女神アルテミスArtemis崇拝のために生贄となる聖王である。「角のある神」に扮した。アルテミスの水浴中の裸身を見たために、シカに変身させられ、自分の猟犬に 噛み殺された。こうしたアクタイオーンの話は、さかのぼると、「スペイン北部アルタミラの旧石器時代の洞穴壁画に、また、少なくとも紀元前2万年のものと思われるフランスのアリエージュにあるトロワ・フレル洞穴の壁画に見られる」[1]。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
アクタイオーンは、雄鹿を信仰していたプレ・ヘレーネスの聖王のことらしい。この聖王は、統治の五十か月、つまり大年の半期のおわりに八つ裂きにされ、残る後半期は彼の共同統治王か、または後継者が統治することになっていた。正確に言うと、ニンフが沐浴をするのは、この殺戮のまえではなく、あとである。
これに似た祭式の慣習はアイルランドやウェールズの神話にもたくさん見うけられ、またアルカディアのリュカイオン山では、くだって1世紀ごろまでも、雄鹿の皮を着た男が定期的に追跡され、殺される祭式が行われていた(プルータルコス『ギリシア問題』三九)。
この神話にあらわれる猟犬は、ケルト神話のなかの「地獄(アンヌウヴンAnnwn)の猟犬」のように、身体は白くて、赤い耳を持っていたのであろう。(グレイヴズ、p.128-129)