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Cowrie(宝貝)

 語源はヒンズー語のKauri。カウリィは宇宙の女陰を表すカーリーと同じような女神であった。宝貝の貝殻は、どこでも聖なる陰門を表し、つねに、再生の思いを人々に与えた。紀元前約2万年ころのソリュートレ文化の骸骨は、「宝貝の貝殻で贅沢に飾られ」ている[1]

 エジプト人は、再生のまじないとして、宝貝で石槍を飾った。今でもなお東洋では、宝貝は治癒力と再生の力があると考えられているために、貴重なものとされている。宝貝の首飾りは、インドでは、邪眼除けとして高く評価されている[2]。イスラム教の女性たちは、妊娠中、宝貝を身につけているべきであると信じている。日本人は箪笥に「縁起物として」宝貝をしまっておく。もし宝貝が手に入らない場合は、女性性器のポルノ写真をその代わりとしてしまっておく[3]。ジプシーは宝貝を他のいかなる護符よりも尊重した[4]。スーダン人でキリスト教徒になった人々は、十字架のしるしをつけた革紐を貴重な護符と考えているが、もしそれに9個の宝貝の貝殻がついていないと、その呪力は落ちる、と思っている[5]

 古代ローマ人は宝貝の貝殻を「小さな母体」matriculusと呼んだ。それはアルマ・マーテル霊魂-母親)、すなわち教育をする巫女のシンボルであって、そのために今でも、学生は学校に「入学を許可される」matriculateと言う。古代ローマのアルマ・マーテルは、学問を愛することを教えたのみならず、愛の哲学をも教えた。キリスト教徒と違って、異教徒たちは、異性愛に長じて初めて立派な教育指導ができるようになると信じていた。

 古代ローマ人は、ときに、宝貝のことを「小さな雌豚」porcellaと呼んだ。宝貝が、たとえばデーメーテールアスタルテ、ケレスCeres、フレイアFreya、ケリトゥエンCerridwenなどのような、大きな雌豚である女神を表したからであった。このporcellaという語からporcelain(磁器)という語が生まれた。白く光沢のある宝貝の貝殻の表面に磁器がよく似ているからである[6]。ギリシア語で宝貝のことをkteisと言う。この語も、帆立貝、櫛、陰門を意味した[7]

 太古の時代、中東地方において宝貝が何を象徴したかは、紀元前7000年のジェリコの人々が保存した祖先の頭蓋骨を見ればわかる。この頭蓋骨は、ユダヤ人が家の守護神として崇敬した偶像(テラピムteraphim)の原型のようなものであるが、その頭蓋骨は胴体から切り離されて、顔の部分には石灰が塗られて彩色され、眼には宝貝の貝殻がはめられて、あたかも「見える」ようになっている[8]

 メラネシア人やポリネシア人も宝貝を尊重したが、そのことについて宣教師のジョージ・ブラウンが次のように記している。「宝貝は神聖なものであるとされている。しかし、なぜそうなのかまったくわかっていない。ここの人々は宝貝のタの字も言わない」[9]。ブラウン師が言うメラネシア人やポリネシア人は、すでに、宣教師に性的シンボルについて話しても無意味である、とよくわかっていたのであった。


[1]Campbell, P. M., 376.
[2]Gifford, 79.
[3]Briffault 3, 277-8.
[4]Trigg, 43.
[5]Budge, A. T., 352.
[6]Leland, 102.
[7]Lindsay, A. W., 132.
[8]Whitehouse, 168.
[9]Briffault 3, 275.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 宝貝(Cypraeidae)
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 タカラガイ科に属する貝の総称。殻は長卵形で、長さ2〜10Cmぐらい。殻口は殻の中央を縦に細長くのび、両ぶちに細かい刻みがある。表面はなめらかで光沢があり、美しい斑紋を持つ種が多い。
 宝貝という名前は、古代中国などで貨幣の代わりに用いたことに由来するという。しかし、その形状から、古くより俗に「ソソ貝」「ベベ貝」などとも呼ばれる。生真面目な柳田国男はお気に召さぬらしいが……(『海上の道』所収「宝貝のこと」参照)。
 出産のさいに殻を握っていると安産すると伝えられ、一名「子安貝」とも言う(画像は「八丈宝」)。
 世界の宝貝の図鑑は、関西学院大学・山田まち子さんの「微小貝データベース」がすごい。