パブリックを問う(1)
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事例2 「風の丘」

−強い空間性をインストールする

画像mi025 改行マーク先ほどデザイナーはB回路で内に向かわざるをえないとお話ししました。 言い換えれば、 ファミリーレストラン的にみんなで議論しながら一つひとつ解決した空間を用意してあげる前に、 強い空間性をその場所にインストールする、 設置することがまず大事なのではないか。 そこから個人と公共との対話が始まるのではないかという考え方を持っています。

改行マークこれは最初に紹介していただいた中津の葬祭場の公園です。 葬祭場が出来たあとから、 その横が公園になりまして、 それを私が設計したわけです。 その時に一番考えたのは、 公園自体がさきほどのイサムノグチの例のように一つのアートであって、 そこにたまたまみんなが来て公園として使う。 しかし、 それがどのような使われ方をするのかとは別個に、 すでに空間が一つの存在としてあるべきではないかということです。

画像mi026 改行マークこれはイギリスのバースにあるクレッセントサーカスです。 私がこの空間に感銘を受けるのは、 それが何のためにあるのかということとは別に、 その空間自体が非常に美しいということです。 ここには半円形の集合住宅に囲まれて「コモン」と呼ばれる芝生の広場があります。 これがハイドパークやリージェントパークと違うのは、 空間として強い固有性を持っていることです。 あの「風の丘」も、 今にして思えばこのコモンの記憶が私のなかにあったのではないかと思います。

画像mi027 改行マークこれは「風の丘」のプロジェクトの依頼が来て、 敷地に行く前に描いた絵です。 次の週に敷地に行く予定だったのですが、 市議会から取り敢えず絵を描いて下さいと、 航空写真を渡されたので、 その上に描いたものです。 その時にイメージしたのは、 イギリスによくある遺跡のリングのようなものです。 のちに我々はアースディッシュと呼ぶことになるのですが、 芝生のディッシュをつくっておいて、 火葬場の庭として使ってもらってもいいし、 公園として使ってもらってもいいのですが、 まず強い空間性をここに設定するべきではないかと感じたわけです。

画像mi028 改行マークこれは基本設計段階の模型なので、 出来たものとは若干異なります。 このプロジェクトを通してずっと注意していたのは、 このアースディッシュの土のたわみ方です。 単なる芝生広場ですが、 ふと視点を変えてみると、 一つのアースワークになりうるように、 地面のつくり方には非常に注意しました。

画像mi029 改行マークこれは排水溝です。 ラインを使って、 こういう曲面をつくりました。 ここでは図面通りの曲線を正確にだすために、 土木の現場の所長さんとのやりとりのなかで、 何回も工法を確認しながら進めました。


日常と非日常
−距離感をもたせた対話関係

画像mi030 改行マークこういうアースディッシュのように、 強い空間性を敷地にインストールするということも、 一つのボイドの創出だと思います。 ポカーンとしているけれども強い、 何もないけれども強い空間をつくることによって、 ここの公園に入った人は、 日常生活から切り離されながら対話関係ができる。 一旦切り離されることによって、 日常を問い直すことができるのではないか、 という期待があります。

画像mi031 改行マーククレッセントサーカスのコモンのなかに入ると、 芝生に覆われていながら自分の家(集合住宅)が見えているわけです。 かつ自分の住宅のなかからコモンが見えている。 それが密着しているのではなく、 強い空間性をもっているがゆえに、 切り離されているわけです。 自分の日常生活が一つの絵となって、 遠くに見えている。 そういう距離感を持たせる面白さがあると思います。

画像mi032 改行マークこれはある意味でこのプロジェクトの特徴だったのですが、 最初は火葬場の新築に付随した計画だったため、 ここを火葬場の庭のように考えていました。 しかし後から公園という位置づけになったので、 火葬場と公園で入り口が違うのです。 火葬場のために象徴性の高い空間をつくっていたのですが、 市からの要望で入り口を別々にし、 火葬場内と公園は軽くつながれているだけで、 ストレートに行き来できない関係になりました。

改行マーク実は火葬場と公園を直結する強いアプローチがあって、 公園からそのまま火葬場に吸い込まれていくべきなのではないか、 という意見もあり、 非常に悩みました。 しかし結果的には、 公園に来る日常の人達と、 火葬に来られた人達との接点をつくるにとどめました。 もし入り口を一つにしていたら、 公園とは言いながら、 火葬場のためだけの空間になってしまっていたでしょう。 結果的に、 日常と非日常のプログラムが交錯する場が出来たのは、 非常に面白いことだと思います。

画像mi034 改行マークこれはたまたま斎場から出てきた家族です。 こういう風景が公園に来た人たちから見えているわけです。 公園の南の方では、 普通の人達がバトミントンをしていて、 その横を喪服の人達が歩いている。 今、 火葬場というと、 どんどん市街地から隔離されているのですが、 そういう公共のプログラムの隔離も、 一つの問題点だと思います。

画像mi035 改行マークこれは私がこの公園のためにつくったモニュメント「風のベンチ」です。 そこに待合いの人が来て話をしているところです。

画像mi036 改行マーク実は先ほどのクレッセントサーカスのコモンを注意深く見ると、 大きな半円形の芝生の間を石垣がずっと走っています。 そしてそこに段差がある。 石垣の内側は住民のためのコモンであって、 完全にプライベートな空間になっています。 石垣の外側は外部の人が自由に使える公園として管理されていて、 おおよそそのように使われているようです。 さきほど、 公共空地が個人の使用している土地を借りるような形で広がっているべきではないかという話をしましたが、 その辺がすでにこのコモンで解かれているような気がします。

画像mi037 改行マークこの「風の丘」でも大きなボイドである楕円をつくって、 その周りに園路をつくることによって、 人はほとんど園路沿いのベンチに拠り所を求めるわけです。 大きな楕円の園路のこちら側に日常的に来た人、 向こう側に火葬場で待っている人と、 お互いに見る見られるという関係ができています。 それは、 日常の人と非日常の人が、 あるいは、 公共の場の人とプライベートな場の人が各々の居場所を確保しながら交錯する空間、 ができているということです。


土地の記憶を表現する
−現在と過去の対話

画像mi038 改行マークもう一つ、 このプロジェクトで面白かった点であり、 そもそもああいうアースワークを思いついた理由でもあるわけですが、 この敷地がもともと火葬場であり(火葬場の建て替えでした)、 非常に由緒がありそうな気配がしたこと、 しかもすぐ脇が墓地になっているということがありました。 従って墓地にお参りにくる人もたくさんいるということです。

画像mi039 改行マーク実は工事を始めると遺跡がたくさん出てきました。 最終的には古墳がアースワークとして表示されている公園になっています。 墓地に行く道も、 遺跡の脇を通って墓地に入っていくような経路をつくりました。

画像mi040 改行マークここの遺跡は、 2世紀から4世紀くらいの人のお墓です。 これは我々が1号墳と呼んでいる古墳なのですが、 この大きなマウンドの横を通って墓地に入っていくことになります。 現在の墓地と昔の墓地、 時間との対話とでも言えそうです。

画像mi042 改行マークここでは遺跡もアースワークとして表示されており、 私が用意したアースディッシュと呼ばれる空間との対話を見せるわけです。 強い形を入れることによって、 現在の活動と過去、 あるいは造形と墓地、 あるいは火葬場と日常的な公園との間に距離感をつくりだすことに成功したと思っています。

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