間歇日記

世界Aの始末書


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2001年9月中旬

【9月20日(木)】
▼知っている人はよく知っているだろうが知らない人はまったく知らないにちがいないので前から言おう言おうとは思っていたのだが、NHK『古畑任三郎』をやっているのをご存じだろうか? 『中国語会話』は必ず『古畑任三郎』のテーマ曲ではじまるのだ。暗闇の中でスポットを浴びこちらに背を向けて立っている古畑がふりむいて“ひとくち話”をはじめる、例のオープニングのパロディではじまるのである。もちろん田村正和が出てくるわけではなく、なんと講師の先生がやっているのである。「はい、みなさん〜ン〜、またお会いしましたぁ〜」(これじゃ淀川長治だよ)ってな具合で、これがものすごく似ていてびっくりなのだ。ものまね芸人ですら、これだけ似せる人は見たことがない(もっとも、もともと声質が似ているのだが)。この先生、古畑しゃべりで番組の冒頭に「中国文字当てクイズ」なる漢字のなぞなぞを出し、番組の終わりでまた古畑になって答えを明かす。なんという藝達者なおっさん(失礼)だろう。もしかしたら、中国語のほうが余技なのではないか。これだけが観たくて『中国語会話』を観ている人も少なからずいるにちがいない。“古畑任三郎”という商標(?)は一度も口にしていないから、NHKでもこれは“アリ”なのであろう。ひょっとするとけっこう綱渡りなのかもしれないが、「これを放送しないのはもったいない」とNHKの人だって思うはずだ。
 この相原茂というおっさんは、お茶の水女子大学文教育学部教授とある。どうやら、ほんとうに学者であるらしい。NHK語学講座の歴代講師の中で、これほど藝達者な先生がいたであろうか(べつに全員よく知っているわけでもないが)。
 いやなに、おれは中国語はさっぱりわからない。さっぱりわからない語学講座でも外国語というやつはなんとなく聴いているだけでも面白く、興味本位で細切れに観るわけである。毎回録画して観るような律義なことはなかなかできないタチで、テレビを点けっぱなしにしていることが多いものだから、おのずとちょくちょく観てしまうのだ。堺三保さんのように、井川遥が観たくて『フランス語会話』を観たりするような不純な動機はなく(おれはむしろ、アニメキャラの Beatrice がお気に入りである。声がいい、声が)、まあ、BGM代わりにしているだけだ。たしかに、『ハングル講座』(だからなぜ『朝鮮語講座』と言わん?)の阿部美穂子はきらいではない。また、『ドイツ語会話』エスター・シェーラー氏のきりりとした美貌にもよろめかないと言えば嘘になる。ドイツらしく“トロイマーのカエル”が毎回出てくるのもたいへんよろしい。思えば、NHKの語学講座(とくにテレビ)は、おれたちが子供のころ・学生のころ観ていたものに比べ、ずいぶんと柔らかく面白くなったものである。べつにあれでもって外国語ペラペラになろうなどという厚かましいやつはおらんだろうし、外国語に親しむエンタテインメント番組としてケツをまくったところが非常に好もしい。
 で、相原“任三郎”茂教授であるが、ちゃんと個人ウェブサイトがあって、日記をまめにつけてらっしゃる。おれの日記みたいなヤクザなものではなく、いわゆるふつうの日記だが、毎日書いてるんだからやっぱり好きなんでしょうなあ。「MOJI-NAZO」というコーナーでは、しっかり“古畑文体”していて、要するに、この先生、大阪弁で言う“いちびり”なのであろう。とても他人とは思えない。
 『中国語会話』は、金曜午前6:40(再放送は、火曜午後3:00と木曜午前0:20[水曜深夜])からである。おれの目に留まるのは、水曜深夜(つまり今日)の再放送だ。まあ、ご存じない方は、騙されたと思って、いっぺん観てみてください。

【9月19日(水)】
8月24日の日記で、堺三保さんは畳の上では死ねないというきわめて論理的な定説をご紹介したところ、本人から「わたしゃ広い部屋に引っ越したおかげで今では畳の上でもベッドの上でもソファの上でも死ねますぜ。本もビデオもDVDも全部35本の本棚に詰めて、すぐ取り出せるようになってるし、快適に過ごしておりますよ、なははは」と、抗議とも自慢ともつかないメールが来た。なあに、心配は要らない。「すぐ元の部屋のようになる」というのも、広く人口に膾炙している定説なのである。たいへん説得力のある説だ。瀬名秀明さんのように美人秘書(お目にかかったことはないが、秘書と局アナとOL首なし死体は、いついかなるときでも美人と決まっている)でも雇わないかぎり、ほぼ確実にそうなることであろう。

