ホーム | プロフィール | 間歇日記 | ブックレヴュー | エッセイ | 掌篇小説 | リンク |
← 前の日記へ | 日記の目次へ | 次の日記へ → |
2001年9月下旬 |
【9月29日(土)】
▼AirH" に加入しようと、近所の近鉄百貨店へゆく。電話を二台持つのと同じならあんまり魅力はないが、「データセット割引」でいま持ってる電話の基本料が半額になるなら、俄然魅力的である。試算してみると、おれの使いかたなら AirH" を上乗せしても、そのぶん固定電話回線を使わなくてすむので、ほとんど損得はないことがわかった。だとしたら、家の中でだって無線でインターネットが使えるのはものぐさなおれにはありがたい。定額でつなぎ放題ということは、会社の仕事で使おうが家で使おうがなにも気にすることはないわけだ。セキュリティー的には、会社で個人が外部にダイアルアップするのは褒められたことではないが、会社のパソコンには原則としてすべてワクチンソフトが常駐されているし、IPアドレス固定でないうえにさほど長時間使うわけでもない。あまり問題はあるまい[◆2001年11月2日追記◆誤解を与えるといけないので、追記しておく。「会社で個人が外部にダイアルアップするのは褒められたことではない」程度ですんでいるのは、あくまでおれの勤めている会社での話である。ちゃんとしたセキュリティ体制の会社であれば(おれんとこはちゃんとしてないわけだ)、これは一般的に重罪である。世界中のウィルス開発者に愛され、次々とその製品に対応するウィルスやワームを開発してもらえるほど人気のある某ソフトウェア会社などでは、無断のダイアルアップは懲戒解雇の対象にすらなるという。また、接続時間の長短にかかわらず、攻撃は食らうときには食らう。人気のある某ソフトウェア会社の製品を満載し常用しているコンピュータならなおさらである。おれと同じようなことをしたい方は、自社のセキュリティポリシー(そんな世にも珍しいものがあればの話だが)に照らしたうえで、また、ネットワーク管理者に闇夜に襲われるリスクを負う覚悟で、自分の首を賭けてやっていただきたい]。ネット環境のないところでセミナーやプレゼンをやったり、会議をしたりするのにもはなはだ便利である。よっしゃ、ここはひとつ、DDIポケットを儲けさせてやるか、とあっさり決める。
店で AirH" の手続きをしてもらっているあいだ、そこいらの家電を見てまわる。おや? えらくコードレス電話が安いぞ。そうか、近鉄バファローズがリーグ優勝したのであった。むちゃくちゃ古い型だが、六千八百円なら上等であろう。バファローズ優勝記念の特売で、古いのを売り切ってしまおうとわけだな。うちはいまだにコードレス電話ではない。その必要をさっぱり感じなかったのだ。しかしまあ、これだけ安いのなら買っておくとするか。
せっかくだから、家に電話して、母に持たせているPHSの型番を確認する。できれば子機として繋がれば儲けものだと思ったのだ。とはいえ、PHSのほうがずっとあとに出たものであることはたしかである。さらに手近なドコモショップに電話して(おれのは feel H" だが、母にはドコモのを持たせているのだ)、当該型番PHSのメーカを訊いてみる。シャープだ。とすると、この安売りコードレス電話と同じではないか。多少の望みはあるな。繋がらなくてもともとと割り切って、安売り電話も買う。
家に帰って、コードレス電話とPHSのマニュアルとにらめっこ。コードレス電話のほうは、なにしろナンバーディスプレイにすら対応していない時代遅れ品である。子機として使えるPHSの型番を説明書で確認しても、あまりの古さに懐かし涙が出てくるほどの機種ばかり。もちろん、母のPHSなど、このコードレス電話が新製品として売られていたころには、まだまだ出現していないのだった。
