赤ちゃんからの咬合誘導

目次 口腔と健康の関わり なぜ咬み合わせが悪いと良くないの? 咬合誘導の効果 歯並びが悪いと抜歯するの? 健康のために何をすべきか 顎関節症 たばこについてもっと知ってみませんか 作者紹介 リンク

 健康な口腔環境が出来るには、生まれた時からいろいろなステップをクリアーしていくことが必要です。好ましい歯列・咬合に発育するために、広い意味での咬合誘導(歯並び・咬み合わせの育成)について述べてみたいと思います。

妊娠中からの注意
 妊娠中の期間は脊椎動物5万年の歴史の地球環境に相当するといわれており、5時間睡眠で奇形ができるといわれています。特に妊娠32日から38日の間は大切で、その期間に睡眠不足であったり、ずっと立っていたりしていると造血が障害され、腸管の血液の酸素不足から胎児が酸素不足に陥って、深刻な内臓奇形が起こることがあります。ヒトの骨髄造血は睡眠中にしかできないといわれており、熟した白血球やリンパ球ができるためにも、8時間以上の睡眠をとることは重要です。もちろん、タバコなども血管を収縮させるだけでなく細胞毒なので良くないことは言うまでもありません。

出来るだけ母乳で
 まず、赤ちゃんは母乳を吸うことにより、正しい嚥下(飲み込む)サイクルが出来てくるのですが、そこで、母乳が出ないから、また赤ちゃんが吸えないからといって母乳をあきらめて、人工栄養に切り換えたりすると、通常の飲み込み方が出来ず、摂食に関わる筋肉の使い方がうまくいかず、そのことが悪い歯並びをつくっていくことになります。やむを得ず人工栄養を行なう場合でも、正常な嚥下サイクルをつくるため、吸わないと出ない、ヌークの乳首のような形態が望ましいでしょう。それで出来なくても、穴の小さなものを使用すべきで、クロスカットのものは避けるべきです。全く吸わなくてもミルクが出てしまうため、赤ちゃんの吸う力のトレーニングになりませんし、出過ぎて喉を詰まらせることもあります。また、哺乳瓶を使用する場合寝かせた姿勢でミルクを与えてはなりません。必ず母乳と同じように上体を起こしてやることが大切です。また、母乳が出にくい場合、一部の産婦人科医の先生が実行されているそうですが、出産時の胎盤を冷凍保存して、母乳が出なくなった時にそれを摂取すると、胎盤の中に含まれたホルモンの作用で、母乳の分泌が大変活発になるそうです。また、離乳食についてですが、アトピーやアレルギーの防止の見地から、前述の西原先生は、腸管の異種蛋白防御機構が完成する1歳までは、母乳だけで育て離乳食を与えない方がよいといわれています。

よい睡眠姿勢
 うつ伏せ寝については、一時大変流行しましたが、赤ちゃんの突然死の原因になるともいわれたため、かなり減ってきました。しかし、まだ推奨されている産婦人科の先生もおられるようです。うつ伏せにすると呼吸がしやすく、眠りが深くなるとか頭の形がよくなるなどという理由からだそうですが、うつ伏せ寝をするとベッドすれすれに鼻が位置するため、酸素より重い二酸化炭素の濃度が上がり、酸素不足に陥りやすくなります。さらに、うつ伏せ寝の場合、固いベッドを使うため、上下の歯列に非常に大きな力がかかり歯列の変形をもたらすことになります。横向き睡眠を行っても、それだけで骨盤に左右差を生じ、大人になればそのために腰痛を起こすことがあります。仰向けになって横隔膜呼吸を行うことで改善が図れます。また、一度ついたうつ伏せ寝の癖はなかなかとれず、治すのに苦労することになります。低年齢児の場合、保護者の方が気がついたときに仰向けに直してやれば矯正は可能でしょう。やはり、よい睡眠姿勢としては、枕をせずに上を向いて鼻呼吸を行なうことといえるでしょう。それが、うまくいかない場合、頚椎のサポートの意味も含めて、使用時に1cm位になるような羽毛などの柔らかい枕を使用されてもいいでしょう。ただ、鼻呼吸がし難く舌の筋肉の力がついていない場合、息苦しくなったりいびきをかいたりしやすくなります。日頃より吸う力のトレーニングにより舌筋を強くしていくことが必要です。欧米諸国でも乳幼児突然死症候群(SIDS)が問題になり、以前はうつ伏せ寝が主流であったのですが、『うつ伏せ寝をしない・赤ちゃんを暖めすぎない・母乳育児・母親(保護者)の禁煙』といった対策キャンペーンを行なったところ、SIDSが激減したという結果になり、最も成功したキャンペーンといわれています。

口呼吸にならないために
 鼻で呼吸することがうまくいかないと、嚥下(飲み込む)の際、下の図のような筋肉の使い方になって、前歯が閉じなくなったり出っ歯になってしまったりして、歯列の変形が起こってきます。左下の写真は7歳の女児ですが、常習的な口呼吸のため、口の形態が赤ちゃんのまま大きくなったようで、歯は出っ歯になっており、口唇を閉じることが非常に難しくなってしまっています。鼻呼吸をしていれば気道の中に副鼻腔といった、空気中の有害物質を取り込むフィルターの役割をする器官がありますが、口呼吸の場合それがなく、のどのまわりのリンパ組織に有害物質が溜まることになり、このようになると、口呼吸によって、扁桃腺など喉の周囲のリンパ組織が腫れて、アトピーやアレルギー性鼻炎などを非常に起こしやすくなります。口呼吸では鼻の形態も特徴的になっていきます。〈⇒健康のために何をすべきか
 
