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back.gif第7巻・第2章


Xenophon : Hellenica



第7巻






第3章



[1]
 プレイウウス人たちについては、彼らが友たちに信義を尽くしたということも、戦争において豪気でありつづけたということも、また、ありとあらゆるものに事欠いていたにもかかわらず、同盟関係を維持したということも、述べられた。ところで、これとほぼ時を同じくして、 ステュムパロス人アイネアスは、アルカディア人たちの将軍となっていたが、シキュオンでの件は持ちこたえられないと考えて、自分の軍隊とともにアクロポリスにのぼり、内にいたシキュオン人たちの最有力者たちを呼び集める一方、議定によらずに追放されていた連中を呼び寄せた。

[2]
そこで、これに恐れをなしたエウプロンは、シキュオン人たちの港に逃げ込み、コリントスからパシメロスを呼び寄せると、彼を介してラケダイモン人たちにその港を引き渡し、再びその同盟関係にもどった。そして言うには、自分はラケダイモン人たちに信義を尽くしてきた、と。なぜなら、国で、離反するのがよいと思われるかどうかの票決が行われた時、自分はわずかな者たちとともに反対票を投じたのだ、と彼は言った。

[3]
次いで第二に、自分を裏切った連中に報復したいと望んで、民主制を確立したとも〔主張した〕。
 「今も」と彼は主張した、「あなたがたを裏切った連中が亡命しているのは、わたしのおかげである。だから、もしもわたしが権力を握っていたなら、国家全体を率いてあなたがたの側についたものを。しかし今は、わたしが制圧者となっているこの港だけをあなたがたに引き渡したのだ」。
 彼がこう言うのを耳にした人は多い。が、どれほどの人たちが説得されたかは全く不明である。

[4]
 とにかく、いったん〔話し〕始めたからには、エウプロンに関する話を終えておきたい。すなわち、シキュオンで最善者たち〔=貴族階級〕と民衆との党争があった時、エウプロンはアテナイから外人部隊を引き連れて、再び帰還した。そして民衆とともに市域を制圧した。しかしテバイ人の総督がアクロポリスを確保しているので、テバイ人たちがアクロポリスを確保しているかぎりは都市を制圧するのは不可能と判断したので、金銭をこしらえて出かけた。最有力者たちを追放、都市を再び自分に引き渡すように、金の力でテバイ人たちを説得するつもりであった。

[5]
ところが、先の亡命者たちも、彼の道行きと心づもりを察知して、対抗してテバイに赴いた。しかし、彼が執政官たちと親しげに交際しているのを眼にして、彼が望みを遂げたのではないかと恐れをなし、数人の者が危険に身を挺してアクロポリスでエウプロンの喉をかき切った。執政官たち、および、評議会が合議をしている最中にである。もちろん、執政官たちは実行者たちを評議会に出頭させ、次のように言い立てた。

[6]
 「おお、市民諸君、ここなるエウプロン殺害者たちをわれわれは死罪をもって訴追する。われわれが眼にするのは、分別のある人たちは何らの不正も、まして神法に悖るようなことは決して行わないものであるが、邪悪な者たちはそれを行うとはいっても、気づかれないように努めるものだということである、にもかかわらず、この連中ときたら、不敵さと残忍さとの点で、いかなる人間をも超え出ているのであって、そのあげく、執政官がこぞっている前で、つまりは、何びとが処刑さるべきであり何びとがそうではないかの裁定者たるあなたがたがこぞっておられる前で、あの人物を勝手に裁断して殺害に及んだのである。もしもこの連中が極刑をもって償いをしないようなことがあれば、いったい誰がこの国に勇んでやって来ようとするであろうか。はたしてこの国は何を信じればよいのか、――各人が何のためにやって来たのかが明白でないうちは、望む者には殺害も許されるとしたなら。したがってわれわれはこれらの連中を、最も神法に悖る者、不正きわまりない者、不法きわまりない者、国を見下すこと最も甚だしい連中として訴追するのである。そこで、あなたがたは聞き届けたうえで、いかなる償いが連中に相応しいとあなたがたに思われるか、それを連中に課していただきたい」。