【9月18日(火)】
▼それにしてもなんというタイミングの悪さだろう。おれは、種々のあんまり突き詰めて考えたくない問題を、少なくとも議論の俎上に乗せてはくれるだろう人物として、また、ぶち壊し屋として、小泉首相にけっこう期待を寄せていたが、テロが起こってからの対応はありゃなんだ? おれは議論に火を点けろと期待していたのであって、泥棒が現れたのに乗じてなし崩し的に縄をなえとは言ってないぞ。アメリカに尻尾を振るのもいいかげんにしてくれ。日本にとってなんとも悪い時期に、とんだことが起こってしまった。しかし、泥縄はいかん。卑怯者呼ばわりされようがどうしようが、自衛隊をどう動かすかはあくまで内政である。十分に議論も尽くさず、ここぞとばかりにわけのわからない法律を作ったり、既存の法律の解釈をめりめりと音を立てて拡げようとしたりするのには賛成できない。
 そもそも、「湾岸戦争の轍は踏みたくない」という政府の見解はなにごとか。あのとき、おれたちはなにかそんなに悪いことしたか? 「血も汗も流さない」だの「Too little, too late.」だの、そりゃ、外から見ればたしかに事実ではあるだろうさ。だが、日本には日本の方針というものがあって然るべきである。アメリカさんが怪我の功名でくださったあまりにも遠未来的な憲法の制約下で、やれることをやったのではないか。「湾岸戦争の轍は踏みたくない」とずっと思っていたのなら、湾岸の轍を踏まずにすむように、あるいは、轍を踏んでなお堂々としていられるように、なぜ、その後の時間でちゃんと議論しなかった? それが政治家の仕事なのではないのか。常に国益を考えておるというのなら、治にいるときにこそ乱に備えた耳障りのよくない問題を提起してこその政治家ではないのか。その間、議席の数合わせのことばかり考えていたわけでもないだろうに?
 まあ、ある意味で、いま慌ただしく議論が盛り上がっていると言って言えないこともなく、必ずしも悪いことばかりではない。泥縄というなら、おれたち国民だって泥縄ではあろう。おれが抱いているいちばん厭な予感は、仮に時限立法かなにかでこの場をしのいだとしても、この熱さが喉元を過ぎれば、またまた自衛隊のことなんぞどっかへふっ飛んでしまうのではないかというものである。予感というより、ほとんど確信に近い。“タイフーン・メンタリティー”とはよく言ったもので、ライシャワー元駐日大使の慧眼には改めて敬服する。おれ自身が典型的にそうだからな。だからといって、なにも天下国家を動かすエラい人たちまでが、おれの真似をすることはなさそうなもんじゃないか。

【9月17日(月)】
▼なにやら日本までが妙な方向に行きつつあるが、どんなに深刻な事態が発生しても、いや、事態が深刻であればあるほど、世の中が同じ色に染まってゆけばゆくほど、どうしようもなく天邪鬼で不謹慎なことを思いつき、あまつさえ口にしてしまうのが、おれの精神構造である。子供のころから、そのために何度こっぴどく叱られたことか。叱られて直ったかというと、そんなことはまったくなく、むしろますますひどくなったような気さえする。三つ子の魂百まで踊り忘れずとはよく言ったものである。
 というわけで、今日は溜まっている不謹慎ネタ特集である。言いたくてたまらないものの、身のまわりに言う相手がいないので腹が膨れてきてしまって、かくなるうえは、日記に書いてしまおうというのだ。怒りっぽい人は読まないように。