正常な安静位 正常な嚥下 口呼吸者の嚥下
  正常な安静位   正常な嚥下  口呼吸者の嚥下
  西原克成著『呼吸健康術』より転載(上の図3枚)
 口呼吸者の口元のかたち(7歳) ヌークのおしゃぶり(左・本体、右・1歳児)

 
ピジョンのおしゃぶり

左:新生児用 中:4.5〜8ヵ月 右:鼻呼吸促進用

 

指しゃぶりとおしゃぶり
 指しゃぶりに関しては、色々言われていますが、1歳半ぐらいまでは吸う力をつけるために、積極的に行なってもいいと思われます。しかし、その習慣がずっと継続すると、指には骨が入っているので、開咬(前歯が閉じなくなる歯並びの不正な状態)や前突(出っ歯)のような障害が出てくることになります。そのことによって、口唇の閉鎖が難しくなり、口呼吸を誘発することにもなります。おしゃぶりと指しゃぶりは、同一視されがちですが、おしゃぶりの場合ゴムだけですので、歯列に対しての影響は、あまり考えなくてもいいと思われます。それよりも、口をふさぐ習慣により鼻呼吸を促進していく効果の方が大きく、好ましい歯並びを作るのに効果が大きいと考えられます。おしゃぶりを使用すると、口腔周囲の筋肉が絶えず蠕動(ぜんどう)運動し、左右均等に筋肉が使われるため、口元のしまった顔貌になっていきます。また、1歳半を過ぎて、指からおしゃぶりに変更するのはなかなか難しく、出来れば最初から、おしゃぶりを使用されるといいでしょう。おしゃぶりは以前からヌークの形を推奨してきましたが、最近ピジョンから発育段階別おしゃぶりが発売され、より推奨できるものとなりました。口呼吸は1歳位からできるようになるといわれますので、それまでに習慣づけが出来れば、おしゃぶりは、口呼吸を防止し、吸う力をつける意味で効果的であるといえるでしょう。さらに、寝ている時に指しゃぶりをすると、必ず横ないしうつ伏せになりますが、おしゃぶりの場合あお向けの正しい睡眠姿勢が取れることもあり、おしゃぶりの効果のもうひとつの根拠になります。 前東京大学の西原克成先生は、アトピーの原因に口呼吸を挙げられ、その防止のため4歳くらいまでおしゃぶりを使用することを推奨されています。おしゃぶりを高年齢まで使用すると一時的には開咬が起こりますが、鼻呼吸の習慣がついていれば、おしゃぶりを止めるとまもなく咬み合わせは閉じてきます。 ただ舌の筋肉が出来ていないとか、咀嚼、嚥下の正常なサイクルがうまくいっていない場合、おしゃぶりをしてもうつ伏せ寝をする例があります。そのような場合、非常に狭い歯列が出来てしまう恐れがあり注意が必要です。おしゃぶりについては根強い反対意見もあるのは事実で、そのような学者の方は2歳半から遅くても3歳には外すことを 奨められています。

舌小帯の障害
 また、最近舌小帯(舌の下部についている粘膜のヒダ)が十分に吸収せず残ったままの人をよく見かけます。以前は誕生の際に助産婦さんが切っていたそうですが、出産の管理が産婦人科医に移ったころから、放っておいても自然吸収するとの見解から、切らなくなったそうです。そこへ、乳児期に母乳を強く吸うといった、舌を十分に使うトレーニングが出来なかったり、最近の食生活の軟食化が追い打ちをかけ、唾液の分泌が少なくなったりして、嚥下回数が減ったことにより吸収されない舌小帯が増えることになったと考えられます。このような人の場合、舌の筋肉が十分に発達せず、舌の動きが悪いため、舌足らずのしゃべり方になったり、肩こりを起こしやすかったりします。また口腔の筋肉のバランスも悪くなりやすく、歯並びが悪くなりやすくなります。その対策として、まずやや口を開けた状態にして上顎の硬軟両口蓋移行部(喉の奥の固いところと柔らかいところの境目)を、舌の先でなめるようなトレーニングを行ないます。それでもヒダが伸びないようでしたら、ヒダを切る手術を行なうようにして、トレーニングを続けます。それにより、舌の筋肉が力を付け好ましい咬み合わせに導かれるようになります。
 
 
吸収されない舌小帯   左:7歳女児  右:成人  

甘いものの効用とガム療法
 歯列不正は、歯列全体が内側に位置していることが多いものです。最近虫歯にならない甘味料として、キシリトールが注目されていますが、これは虫歯の原因になる菌が利用出来ない種類の糖類であり、歯の再石灰化を阻害せず、さらに血糖値を上昇させないので、糖尿病患者さんの甘味料としても有効です。また甘いものは唾液を出させるために大切なものです。このところ甘いものを食べさせないことで子供の虫歯は減少しましたが、調理された柔らかい食物が氾濫した結果、よく咬まずに飲み下すような食生活となり歯並びの悪い子供が増えることになっています。歯列は外側の口輪筋や頬筋と、内側の舌筋との力のバランスによって成り立っているので、ガム(もちろんキシリトールなどのシュガーレス)を左右バランスよく咬ませることによって、舌の力を強くすることは歯列の発育に大変有効です。現在よくみられる歯列不正は、歯列全体が内側に位置していることが多いものです。 一口30回〜50回の咀嚼は歯列の発育のためにも、嚥下回数を増やし舌筋の強化につながるものです。
 

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