中井検裕 58年大阪生まれ。86年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程満期退学。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス研究助手、東京大学助手、明海大学助教授、東京工業大学助教授を経て、02年より東京工業大学大学院社会理工学研究科教授。工学博士。専門は都市計画、土地利用計画。
 

「分権下における広域計画」を語る

『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に寄稿いただいた中井検裕さんに、その意図をお聞きしました。特に農を守るためには広域計画が欠かせないというお話は印象的でした。(2011年3月11日午前10時〜11時に収録)
聞き手:前田裕資(編集部)
 

何を誰に伝えたくて書かれたのですか

前田:
 今回『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』という本のなかで、「分権下における広域計画」をお書きくださいましたが、そのなかでどういう方に何をお伝えになりたかったのか、手短にお話しいただけませんでしょうか。
中井:
 都市計画といわれている物の上位には、都市圏の計画だとか国土計画があって、下位にはまちづくりとか建築規制のようなものがあって、下位のまちづくりとか建築規制のほうはこの10年間で随分進んできたように思うのですが、上位のほうの仕組みや、あるいはそちらに訴えかけるような論説が非常にすくないなと思っていました。たまたま山梨県の仕事をお手伝いをしたこともあって、今回はそちらのほうに挑戦をしてみました。
 特に分権が進んで来たなかで、そういった小さな意志決定を集めて大きな公共性をどうやって実現するのかということは、理論的にも大変難しいチャレンジングな課題なので、ちょうど良い機会だと思って書いてみました。
 ですから、これから都市計画をやろうという人はもちろんのこと、行政の人とか、実はそれぞれの市民の方も少し自分の生活をとりまく大きな都市圏の話にも関心をもってもらいたいという意味では、多くの方に読んでいただきたいと思います。

大きな都市圏は生活にどう関わるのですか

前田:
 その大きな都市圏というものは、なかなか実感がもてない、あるいは自分がどの都市圏に住んでいるんだろうということすら分からない場合もあるのですが、どういうふうに生活に関わってくるのでしょうか。
中井:
 一つは環境はやっぱり、行政界とか街の境目とか、そういうものと関わりなく存在していて、風にしろ、水にしろ、そういうものを自分たちの生活に不可欠なものとして考えていけば、自ずと都市圏ぐらいのレベルを考えていくと言うことになっていくと思うのですね。
 もう一つは経済の話が非常に大きくて、この10年、15年ぐらい、日本の特に地域経済が疲弊をしているということが言われているわけですけども、それぞれの都市レベルでいくら頑張ってもグローバル競争だとか他の都市との競争で互角に戦えないという時には、どうやって自分たちの地域に力をつけるかという時には、周辺を巻き込んでやっていかざるを得ない。経済がよくなれば、当然それは、すぐにということにはならないかもしれないけれども、いずれは自分たちの生活に戻ってくるわけです。
 特に都市計画は、伝統的には経済の発展といういうことを、特に20世紀後半は一生懸命そちらを追いかけてやってきたんだけれども、それは都市計画にとっても大事なテーマの一つです。これをそのまま大きなテーマとするなら、やはりもう少し大きな目で都市圏単位の経済をこれから考えていくことは不可欠だと思います。

広域計画への参加はどうあるべきですか

前田:
 市町村にしても、都道府県の単位であっても、政治というのは遠いところがありますが、広域は必ずしも市町村や都道府県の単位ではないんですよね。どういうところ主体になるのか、どういうふうに市民は関われるのかという点はいかがでしょうか。
中井:
 計画制度論としては基本的には市町村がどう協力しあっていくかということになっていくと思います。ですから、なかでも首長の役割が広域計画ではとても重要で、なかなか隣り合っていても協力しにくいという状況が日本全国どこにもあるわけですけども、それをもし突破できるとしたら、やはり首長のリーダーシップであり、首長同士の連携から始めると言うことがとても大事だと思います。
 そういうところに市民がどういうふうに参加をしていくかということは、参加の方法論で、広域にどう市民参加をうまくからめていくかというのは、とても難しい課題なんです。今の、どちらかというとまちづくりのような個々の人びとがそれぞれの利害を前に出しながら調整をしていくようなタイプの参加じゃなくて、もう少し大きな議論を引き起こす、たとえば議会をどういふうにそこに絡めていくかというような、あるいはそれぞれの個人が集まった集団としての利益をどう代表していくか、たとえばNPOの団体だとか、専門家の集団だとか、そういう人達をどう参加の中心にもっていくか。なかでも大事なのはサイレントマジョリティの人達をどう参加で代表させるかということが、広域ではとても大事なんじゃないかと思います。
 ですから、まちづくりのほうで今まで一生懸命参加の技法を開発してきたんだけれども、それがそのまま広域でもうまく使えるかというと、そうではなくて、広域には広域流の参加の技法の開発が必要なんじゃないかな、と思います。

