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アイギス(神楯)(aijgivV)

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 女神アテーナーAthenaが身につけていたヤギの皮の胸当てのことで、神託を告げるヘビや、見た人を石に化してしまうという恐ろしいメドゥーサ Medusaの頭が飾られていた。リビア起源のアテーナーは、彼女自身がヘビに取り巻かれたゴルゴーンの仮面で、ヤギの皮の前垂れを神楯(アイギス)として用いていた巫女たちに奉仕されていた。この神楯は神権を表すものであった。のちに、ホメーロス風讃歌がこの神楯を主権にはなくてはならないものにしたため、ゼウスでさえも神楯がないと他の神々を支配することができなかった。


Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



ギリシア・神話〕 ゼウスの武具(『イーリアス』第15巻)。元々は単にヤギの皮の意。次いで、へーパイストスが造った、雌ヤギ・アマルティア(その乳でゼウスを育てた)の皮で覆われた、恐ろしい盾とされるにいたった。ゼウスは、これを、アポッローンに、やがてアテーナーに贈った。諸種の記述によれば、ヤギの皮でできたアテーナーの神の盾には、ヘビの頭の総飾りがつき、中央にはゴルゴーンの恐ろしい顔がついていた。至上の権力のシンボルで、のちに、大国の保護、ないし庇護を象徴するものとなった。

 だが神の盾は、雷とは違って、打撃を加えるための武器ではない。それは敵の攻撃意図を抑止する一種の〈心理的武器〉で、相手に恐怖心をうえつけ、人間どもに全能の神だけを信頼させることをねらった武器である。元来は激しい恐怖とパニックを引き起こす嵐を象徴した。

 「そなたは、総飾りのついた神の盾を手に取って、それをはげしく打ち振り、アカイア方の勇士たちを潰走さすのだ……」(HOMI, XV, 229-230)。ポイボス・アポッローンは、勢いはげしく、恐ろしい、そのへりには粗毛をつけ、ありありと人目に立つ神の盾を手にしているが、この盾こそは、鍛冶の神へーパイストスが、ゼウスの持ち物として、人間どもを敗走させるために造ってやったものである。それを両手に捧げて、アポッローンは、兵士たちの先導役をつとめる。「ポイボス・アポッローンが、神の盾を、ゆるぎも見せず、御手に持っておいでた間は、両軍の放つ飛道具がよく当たって、兵士たちが倒れていった。だがアポッローンが、速い駒を駆るダナオイ勢をまともに見据えて、神の盾を振りなびかせ、その上、御自身とても大きな叫び声を発せられると、アカイア方の胸の気力はあやかされて、彼らは、気負いはげしい武勇のほども忘れ勇気をなくして逃げにかかった。というのも、アポッローンがアカイア勢に臆病風を吹き込まれたからである」(HOMI, XV, 310−328、呉茂一訳)。
 (『世界シンボル大事典』)