[7]
 以上のようなことを執政官たちは述べ立てた。ところが、殺害者たちのうち、他の者たちは下手人であることを否定したが、一人だけは認めたうえで、ほぼ次のような仕方で弁明を始めた。
 「いや、あなたがたを、おお、テバイ人諸君、見下すなどということはわたしには不可能である、――あなたがたは制圧者として、何でも望みどおりに自分を処置できるとわたしは知っているのだからして。しからば、いかなる信念のもとにここであの男を殺害したのか? よろしいか、先ず第一に、正義を行うと信じて、第二に、あなたがたは正しく判断なさると信じてである。というのは、わたしは知っているのである、――あなたがたもアルキアスと ヒュパテスの一味を、エウプロンと同じようなことを為したと解して、票決を待たずに、可能な時にすぐ報復なさった〔 第5巻 第4章 2-12節〕。それは、明白な涜神者、公然たる売国奴、僭主になることを企てた連中には、万人によって死罪が有罪判決されているとあなたがたは信じるからである、と。

[8]
しからば、エウプロンもまた万人にとってそういった罪科で有罪だったのではないのか? なぜなら、神殿は銀製・金製の奉納物に満たされていたのに、それらすべてを彼は空っぽにしたのだから。それどころか、売国奴としてエウプロン以上に明白な人物が誰かいるであろうか、――ラケダイモン人たちに最も友好的でありながら、彼らに代えてあなたがたを選んだやつ。あなたがたと保証を取り交わしながら、またもやあなたがたを裏切って、敵対者たちに港を引き渡したやつよりも? いやそれどころか、どうしてまぎれもなき僭主でなかったということがあろうか、――奴隷たちを自由人にしたばかりか、同市民にさえなし、他方、処刑し、追放刑にし、金銭を剥奪した相手たるや、不正者であるどころではなく、自分に〔そうしようと〕思われる者たちにすぎなかったやつが。そんな目に遭わされた者たちこそが最善者たち〔貴族階級〕だったのである。

[9]
さらに、あなたがたと敵対中の敵対者アテナイ人たちといっしょに再び国に帰還するや、あなたがたのもとから遣わされた総督に逆に武力を行使した。だが、これをアクロポリスから放逐できなかったので、金銭をこしらえて当地にやって来たのである。そこで、もしもやつがあなたがたを攻撃するために武力を集めていたことが明らかになれば、あなたがたはわたしに感謝さえなさるであろう、やつを殺したのはわたしだからして。また、やつが金銭を用意したうえでやって来たのは、それによってあなたがたを堕落させ、自分を再び国の制圧者にさせるつもりであったから、そやつにわたしが償いをさせたのに、あなたがたによって処刑されるとしたら、それがどうして義しいことであろうか。というのも、武力によって無理強いされた者たちは、なるほど害されはするが、しかしながら少なくとも不正者であることを証するわけではない。だが、金銭によって最善から堕落した者は、かつは害されると同時に、かつは恥辱にまみれるのだから。

[10]
とにかく、やつがわたしにとっては敵であっても、あなたがたにとっては友であったのなら、あなたがたのところでやつを殺したのはわたしにとって美しくなかったということにわたしも同意しよう。しかし、あなたがたを裏切ったやつが、どうしてあなたがたにとってよりもわたしにとっての敵だということがあろうか。『いや、神かけて』と言う人があろう、『彼は自発的にやって来たのだ』と。なるほどそうだとしても、あなたがたの国から離れたところでやつを殺害した者がいたとしたら、その人は賞賛に与ることであろう。ところがじっさいは、以前に仇を成した相手に、再度別の仇を成さんとしてやって来た時に、やつを殺したのは義しくなかったと主張する人がいるであろうか。そんな取り決めを、ヘラス人たちの間はもちろん、売国奴たちの間であれ、二度寝返った連中の間であれ、僭主たちの間であれ、示し得る人がどこにいるであろうか。

[11]
かてて加えて、思い返していただきたい。周知のごとく、亡命者はすべての同盟者たちから法的保護の外に置かれていると決議なさっているということを。しかるに、同盟者たちの共通の議定なしに亡命から帰還したような者、これを殺害するのは義しくないというふうに申し立てることのできる人が誰かいるであろうか。わたしの主張は、おお諸君、あなたがたがわたしを処刑してしまったら、あなたがたにとっての敵の中でも最大の敵のために報復することになろうが、義しいことを為したと判決を下されるなら、あなたがた自身のためと、全同盟者たちのために報復すること明らかになるということである」。

[12]
 テバイ人たちはこれを聞いて、エウプロン殺害は義しいとの判決を下した。しかしながら、彼の同市民たちは、善き士として〔テバイからシキュオンに〕運び帰り、市場に埋葬して、国の始祖として敬った。かくのごとく、たいていの人たちが善き士なりと規定するのは、どうやら、自分たちにとっての善行者であるようだ。
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