木下眞男 46年静岡県生まれ。69年日本大学理工学部建築学科卒業。同年、横浜市入庁。横浜市の都心、副都心計画やみなとみらい線計画を担当し、環境保全局長として環境保全条例の制定、都市計画局長として地域まちづくり推進条例、景観条例などの制定に携わる。現在竹中工務店横浜支店調査役。
 

「地域主権における都市と地方自治体」を語る

2011年3月10日、『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に「地域主権における都市と地方自治体」を書かれた木下眞男さんに、その意図をお聞きしました。人口減少のもとで都市が自立していくための道筋を横浜での経験をベースに語られました(2011.3.10)。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

何をお伝えになりたかったのですか

前田:
 今回『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』のなかで横浜のことをお書き頂きましたが、どういうことを皆さんにお伝えになりたかったか、掻い摘んでお話しください。
木下:
 もう今は、たぶん街がなくなってしまうような状況が全国にあるし、それぞれの課題が街で、都市で全部違うという点が重要であると思います。
 それを受けて、やっぱり質を重んじて魅力的な街をつくっていくためには、本でも書いていますけれども、やはり画一から分権と言いますか、地方分権とか地域の主権をどう取り戻すか、そしてまた都市がどう自立するかということを主題として皆で書こうということでスタートしたわけです。
 やはり新しい制度の確立も当然、必要なんですけれども、私も横浜市に奉職していましたので、都市がどれだけ質を重んじながら自立していくかということを、私としては本の中で書きたかったというのが重要なポイントです。
 これからの時代は、自治体がリーダーシップをとらなければいけないんですけれども、同時に都市を構成している市民の方、企業の方、そしてまた専門家あるいは大学とか、そういう方々が一緒になって連携して街を作っていくことが重要だと思っています。
前田:
 横浜市はいろいろな試みをしておられますが、そこから得られた教訓と言いますか、次の時代に引き継ぐべき事はございますか。
木下:
 私の章で言いたかったことは、都市の本質は多様性だと言うことです。その多様性をうまくバランスをとって質を上げると言うことが一つです。そしてもうひとつ、都市が自立するために、都市とか自治体が持たなければいけない三つぐらいの要素があります。それが総合性、主体性、個性です。
 そういうものをうまくバランス良く取り入れて、都市デザインとか、土地利用のコントロール、プロジェクト、市民協働のまちづくりとか、事業者との協働に取り組み、まちづくりを進める必要があります。そういうものを横浜市としてどうやってきたかを事例を紹介しながら書きたかったということです。

人口減少の時代では何がかわりますか

前田:
 横浜市はみなとみらい21をはじめ六大プロジェクトなど、大きなプロジェクトを動かして来られた訳です。とくにみなとみらいは大きな成功を収められていると思いますが、これからそういう大きなプロジェクトはなくなっていく、あるいは他の街ではなかなか出来ないと思います。そういうなかで都市計画の新たな挑戦としては、どんなことをお考えでしょうか。
木下:
 みなとみらいは横浜市の大きなプロジェクトで、構想からもう40年ぐらい経って、やっといま変わりつつあるのですが、もともとああいう大きなプロジェクトは、経済が成長していてですね、そのなかで生まれてきたのですが、今のように人口が減少していて、昔のような状況ではないわけですので、規模と、街をどうするかというスタンスと、どう柔軟に街をつくっていくかという三つが必要だと思います。
 それともうひとつ重要なのは、コンパクトな街をつくるという意味で言いますと、コンパクトな街をつくるには今までと発想を変えなければいけないんで、それはやはり人と人との関係、人と地域の関係、人と環境の関係をもう一回再考して、そういうものを重視するまちづくりをする必要があると思います。また規模の問題とか、みんなで一緒にやっていくということが一番重要なんです。
 みなとみらいは、参考にすべきところは多くありますけれども、21世紀は今までのような高度成長の時代とは違うという発想の転換が必要ではないかと思います。

若い行政マンへのメッセージは

前田:
 最後に、先生は行政の大先輩で、随分長いご経験のなかでいろいろなことをされてきたと思いますが、若い行政マンに何かメッセージはございませんでしょうか。
木下:
 やはり地方自治体としてやらなければいけないというときには、これからは国に頼るということではなくて、自分自身がすべきことを主体性をもってやる自信とですね、やはり自分たちのまちは自分たちでやらなければいけないという義務というか、責任感。その主体性と責任感、両方がないと取り残されるというか、ある面では都市として競争に乗り遅れて、都市間競争に勝てないという自覚を持つ必要があるのではないかと思います。
前田:
 どうも、有り難うございます。

震災後のコメント

 東日本大震災でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々にお見舞い申し上げます。
 今回の震災を受けて、首都圏への一極集中の構造を多核・自立型の構造に変革しなければならないことを改めて、感じます。
 同時に、技術と安全の関係、効率性、経済性の限界を見極め、地球という環境の中で、生きているという現実を直視し、自然への畏敬の念を持ち、自然と共生するまちづくりをどう進めるかが問われていると思います。
 

都市計画
根底から見なおし新たな挑戦へ

−−目  次−−

  • 蓑原敬 大きな曲がり角にある都市計画・まちづくり

    第1編
    都市計画を根底から見なおす

  • 西村幸夫 近代日本都市計画の中間決算
      ──よりよい都市空間の実現に向けて
  • 佐藤 滋 地域協働の時代の都市計画
      ──まちづくり市民事業からの再構築
  • 大方潤一郎
      まちづくり条例による国際標準の計画制度
      ──持続可能な都市圏構造と日常生活空間の実現のために

  • 中井検裕 分権下における広域計画
      ──続・都市計画と公共性

    第2編
    総合的な都市政策と直結する都市計画へ

  • 中村文彦 都市交通戦略のあり方
      ──公共交通を中心とした展開の方向性

  • 広井良典 コミュニティとしての都市
      ――定常型社会と「福祉都市」のビジョン

  • 小川富由 地域主権における住宅政策
      ──住まいまちづくり政策の多面的な展開

  • 若林祥文
      地域を豊かにするガバナンスと協働の展望
      ──見沼田圃の保全とホームレス支援の現場から

  • 木下眞男 地域主権における都市と地方自治体
      ──横浜市の現場から

  • ●本書の関連セミナー

    ・大方潤一郎ほか「まちづくり条例による国際標準の計画制度」(110310夕方より、東京)

    ●関連電子書籍

    [まちづくり新書No1]激論・激論 都市計画を根底から変えられるか
    2010年9月6日、『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』(2011年1月発行)を編集、執筆中の蓑原敬さんを迎え、行政の現場の方々にも多く参加頂き、改革の方向と、実現のためのプロセスを議論した。本書は、その記録である。(約6万1000字)
    2010.09.06 蓑原敬さん京都セミナー(終了)

    ●本書の関連論文

    基本的な認識を共有できるか
    6月5日を皮切りに連続で議論する建築学会のシリーズ第一回「建築・社会システムに関するシンポジウム〜市民社会の建築・まちづくり−新たな制度と仕組みの提案−」で蓑原敬さんが話されたメモです。これが第1章の中身に化けると思います。(蓑原)  

    西村幸夫さんインタビュー

    蓑原敬さんインタビュー(脱稿時)

    佐藤滋さんインタビュー

    大方潤一郎さんインタビュー

    蓑原敬さんインタビュー(出版時)

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