▼世界貿易センタービルのそばを歩いていた通行人たちが、空を見上げて口々に叫ぶ。
「鳥だ!」
「スーパーマンだ!」
「いや――ひ、飛行機だ!」

▼最近、ふと気がつくと口ずさんでいるのが『勇者ライディーン』のテーマソングである。“ライディーン”“ラーディン”に替えて唄うだけでみごとに替え歌になってしまうのだった。おれの周囲のマジメな人たちに聞かれないよう、こっそりと唄う。「まぶしい空を〜、かがやく海を〜、渡せるもんか〜、悪魔の手には〜……」
 もっとも、報道によれば、“ビン”“ラディン(ラーディン)”は切り離してはいかんらしいのだが。
▼なんとなくアラブ系らしい肥ったおやじが壺から出てきて魔法を使う――
「アッラー、ビン・ラディン、ハゲチャビーン!」

【9月16日(日)】
▼アメリカで起きたテロの被害をどう実感しているといって、『アリー・myラブ2』の再放送スケジュールがむちゃくちゃになって怒っている人はたくさんいると思う。やはり平和がいちばんだ。

【9月15日(土)】
オサマ・ビン・ラディンの表記がずいぶん揺れている。“ウサマ”あり“オサマ”あり、“ビン・ラディン”あり“ビン・ラーディン”あり“ビンラーディン”あり、なにがなんだかわからない。おれはアラビア語はさっぱりわからんが、原語の発音はよっぽど日本語で表記しにくいものなのであろう。英語のメディアでも、Osama だったり Usama だったり、bin Laden だったり bin Ladin だったりするくらいであるから、英語でもよっぽど表記しにくい発音なのであろう。参考までに見てみると、Die WeltOsama bin Laden だし、Le MondeOussama Ben Laden である。ドイツ語でもフランス語でもよっぽど表記しにく……もういいですかそうですか。
 とりあえず、この日記では、オサマ・ビン・ラディンと表記することにしておこう。
《ご恵贈御礼》まことにありがとうございます。

『カラミティナイトII』
高瀬彼方、ハルキ文庫)
『暗黒太陽の目覚め(下)』
林譲治、ハルキ文庫)
「Treva」で撮影

 すんませーん。両方ともまだ前の巻が読めてませーん。『カラミティナイト』なんぞ、もう一年も前に出ているのだが、ウケてるようだからこういうジャンルのものも読んでおかねばならんと思いつつ買っておいて、いまだに手つかずなのである。続篇が出たのをきっかけに、今度こそまとめて読まねばならぬ。と思いつつも、年末年始の休みを逃すと、また先送りにしてしまいそうだなあ。とほほほ。

【9月14日(金)】
▼そ、そういえば、つい先日送られてきた『ソドムの林檎』野阿梓、早川書房)の腰巻にはなんと書いてあったっけか――「残酷な愛に彩られた麗しき幻惑のテロル」
 あわわわわ。た、タイミングが悪い。カバー折り返しの惹句にはなんとあったっけか――「猥雑さと純粋さが同衾する残酷な愛に彩られた、危険なテロ小説集」
 ひいい。な、なんというタイミングだ。この惹句が凶と出るか吉と出るかはわからないが、願わくば吉と出てほしいものである。だいたいこの国の人々は、世間の“雰囲気”次第で、冷静に考えれば明白にバカげていることを平気でやったりするから怖い。まかりまちがって書店が“自粛”でもしようものなら、野阿梓も早川書房もいい迷惑である。この作品集には、昭和の終わりにおれたちが経験したあの“自粛”の日々がモチーフになっている短篇「夜舞」が入っているのだ。もしこの本が“自粛”の被害に会ったら、皮肉もいいところである。これはあなた、すごく面白いから、臆病などこかの書店が店先から引っ込めるような愚挙に出るまでに買いましょう。いくらなんでも日本人はそこまで阿呆ではないとは思うが、万が一ということがある。テロは小説の中でこそ楽しむものだ。
 そういえば、SFってのは、ある意味で“精神のテロ”だよな。“センス・オヴ・ワンダー”などという非常に定義しにくい言葉が嫌いな人も、“精神のテロ”ならなんとなく納得がゆくんじゃなかろうか。精神にテロをかけられるのがとても嫌いな人と癖になるほど好きな人がいて、それがSFを好きになれるかどうかの資質の差なのではないかとすら思うことがある。形而下の視点で形而上の概念にまで殴り込みをかけるようなSFの方法は、殴り込まれたほうにしてみればたいへん気味が悪いにちがいない。おれはSFのそういうところが大好きなんだけどさ。

【9月13日(木)】
▼あっちでも、こっちでも、カエルが鳴いている。同時多発ケロ。山頭火風――ってだからどこが?

