なぜ咬み合わせが悪いとよくないの?

目次 口腔機能と健康の関わり 赤ちゃんからの咬合誘導 咬合誘導の効果 歯並びが悪いと抜歯するの? 健康のために何をすべきか 顎関節症 たばこについてもっと知ってみませんか 作者紹介 リンク

 最近の子供たちは、歯牙の並ぶスペースがなく、いわゆるディスクレパンシーと呼ばれる、歯が歯列の中にきれいに並びきらない状態となっていることが多くなっています。そして子供たちの中でも疲れやすいとか、いろいろな体の不調を訴える人がかなり目立って来ています。その中には、咬み合わせが悪いことが原因と思われるものもかなりあるようです。

口腔筋のバランスによって歯列は形成される

医歯薬出版 『歯科矯正学』より転載

歯並びの悪い状態(14歳)

 そしてその原因として、食生活の軟食化により顎が小さくなっているといわれ、「卑弥呼の時代のような固いものを食べて顎を発達させよう」といったことが常識のように語られています。しかし、顎の脆弱化した現代人に、卑弥呼の時代の食事をさせれば顎関節症(顎の関節の病気、口が開きにくくなったり痛みが出たりする)になってしまうことも考えられます。また、固いものを食べることによって、本当に顎の成長が得られるのでしょうか?歯列は口輪筋・頬筋といった歯の外側の筋肉と、内側の舌とのバランスによって成り立っています。固いものを食べると、咬筋などの外側の筋肉が発達して、歯列は発育していかない方向にいくはずです。そこで考えられるのは、咀嚼(そしゃく・かみくだくこと)とともに行われる嚥下(えんげ・飲み込むこと)運動によって、舌運動が活発化して起こる舌の筋肉の発育です。「かめない子・かまない子」というのが問題となっていますが、乳児期の嚥下サイクルの形成期に、口唇・舌の発育が充分でないと歯列不正になるとともに、いろいろな不定愁訴(明白な器質的疾患が見られないのに、さまざまな自覚症状を訴える状態)が現れてくることになります。このような状態を放置していると、成長期をすぎて矯正を行うとすると、抜歯症例となる場合が多くなります。また、咬み合わせても、歯の接触面積が少ないため、噛む力も弱く咬み合わせも不安定になります。アメリカの矯正医で98.5%非抜歯で治療しているという、グリーンフィールド先生も抜歯すると顔貌の萎縮がみられ、その人の本来持っている成長発育を阻害すると報告しております。またウイルソンの3Dモジュール矯正の極東地区インストラクターである各務肇先生も、舌の発育が充分でないことにより歯牙が舌側傾斜(内側に倒れる)して、歯列の発育が抑制されディスクレパンシーがおこり、また舌のはいるスペースが不足し、舌根沈下(舌がのどの奥の方へ落ち込んでしまう)のため気道狭窄を起こし、酸素の取り込みが不足して、いろいろな不定愁訴が起こるといわれています。例えば、朝起きたとき喉がカラカラであったり、偏頭痛・腰痛・冷え性を起こしたり、などは咬合からくるものがかなりあるようです。

 また、口呼吸や、うつ伏せ寝などの力学的側面から、歯列の変形や咬合の破壊、顎関節症、さらには免疫系が侵されて、アトピーや鼻炎、喘息、血液疾患などが起こることも、東京大学の西原克成先生からの報告にあります。

      正 面

上、うつ伏せ寝による狭窄

 下、小臼歯の舌側転位

 この方は20代の女性です。下顎の小臼歯(前から5番目の歯)が生えるスペースがなく、内側に倒れています。そのため、舌の入るスペースはそれより奥側となり、舌がのどの奥の方へ位置することになります。それによって気道(空気の通り道)が狭くなり、体全体が酸素不足になり、睡眠が浅く、仰向けには苦しくて眠れないため、横ないしうつ伏せ寝をすることになり、歯列に頭の重さがかかり、歯並びの狭窄を起こしています。さらに、朝起きたときの偏頭痛や、冷え性などが起こっています。また、歯列の前突から口呼吸をしており、さらに悪い循環になっています。

      正 面

      上

      下

 同じく20代の女性ですが、うつ伏せ寝の影響がよりはっきり現れています。歯列はV字型になり、前突のため口唇を閉じにくく、やはり常習的な口呼吸になっています。そのため扁桃腺が腫れており、免疫機構の疲れからアレルギー性鼻炎があり、花粉症にもなっています。また、上の歯列が下の歯列を抱え込むように内側に傾斜しており、このような咬み合わせの場合、顎関節症を起こしやすいといわれています。


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