間歇日記
世界Aの始末書
【2月24日(月)】
▼《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。
おお、なんというめぐりあわせじゃ。やはり、なにか引き合うものがあるのやもしれぬ。この二人の作家の、しかも中短篇集が異なる出版社から同時に送られてくるとは、なんともヘヴィーである。濃い。もたれる。だけど面白い。
『小指の先の天使』に収められている作品は、なんと執筆・発表時期が二十年にもわたっているのだが、まるで最初からこの作品集に収めるために書いたように、ごく自然に同じ肌ざわりの作品が揃い、うまく繋がっている。が、二十年のあいだには、ちゃんと二十年分の深みが増してゆくのである――などと、今日送られてきたばかりなのにすでに読んでしまったかのような口ぶりだが、毎度のことながら、おれの予知能力を以てすればわかるのだ。その証拠に、この作品集の寸評は〈週刊読書人〉2003年4月11日号に絶対に書くにちがいないのである。「原点にして到達点」なんてことが帯のコピーやらアオリ文やらに書いてあって、たいていの場合、この文句は創意のあまり感じられない落ち穂拾いの作品集を出すときなどの常套句なのだが、本書に関しては、ほんとうに掛け値なしに「原点にして到達点」としか言いようがない。じつに的確なコピーだ。
『忌まわしい匣』は、一九九九年十一月に集英社から出たハードカバーの文庫化。そりゃもう、タイトルがすべてを言い尽くしている。忌まわしいとしか言いようがない作品集である。なんとも手抜きの紹介に見えるかもしれないが、これ以上正しい評価はないと信じる。本書のハードカバーに大森望さんが寄せた名文句は、いまだに忘れられない――「良識は駅前の自転車置き場に捨ててきた」というやつだ。いまから拾いにいっても、もうないと思う。
たしかに関西のSF作家にはヘンな人が多い。あの人とかあの人とかあの人とか。ヘンだが、基本的に彼らは頭がよい。よすぎる頭がなにかに呪われたように妙な回転のしかたをするだけであって、妙ではあるがその回転のしかたは一応正気の人間のそれである。しかし、牧野修に関しては、正気を疑う。なに? いくらなんでもそれは失礼ではないかってちがいますちがいます、読んでいるほうが自分の正気を疑うのだ。おれのような高潔な人格を持つ慈愛と徳に満ち溢れた良識の塊でさえそのように感じるのだから、ある種の素質を持つ方々にとっては、牧野作品はほんとうに危険物だと思う。他人の気を狂わせられたら本望だと牧野修は言うだろうけれども、自分がある種の素質の持ち主だと自覚している人は、悪いことは言わないから読まないほうがいいと思う。あ、もう読んでますかおれは知らん知らんぞ。
【2月23日(日)】
▼『仮面ライダー555(ファイズ)』(テレビ朝日公式サイト/東映の公式サイトのほうが面白い)が気に入ったので、毎週観ている。平成仮面ライダーはあまりにも大人向けになりすぎたせいか、555は少しオーソドックスなところへ戻っている。それでもまだ、小さなお友だちには難しいだろうなあ。勧善懲悪じゃないからね。正義と悪との表裏一体性とでも言おうか、それらは結局同じものだと匂わせる設定がなかなか渋い。
この日記の読者の半分くらいはいい大人でもたぶん観ているだろうと思うが、お子様をお持ちでないふつーの大人の方々のためにちょっとご説明する。いわゆる“怪人”役たちは“オルフェノク”と呼ばれる存在で、こいつはどうやら、夢破れた人間や手酷く裏切られた人間の中でとくに素質があるやつが“覚醒”して変身能力を含む超能力を得るものらしいのである(いまのところ、まだ確たる規則性は見出せない)。仮面ライダー側はといえば、行方不明になっている謎の巨大企業の前社長が娘・真理に送ってきた変身ベルトを、真理とひょんなことから知り合った風来坊(死語か?)の若者、乾巧が装着して変身する。彼以外の人間がこのベルトを使って変身しようとしても、みな失敗しているのである。やはり仮面ライダーになるにも素質が必要らしい。ところが、いままでのところで判明している面白い事実は、変身ベルトを奪って装着したオルフェノクは、ちゃんと仮面ライダー555に変身できるということである。面白い。じつに面白い。なるほど、「♪敵に渡すな、大事なリモコン」か。
なにしろ、まだまだ謎が謎を呼ぶ展開で、設定の細かいところも想像に委ねられているから(子供にわかるのかねー?)、ここまでのおれの説明が正しいかどうかもわからないのだが、おれの考えているとおりだとすると、子供番組としてはたいへん興味深い大胆な設定だと思う。つまり、仮面ライダーになれる人間と怪人になれる人間とは、おそらく同じ素質の持ち主なんである。なんらかの過剰あるいは欠落を抱えている。当然予測される展開として、乾巧はオルフェノクであり、変身ベルトなしでも、いずれオルフェノクとして覚醒する――なーんてことが考えられる。そうなると、小さなお友だちには、それこそなにがなんだかわかんないだろうなあ。でも、大きなお友だちは、「そうだよなー、そういうもんだよなー」としみじみ思うにちがいない。トマス・マン的である。今後の展開が楽しみだ。とくに加藤美佳、役者としてはまだまだてんで大根だが、目がいい。雪女か吸血鬼をやらせたい目だ。ぜひ伸びてもらいたい。おや、話が逸れたな。
仮面ライダー・シリーズでも、今回の怪人“オルフェノク”たちの造形は異色だ。ど派手な仮面ライダー555に対して、基本的にモノクロというのが渋い。ときどきレアアイテムとして“夜光オルフェノク”が出てきそうだ――と予想しているこの日記の読者は十人に三人くらいいると思う。賭けてもいいが、喜多哲士さんは絶対そう思っている。