【9月12日(水)】
▼昨日の深夜からの続き。早く寝たかったのだが、寝ている場合ではないので、しばらくあちこちとチャンネルを切り替えながらテレビを観る。日本テレビの番組で、不意打ちを食らったアメリカは事態を的確に把握できているのか否かといった質問に対して、軍事の専門家らしき老人が、「少なくとも、アメリカがオシでメクラでツンボだということはありません」などと、さらりと言ってのける。ふだんはテレビに出ない人なのであろう。みごとな三連発に呆れたのか、井田由美アナウンサーは、「不適切な言葉が出ましたが……」と、研ぎ澄ました氷の短剣のような静かな声で、なにごともなかったかのようにたしなめていた。こ、こわー。
 CNNは、次々とメールを送ってきている。床についてからも、うとうとするたびにケータイが鳴り、もう寝ようと思いつつ、ついつい見てしまう。

[Tue, 11 Sep 2001 11:18:02 -0400]-- NTSB confirms plane crashes near Pittsburgh
[Tue, 11 Sep 2001 12:32:02 -0400]-- FAA confirms there are 50 aircraft in the air; none has a problem and all are within 50 miles of their destination.
[Tue, 11 Sep 2001 12:37:02 -0400]-- Government sources tell CNN President Bush is not returning to Washington.

 やがて、いつもの「CNN Breaking News」のあいまに、「AMERICA UNDER ATTACK」というタイトルの詳報が入りはじめた。CNNのサイトでは、いまごろおそらく同じタイトルの特集ページが立っているのだろう。
 一夜明けたら、すっかり戦争になっていた。一国の大統領に気やすく“戦争”などという言葉を口にしてほしくはないが、アメリカはそのつもりのようである。さすがに日本のマスコミは“同時多発テロ”と報じているけれども、いつのまにか“戦争”になっちゃうんじゃないだろうな。

【9月11日(火)】
▼会社の帰りに最寄り駅のそばのコンビニに寄り、おれはドリンクやら菓子やらの詰まったビニール袋を提げ、煙草を吸いながらバス停でバスを待っていた(ほかのものを待つやつはあまりいない)。二十二時少し前である。そのとき、ケータイが震えた。おなじみCNNの Breaking News だった―― World trade center damaged; unconfirmed reports say a plane has crashed into tower. Details to come.
 はあ? おれは首を傾げた。世界貿易センターに飛行機が突っ込んだ? あの高いツインタワーのいずれかに突っ込んだのか。なにやらどえらい事故が起こったらしい。おれは二重にまちがっていた。それは“事故”ではなかったし、“起こった”のではなく、むしろ“はじまった”のだった。
 家に着いてすぐテレビを点けると、『ニュースステーション』(テレビ朝日系)でちょうどCNNの画像を中継している。やはりあのツインタワーのひとつが、もくもくと黒い煙を上げている。旅客機が突っ込んだという。いくらなんでも、あんなところにアメリカの旅客機がたまたま突っ込むとも思えない。ひょっとしてこれは、テロではないか。などと思いつつ、背広を脱ぎながら呆然と観ていると、なんと双子ビルの無傷のほうに、もう一機突っ込んだ。テロだ。これはテロ以外のなにものでもあるまい。だとしたら、なんというエレガントな手口であろう。おれは不謹慎にも感心した。「柔よく剛を制す」という言葉すら脳裡に浮かんだ。死ぬ覚悟のあるやつさえいれば、こんなに防ぎにくい方法もなかろう。えらいこっちゃ。テロだテロだ。ブルース・ウィリスはどうした!? スティーブン・セガールは、ハリソン・フォードは、アーノルド・シュワルツェネッガーは、シルベスタ・スタローンは肝心なときになにをしているのだ!? すでにこのとき、正直なおれは完全に“映画鑑賞モード”に入っていた。
 愕然としていると、ケータイがメール着信を告げて鳴る。帰宅したので、バイブレーション・モードを解除したのだ。CNNである―― Second plane crashes into World Trade Center.
 少し遅れて(しかし十分に早く)淡々と伝えるメールニュースがなにやらとてつもなく間抜けに見える。悪い冗談のようですらある。しかし、ケータイにこのようなものが送られてくることで、これが現実の出来事であることが実感されるのだった。おれは自分の部屋に晩飯を持ってくると、傍らにケータイを置いて、テレビを観ながら食いはじめた。いや、飯を食いながらテレビに釘づけになった。ケータイには、CNNからのメールが時々刻々と着信する。おれのケータイでは、先方がメールを送信した時刻がわからないため、あとからパソコンで確認したヘッダーの送信時刻を添えて順に並べてみよう。じわじわと事態があきらかになってゆくようすがよくわかる。時刻はグリニッジ標準時マイナス四時間、つまり、アメリカ東海岸の現地時間である。