うーむ、やっぱり繋がらんかなと一度はあきらめかけたものの、コードレス電話にマニュアルとは別に付いていた子機設定手順説明書を見て、おれはときめいた。説明書には相当古いPHSのことしか書いてないが、よく見ると、ボタンの配置が母のPHSとそれほどちがうわけではない。基本的インタフェースはよく似ている。おれはあたかも分子遺伝学者のように考え、古いPHSのインタフェースが採用している“概念の痕跡”を遥かな後継機種の中に見い出そうと、古いコードレス電話の設定手順を新しいPHSに当てはめる試行錯誤を繰り返した。数度目のトライで、ビンゴ! PHSのマニュアルにすら書かれていない“眠れる遺伝子”を呼び覚ましたのだった。つまり、PHSのROMには書き残されているが、もはや正式な機能としてはサポートされていない設定用のメニューが起動できたのである。やはり、こういうことになっていたか。使わなくなった機能でも、いちいちROMから消したりはしていないこともままあるのが電子機器というものである。ROMに焼かれている複雑なプログラムから特定の機能を抜き取ったりするほうが、よほど経費がかかろうというもの。メーカの人しか知らないメンテナンス用“裏メニュー”なども埋め込まれているのが常である(そういうのを捜し出す不屈の闘魂と異才の持ち主がたまにいたりする)。何度か試しているうち、母のPHSは、おのれをサポートしているはずがないほど古いコードレス電話からの電波をしっかり認識し、みごと子機として登録された。わはははは。やっぱりやってみるもんだね。メーカが同じだから、多少の勝算はなきにしもあらずだったが、こうもうまくゆくとはラッキーである。カエルのイントロンを呼び覚まして太古の形質を発現させ、イクチオステガと交配させたようなものだ(って、なんか喩えが大げさすぎるよな)。シャープの人には内緒ね。
というわけで、母のPHSは、非公式の機能を用いて、安売りの時代遅れコードレス電話と繋がっている。まあ、値段を考えれば、古い機械を骨までしゃぶっているわけで、お得な買いものと言えるであろう。
さて、お次は AirH" の設定だ。べつになんということもない簡単な設定なのだが、何度やっても繋がらない。おっかしいなあ。さっき買ってきたばかりだから、まだ有効じゃないのかなあ。でも、店員はもう使えると言ってたしなあ……。
どうチェックしてみても設定は正しいはずなので、おれはいったん AirH" のことは忘れ、本を読むことにした。脳は機械だ。頭を切り替えると単純なミスに気づくというのはよくあることである。
【9月28日(金)】
▼毎年この時期になると、意味もなく「10月1日では遅すぎる」というフレーズが強迫的に脳裡をよぎる。いったいなにが“遅すぎる”のだかさっぱりわからないのだが、とにかく急かされているような気になるのである。SFファンはたいていそうだろう(そうか?)。
でも、もはやそのフレッド・ホイルも故人である。彼が八月という微妙な時期に亡くなったのは、なんとなく最も人口に膾炙した自作のタイトルに義理立てしたかのような気さえする。これからもずっと、フレッド・ホイルは毎年この時期にSFファンを急かし続けるのであろう。なんて追悼のしかただ。
【9月27日(木)】
▼そろそろ来年のカレンダーが出回りはじめるはずだが、さて、来年はどうしたものか。『御教訓カレンダー』(PARCO)は既定値として、必ずもうひとつ買う“きれいなおねーちゃん”のほうが問題である。二年連続で本上まなみにするべきであろうか。葉月里緒菜のは出ないのではないかなあ。
ザウルスなりなんなり、PDAが一台あればカレンダーは要らんという考えもあろうが、漫然と部屋を見わたしたときに、最低ひと月ぶんくらいの日付が一覧できるカレンダーはやっぱり必要なのである。そこでふと思いついたのだが、最近普及しはじめている壁掛けテレビには、カレンダー機能はあるんだろうか? 調べりゃわかることなのだが、まあ、たぶんあるんだろう。あんなでかいものを常時壁に掛けていて、カレンダーを映すという用途を思いつかないなどということは、およそ考えられない。そのうち、アイドルのカレンダーなどもデータで提供されるようになるんだろうな。
【9月26日(水)】
▼こんな想像をすることがある。B29に大量の竹槍を積み、空を覆わんばかりの大編隊でホワイトハウスに飛んでゆき、何百万本、何千万本という竹槍の雨を降らせてやるのだ。
おれは基本的にアメリカ合衆国という国がたいへん好きだが、同時に吐き気がするほどの嫌悪を感じる対象でもある。こんなことをむかし書いた憶えがあるなとハードディスクを検索してみると、そうだそうだ、1998年5月11日の日記に似たようなことを書いたのだった。どうも最近のアメリカ政府(と日本政府)の言動を見ていると、アメリカの悪いところばかりが目について哀しい。あの西部劇大統領は、アメリカを、世界をどこへ連れてゆくつもりだ? Wake up, America!
