「アジアの女王」の意で、アタルガティスまたはメリ・ヤムのシリアにおける称号。へーシオネーは、ヘビを伴侶にしていた太女神だった。ギリシア人からは、へーシオネーはヘーラクレースによって海ヘビから助けられたと言われたが、これは、ペルセウス-アンドロメダー神話を焼き直したものだった。へーシオネーをめぐる争いの原型は、たぶん、「アジアの女神」の配偶者の座をかけて、パール神と「海ヘビ」ヤムとの間で行われた戦闘にあったものと思われる。
Kingship.
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
へーラクレースがへーシオネーを救ったことは、ペルセウスがアンドロメダーを救ったことと似ているが、これはあきらかにシリアと小アジアにはよくあったある図像 マルドゥクが海の怪物ティアマートを征服した図像で、ティアマートは女神イシュタルの精気なのだが、マルドゥクは女神を岩にしばりつけて、その力を消してしまった からひきだされたものである。
ヘーラクレースはティアマートに呑みこまれ、脱出するまで三日のあいだ姿を見せない。あきらかにおなじ図像にもとづいているヘブライの教訓物語によると、ヨナもはや三日のあいだ鯨の腹中ですごしている。おなじくマルドゥクの代理者であるバビロン王も毎年一定の期間を譲位してすごすが、その間おそらく彼はティアマートと戦っていたのである。
マルドゥクやペルセウスの白い太陽をあらわす馬は、ここではへーシオネーを救った褒賞ということになっている。
ヘーラクレースの髪の毛が抜けてしまったことは、彼の太陽的な性格を強調しているわけである。一年の終りに聖王の頭髪を切りとることは、サムソンの物語におけるように、王の魔力を削減することの象徴であった。聖王がふたたび姿をあらわすときには、その髪の毛は赤ん坊のものぐらいしかない。ヘーシオネーがポグルケースの身代金を払って釈放してやったことは、母親であるセーハ(スカマンドロス?)の王妃がヒッタイトの王ムルシリスにかけあって、厄介者である自分の息子マナパダッタスを助けてやったことに照応するのであろう。(グレイヴズ、p.745)