[Tue, 11 Sep 2001 08:52:02 -0400]-- World trade center damaged; unconfirmed reports say a plane has crashed into tower. Details to come.
[Tue, 11 Sep 2001 09:21:02 -0400]-- Second plane crashes into World Trade Center.
[Tue, 11 Sep 2001 09:23:02 -0400]-- FBI investigating reports of foul play in World Trade Center plane crashes, according to the Associated Press. Details to come.

 あとから時間をチェックすると、おれがバス停で第一報を受けたのは、なんと事件発生の数分後である。ニューヨークに住んでいる人でさえ、事件を知らない人がたくさんいたであろう時分だ。インターネットの速報性を改めて実感した。もはや先進国間に距離の壁はない。

[Tue, 11 Sep 2001 09:32:02 -0400]-- Sources tell CNN one of two planes that crashed into World Trade Center was an American Airlines 767.
[Tue, 11 Sep 2001 09:42:02 -0400]-- President Bush calls plane crashes at World Trade Center a terrorist act.

 どうやらおれは、とんでもない歴史的な事件にリアルタイムで立ち会っているらしい。飯を食い終わったおれはパソコンを立ち上げ、テレビ、ウェブ、メールニュースで同時に情報収集をしはじめた。が、CNNのウェブサイトにはまったく繋がらない。また、このあたりから興味深い現象が起きはじめる。刻々と届くCNNからのメールの順番が、徐々に乱れはじめるのだ。先に向こうを出たメールを、後から出たメールが追い越してこちらに届くようになる。おそらくアメリカ国内をはじめとして、世界中で急激にインターネットの利用が増加し、あちこちの回線が混雑したりサーバが落ちたりしているのにちがいない。膨大な数のアドレス宛に次々とメールを配信するCNNのサーバにも、相当の負荷がかかっているのだろう。

[Tue, 11 Sep 2001 09:45:02 -0400]-- Significant fire at the Pentagon. Details to come.
[Tue, 11 Sep 2001 09:46:02 -0400]-- White House evactuated. Details to come.
[Tue, 11 Sep 2001 09:47:03 -0400]-- Fire reported on National Mall in Washington
[Tue, 11 Sep 2001 09:55:02 -0400]-- CNN confirms a plane hit the Pentagon.

 冠詞や be 動詞を省いた簡潔な見出し文体なのはいつものことだが、09:47:03 のニュースなど、ピリオドを打つのを忘れている。記者が大あわてで報じているさまが、生々しく伝わってくる。

[Tue, 11 Sep 2001 10:03:02 -0400]-- One of World Trade Center towers collapses; fire forces evacuation of State Department
[Tue, 11 Sep 2001 10:13:02 -0400]-- United Nations evacuated.
[Tue, 11 Sep 2001 10:26:02 -0400]-- FAA diverting all U.S.-bound international flights to Canada.
[Tue, 11 Sep 2001 10:30:03 -0400]-- Second World Trade Center tower collapses in Manhattan
[Tue, 11 Sep 2001 10:38:01 -0400]-- Car bombing at the State Department, The Associated Press reports.
[Tue, 11 Sep 2001 10:39:02 -0400]-- Part of Pentagon collapses
[Tue, 11 Sep 2001 10:44:03 -0400]-- Pentagon monitoring second suspected hijacked plane.
[Tue, 11 Sep 2001 10:50:03 -0400]-- Fighter scrambled amid reports of second plane headed for Pentagon.

 世界貿易センターのツインタワーは、瓦礫の山と化した。どうやらこの世界は、おれがコンビニでお菓子を物色していたほんの三時間ほど前までの世界とは、ちがう世界になってしまったようである。予断を許さぬ事態が進行するままに、日本では日付が変わった。


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