農と広域計画の関係は

前田:
 ちょっと話が飛ぶかもしれないのですが、今、農に対する関心が高まっていて、それをちゃんと残したいという人も多いのですが、そういうことと広域計画と関係があるのか、というか広域計画がないと農を守っていけないのか、育てていけないのか、という点はいかがでしょうか。
中井:
 農と都市をどう関係させるかというのは広域計画の最大のテーマの一つで、切っても切り離せないものだと思います。農という土地利用が建物系の土地利用と異なっているのは、農業というアクティビティが伴わないと維持できない土地利用だということなんですね。
 それは農業という生業としての農業政策と、空間としての農業的土地利用と、都市的土地利用という三者を関係させていくことが広域計画の大きな役割の一つであることは間違いなくて、逆に言うとそれをとってしまったら広域計画の意味の少なくとも半分ぐらいはなくなってしまうと思っていいと思います。
 特に日本の市街地のように農と都心の境界が明確でない、少なくともヨーロッパのようには明確ではない場所では、農と都市の両方を一つの目で見ていく、一つの視点から管理をしていくという仕組みが不可欠です。広域計画の大きな目標はそれだと言っても過言ではないと思います。
前田:
 どうも有り難うございます。
 

都市計画
根底から見なおし新たな挑戦へ

−−目  次−−

  • 蓑原敬 大きな曲がり角にある都市計画・まちづくり

    第1編
    都市計画を根底から見なおす

  • 西村幸夫 近代日本都市計画の中間決算
      ──よりよい都市空間の実現に向けて
  • 佐藤 滋 地域協働の時代の都市計画
      ──まちづくり市民事業からの再構築
  • 大方潤一郎
      まちづくり条例による国際標準の計画制度
      ──持続可能な都市圏構造と日常生活空間の実現のために

  • 中井検裕 分権下における広域計画
      ──続・都市計画と公共性

    第2編
    総合的な都市政策と直結する都市計画へ

  • 中村文彦 都市交通戦略のあり方
      ──公共交通を中心とした展開の方向性

  • 広井良典 コミュニティとしての都市
      ――定常型社会と「福祉都市」のビジョン

  • 小川富由 地域主権における住宅政策
      ──住まいまちづくり政策の多面的な展開

  • 若林祥文
      地域を豊かにするガバナンスと協働の展望
      ──見沼田圃の保全とホームレス支援の現場から

  • 木下眞男 地域主権における都市と地方自治体
      ──横浜市の現場から

  • ●本書の関連セミナー

    ・大方潤一郎ほか「まちづくり条例による国際標準の計画制度」(110310夕方より、東京)

    ●関連電子書籍

    [まちづくり新書No1]激論・激論 都市計画を根底から変えられるか
    2010年9月6日、『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』(2011年1月発行)を編集、執筆中の蓑原敬さんを迎え、行政の現場の方々にも多く参加頂き、改革の方向と、実現のためのプロセスを議論した。本書は、その記録である。(約6万1000字)
    2010.09.06 蓑原敬さん京都セミナー(終了)

    ●本書の関連論文

    基本的な認識を共有できるか
    6月5日を皮切りに連続で議論する建築学会のシリーズ第一回「建築・社会システムに関するシンポジウム〜市民社会の建築・まちづくり−新たな制度と仕組みの提案−」で蓑原敬さんが話されたメモです。これが第1章の中身に化けると思います。(蓑原)  

    西村幸夫さんインタビュー

    蓑原敬さんインタビュー(脱稿時)

    佐藤滋さんインタビュー

    大方潤一郎さんインタビュー

    蓑原敬さんインタビュー(出版時)

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