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Goose(ガチョウ)

goosegg.gif  マザーグースは、古代エジプトに起源をもつ。そこではナイル・グースに化身した母ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕であった。ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕は太陽の黄金のを産んだが、これはラーを生んだことを表現を替えて言ったものである。ラーの太陽の円盤はガチョウ-と呼ばれたこともあった[1]。エジプ卜の書物の中には、原初の世界卵という形で、全世界を生み出したという理由から、ガチョウを世界の劃造女神と呼んだものもあった[2]

 金のを生むガチョウを見つけにマメの木に昇ったジャックのおとぎ話は「神聖なブドウの木」あるいはセトの梯子を昇って、太陽の神の領域に行った王朝以前のシャーマンにまでさかのぼる。神は「アメリカスズカケの木から現れるガチョウの」と祈りの中で呼びかけられた[3]

 ヘ(ウ)ト=ヘル〔ハトホル〕のように、マザーグースはすべての子供の名づけ親になった。その絵姿は、いつも魔女-産婆の伝統的な服装をしていた。つまり黒い外套、エジプトの王冠のような尖った帽子に魔法の杖だった。


[1]de Lys, 27.
[2]Neumann, G. M., 217.
[3]Budge, E. M., 132.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



一般〕 中国の文学や絵画で、ガチョウについて言及するとき、それは常に野生のガチョウのことである。カモについても同様である。飼い慣らされた動物に比べて、野生動物が 持っている象徴的優位さは、古代にさかのぼる。現代では、夫婦の貞節のシンボルとなったガチョウは、若者が最初、選んだ若い女性に贈られた。春の初め、そのガチョウの前で、それに倣って、彼女に次のことをわからせる。この行為は、彼女に性的な慎みと抵抗をやめさせなくてはならない、というサインである。

中国・文学〕 『書経』、つまり、その最古のものは紀元前7世紀にさかのぼると思われる歌謡、聖歌で野生のガチョウは、しばしば主題となっている。

 以下は、唐代の陸亀蒙の詩の一節だが、その中で詩人は、ガチョウの通り道に仕掛けられた罠に心を動かされる。

「野生のガチョウよ、
北から南への道は長い。
その道程には、
無数の弓が引かれている。
煙と霧を横切って、
われわれの何羽が
衡陽にたどり着けるだろうか」

 地方から、地方への移動には、家から家への移動のように、驚きと罠が一杯ある。

 中国人が、文学で〈鳴いている野生のガチョウ〉を引用するのは避難民、離郷せざるをえない人々への言及の場合である。

エジプト・象徴〕 ファラオが太陽と同一視されるとき、彼らのは、ガチョウの形で表現される。ガチョウは、「原初のから産まれた太陽」だからである(CHAM、118)。

 エジプトでは、中国と同じく、野生のガチョウは、やはり天と地の間の使者と考えられた。新しい王の即位を告げるため、別の儀式の間に4羽の野生のガチョウを地平線の4隅に放った。「南へ急げ、南の神々にさるファラオが、二重の王冠を手に入れた、といえ」と叫んでいた。基本方位のそれぞれに繰り返された(POSD、229)。

北アフリカ・慣習〕 北アフリカでは、ガチョウを太陽の動物として、1年の変化の重大な時期に捧げる慣習はまだ守られている(SERH、332)。

ローマ・神話〕 ローマでも、女神ユーノーの神殿のまわりで育てられた聖なるガチョウは、「警告の」使命を持っていた。危険を予告し、警報を発するとみなされていた。とりわけ、紀元前390年、夜、ガリア人がカピトリウムの丘を急襲したとき、ガチョウが、姿を現し、騒がしく鳴いた。

ロシア・シベリア〕 ラドロフの報告によると、アルタイでは、ウマの供物とシャーマンの上昇の儀式で、ガチョウは、シャーマンにとって、ウマを追いかける乗り物の役を務める。アルタイのシャーマンにとって、死者の王を訪問後、地獄から戻る乗り物の役をするのは、しばしば、ウマではなく、ガチョウである(ELIC、175-186;HARA、368)。

 ロシア、中央アジア、シベリアでは、ガチョウという言葉は、欲望の対象となる女性の隠喩である。

ケルト・伝承〕 大陸のケルトと島のケルトの伝承では、ガチョウは、ハクチョウと同義である。その語彙記述研究では、ガチョウとハクチョウを必ずしも、明確に識別していない。ブルトン人には、〈あの世の使者〉とみなされたガチョウは、野ウサギや雌鶏とともに、食物の禁忌の対象となる。この事実を『ガリア戦記』5、12で報告したカエサルは、この動物は、「楽しみのために」育てられていた、と付け加えるが、彼はその理由を理解していなかった(CHAB、554-555)。

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ヨーロッパ・解釈〕 子供時代の思い出の中で非常に馴染み深いすごろくは、秘教の解釈の対象となった。その解釈では、ガチョウは、「迷路」や「大いなる作業の主要な象形文字を集めたもの」と考えられる(フルカネリ)。『マザーグースの歌』でも、難解な物語として解釈された(『アトランティス』220号、125-140)。
 (『世界シンボル大事典』)