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アラジン(Aladdin)

 マルコ・ボーロはアラジンを『アラビアンナイト』に出てくる謎を秘めた人物とは全く違った人物として描いた。おとぎ話にあるように、アラジンは宝物を隠してある秘密の洞穴の持ち主であったが、その洞穴は実在の洞穴であった。それはカスヴィンの近くにある要害堅固なアラムート谷にあった。そこは狂信的なハシーシム血盟団(ハシッシュ服用者)の本拠地であった。キリスト教徒は、ハシーシム hashishimをassassins(暗殺者)と誤って発音した。

 アラジンは「山の老人」と呼ばれた。この名称はハシーシム血盟団の首領が代々呼ばれる名称で、シーア派の指導者ハッサン・イプン・アル-サバー(太女神の息子、の意)に始まった。point.gifArabia アラジンという名前を受け継いだ首領も何人かいた。1297年、グジャラート地方が「血なまぐさい男」 Ala-ud-denと呼ばれる者に征服された[1]

 血盟団に入会した者はみな、麻薬と、魅惑的な女たちがいるすばらしい「楽園」のおかげで、死ぬと天国あるいはおとぎの国へ行った、と言われた。そこには、秘密の洞穴がある谷間いっぱいに立派な庭のついた館が建っているし。また、「楽園の四川」があって、、ブドウ酒、牛乳、蜂蜜が流れているという。入会を希望すると、まず、昏睡状態に入り、そして目がさめると、「うるわしき乙女たちに自分が取りかこまれていることに気がつく。乙女たちは歌を歌い、踊り、そしてこの上なくやさしい愛撫をしてくれる。おいしいご馳走やうまいブドウ酒も出る。牛乳とブドウ酒が流れる小川にかこまれて歓楽の限りを尽くして陶酔すると、自分が確かに『楽園』にいるのだと信じ、この喜びを棄てる気にはもはやなれないと思うようになる」[2]

 こうした至福のときがすぎると、男はまたその秘密の洞穴から出て、「山の老人」のために戦う。男はなんの恐れもなく戦う。それは、戦いで死んでも、自分がはっきりと現実だと思ったあの楽園にすぐにもどれるのだ、と信じているからであった。性的至福が約束されているということが、イスラム軍の勇猛さの謎を解く本当の鍵であった。コーランによると、戦争で死んだ兵士はみな「大きな、美しい、輝いた目」をした天女たちにかこまれて、永遠の悦楽を享受することができるという[3]

 アラジン一派の人々は、を女神のシンボルとして崇拝した。それは、西欧で「光を放つ容器」というと聖母マリア聖杯とを連想させるのと同じである[4]。東洋の詩人たちによると、「光を放つ容器」からは精霊djinn (祖先の霊)が現れるという。この容器は精霊が現れるアラジンのランプでもあったと同時に、最も古くから人々があらゆる霊魂が現れると信じていたでもあったのである。は死者の住む地であり、また再生の地でもあった。それは、「運命」の輸がぐるぐる回ることによって、すべてもまたに住んでいた。はおそらくアラジンの住む秘密の洞穴から射す光であったであろう。point.gifMoon

 『アラビアンナイト』には、アラジンの洞穴に入るための合い言葉「開け、ゴマ」Open, Sesameが出ている。この言葉はエジプト語のseshemu(=性交)と関連があった。 seshemuの象形文字は、男根がアーチ形の女陰のシンボルに挿入されているものであった[5]。古代文化はすべて、人間が楽園に入る思想を表すためにある種の性的シンボリズムを用いたのである。


[1]Zimmer, 54.
[2]Polo, 53-54.
[3]Campbell, Oc. M., 430.
[4]Wilkins, 58.
[5]Budge, E. L., 58.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 ゴマ(本体はshsavmh、その実はshvsamon。アラビア語起源とされる)
〔中国〕ゴマは中国原産の植物ではないが、中国の伝統的な「強壮剤」である。その種子によって「穀物」を断つことができ,長寿が約束される。老子と尹喜は、西方の昆崙山(世界の中心)に旅立ち、ゴマの種を食糧とした(KALL, MAST)。

〔開けゴマ〕このゴマという言葉は、魔法の呪文と関係があり、「開けゴマ」によって、アリババは神秘の洞窟の扉を開く。 40人の盗賊が財宝を隠した洞窟である。このまじないの起源は不詳だが、豊饒と結びついた象徴なのは確かだ。種子が開くことによって、地上のあらゆる富がもたらされるからである。心理的な観点からすれば、「開けゴマ」はまた、人間がお互いにとって閉じた扉である事実に対して意味を持つ。このささやかな呪文により、すべての心が開くだけでなく、無意識に通じる隠れた道も開くのだ。「開けゴマ」は洞窟に、隠された富に対する呼びかけである。洞窟が滋養のある豊饒な種であろうと、物質的富を秘めた小箱であろうと、霊的啓示の宿る場所であろうと、無意識の迷路であろうと同じことだ。
 (『世界シンボル大事典』)