。
 「しばし待たれよ」と彼らは言った、「われらもすぐに出撃するから」。
 そして、事触れがされるやいなや、一種神的な熱心さで傭兵たちはただちに走り出た。

[22]
かくしてカレスが進軍を開始すると、プレイウウス人たちの騎兵たちと歩兵たちとが彼に先行した。そして、初めは急ぎ嚮導していたが、次いで転げるように走りだした。最後には、騎兵は全速力で疾駆し、歩兵は隊形の維持が可能なかぎりの全速力で疾走し、カレスも真剣に彼らの後に追随した。時はまさに日没少し前であった。城塞の中の敵兵たちは、ちょうど、ある者は入浴し、ある者は料理を作り、ある者はパン粉をこね、ある者は寝床を作っているところであった。

[23]
相手は襲撃の猛烈さを眼にするや、驚倒してすぐさま敗走した。善勇の士たちにありとあらゆる必需品を残したままである。そこで彼らも、これと家から持って来たものとで晩飯を食い、善運に献酒し、戦勝歌をうたい、守備兵を立てて就寝した。他方、コリントス人たちは、テュアミアの知らせが夜つくと、すこぶる友好的に車輌とすべての役畜〔の供出〕を触れ、穀物を満載するとプレイウウスに差し向けた。そうして、城塞を築くまでの間、毎日輸送が続いたのであった。
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