【9月25日(火)】
▼なにやら、お見合いの会のようなところからダイレクト・メールが来ていた。なんでもまず母に電話があり、送ってもよいかと許可を取ったうえで送ってきたのだという。よくわからん手口だ。そもそも、電話番号をどこで嗅ぎつけてくるのやら。ともあれ、こういうものの文体はじつに独特で面白いので、後学のために目を通してみる。会員(とでもいうのか?)の女性のプロフィール例がいろいろと紹介されているのだが、たいへんイイ学校(一般的に入学試験に合格するのが比較的困難な学校、研究などの水準が高い学校という意味ではない)を卒業なさり種々の高尚な趣味をお持ちの、うっかり手でも触れようものなら稲妻に打たれて目が潰れ指とおちんちんが腐り落ちそうなお嬢様方ばかりである。なにをまちがって、よりによっておれにこのような方々をご紹介くださろうというのであろうか。おれが一日中本を読んでいられるようにおれと母を養ってくださり、適当に母の相手をして母がヨイヨイになったら(それほど遠いことではなかろう)介護もしてくださり、たまには夜伽もしてくださり(母のではない、おれのだ)、まかりまちがって子供でもできたらきちんと育ててくださるような方がもしあればおれにとってはこの上なく好都合だが、残念なことにそういう方々を日本語ではふつう“奴隷”と呼ぶのである。おれは奴隷制度は好かん。
おれはダイレクト・メールをごみ箱に放り込み、ガス湯沸かし器のボタンを押すと、消毒液をつけてマクベス夫人のように手を洗ってから屁をこいた。
【9月24日(月)】
▼《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。
|
旧ソ連の崩壊に伴いオーストリアに逃れた東側の科学者が薔薇の遺伝子を組み込んだ改造人間の騎士を使って夜な夜な未亡人を襲う――とかいう本なら、おれのところに送ってくださっても不思議はないのだが、これはそういう本ではないのである。SFではない。ふつうの歴史ものエンタテインメント小説である。「未亡人」の部分がおれ好みではないかと気を遣ってくださったわけでもない、それなら「幸福の未亡人」よりは「喪服の未亡人」のほうが気の遣い甲斐があるのにと思っても口に出さないところがおれの慎ましいところである。どなたかフランス書院で書いている方がそういう気の遣いかたをしてくださらないであろうかとときおり思わないでもないことはないのだがべつに催促しているのではないのでお気遣いなきよう。
じつは、高野さんも日記で書いてらっしゃるように、この本には、おれ原作のギャグが使われているのであった。2001年5月29日の日記のネタを『ウィーン薔薇の騎士物語』に使わせてほしいと高野さんからメールを頂戴したので、ええどうぞどうぞ減るもんじゃなしと気軽にお答えしたのであったが、返信してからおれは首を傾げた。おれはこのシリーズ、買い続けてはいるがまだ全然読めていないのだけれども、少なくとも舞台は外国であり登場人物が外国人であることは知っている。いったい全体、あのネタをどう使おうというのだろう??
ともあれ、さっそくその箇所を探してみると、な、なーるほど、こう来るか。ベタなネタがメタにネタにされている。高野さんが『クレオパトラとカエサルも木から落ちる』とか『隠遁の聖地カッパドキアの川流れ』とかを書く日も近いのであろうか。
【9月23日(日)】
▼高祖憲治参議院議員がついに辞職を表明。選挙違反だ選挙違反だなどと世間は非難しているが、あれはあくまで日本の法律上は選挙違反にすぎないのであって、郵便局がああいうことをやっているのはごくごくあたりまえなのではなかろうか。当の“選挙違反者”たちにしてみれば、自分たちが守り育んできた伝統文化を否定されたかのような感じで、はなはだ心外なのではないかと思う。郵便屋さんが選挙違反をすることは、たとえばどこぞの密林にひっそりと暮らす未開の部族が神聖な儀式として人肉を食うかなにかするのと同じように、おいそれとおれたちの価値観に照らして野蛮だなどと言ってはならない彼らなりの崇高な風習なのである。きっと郵政関係者になってしまえば、おれたちが米を食うのにも等しいごくごく自然な行為に思えるのにちがいない。民主主義などという南蛮渡来の借りものの価値観で断罪するのも気の毒な気がする。世襲制の国家公務員などという非常にユニークな風習をいまだに連綿と伝えている部族なのだから、おそらく民主主義なるものを学校で習わなかった者もたくさんいるのにちがいない。無理からぬことだ。もっとも、郵便屋さんはどこぞの密林にひっそりと暮らしてはいないのが困ったことではあるのだが……。まあ、小泉首相を後押しする大きな力として日本の政治史に名を残したのだから、在任期間が短かったとはいえ、高祖議員も以て冥すべしであろう。
【9月22日(土)】
▼劇団四季の『オペラ座の怪人』のテレビCMが、前回の『選挙ステーション2001』(テレビ朝日系)の予告編“オペラ座の変人”をパクっていてずっこける。「すごいらしい」などと言っている。さりげないので気づかない人は気づかないかもしれないが、『ニュースステーション』をよく観る人には憶えのある台詞のはずだ。ああいうのは、テレ朝の許可を得て作るのだろうか。それとも、勝手にやってもパロディとして許容されるのであろうか。
▼《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。
|
これはめでたい。『かめくん』ヒットのおかげで、北野勇作の長篇が次々と復刊されている。『クラゲの海に浮かぶ舟』は、おれも持っていないし読んだこともなかったので、たいへん嬉しい。これで長らく入手困難だった長篇が新刊として出揃ったことになる。北野さんは、ご自分のサイトの【たぶん図書館でなら読めるであろう作品リスト】を更新しておかなくては。
【9月21日(金)】
▼やたら忙しく、長らく日記の更新が滞ってしまっているため、とうとう冬樹も捕まるか死ぬか故郷の星に帰ったのではないかと心配してくださる方があってはいかんので、取り急ぎ、生存証明をしておくこととする。
しかし、よく考えるとヘンだ。9月21日時点のおれが、近い将来日記の更新が長らく滞ることをなぜ知っている? まあ、細かいことはよろしい。また予知能力が働いたことにでもしておこう。あるいは、このサイト全体が高加速を続けているか強い重力場の中にあるかしているのかもしれない。
↑ ページの先頭へ ↑ |
← 前の日記へ | 日記の目次へ | 次の日記へ → |
ホーム | プロフィール | 間歇日記 | ブックレヴュー | エッセイ | 掌篇小説 | リンク |