A


アンドロメダー(=Andromevda or =Andromevdh)

andromeda.jpg

 「人間を支配する者」の意味。ペリシテ人の海の女王の添え名のギリシア語である。ぺルセウスが結婚して妻とした。ベルセウスは海ヘビのヤムからアンドロメダーを助けたものと思われる。この神話では、ペルセウスというのはバールBaalのギリシア語名であったと思われる。それは、バールは母親のアスタルテーAstarteを愛するが故にヤムと毎年戦ったからである。アスタルテーというのはペリシテ人の女神で、場所によってはアタルガティスと呼ばれていた。バールはヤムを退けて女王アスタルテーを妻としたが、女王がバールにあきると、こんどはバールが退けられることになった。ギリシア・ローマ神話では、アンドロメダーは岩に鎖でしばりつけられるが、最初は、ペルセウスが海ヘビと戦うのをとやかく言いながら見ていたが、やがて自分が餌食となって鎖でしばられることになったのである。

 もともとの神話では、ペルセウス聖王の役割を果たしたことになっているが、それは彼が神となって天に昇り、星の世界に住むようになったことからうかがえる。ヘーラクレースHeraclesも同じような功業を終えたのち、星の仲間となった。ヘーラクレースはへシオネー(「アジアの女王」)と結婚するために巨大な海ヘビを殺したのである。へシオネーは、おそらく、アンドロメダ−-アタルガティスの別称であったと思われる[1]。


[1]Graves, G. M. 1, 224.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 アンドロメダーの話はおそらく、太陽神マルドゥク、もしくはその先祖であるバールが白馬にまたがって海の怪物ティアマートを退治するパレスティナあるいはシリアの図像からひきだされたものである。この話はまたヘブライ神話の一部をなしてもいる。つまりイザヤの記すところによると、イェホヴァ(マルドゥク)は剣をふるってラハブをめった切りにしている(『イザヤ書』第五一章・九)。

 ところで『ヨプ記』の第九章一三節と第二六章一二節によると、このラハブというのは海のことなのだ。おなじ図像のなかで、鎖で岩につながれて立っている宝石だけ身につけた裸姿のアンドロメダーは、じつにアプロディーテー、あるいはイシュタル、あるいは好色な海の女神、「男性を支配する者」アスタルテーのことである。しかし、彼女は救いの手を待っているのではなく、マルドゥクが彼女の精気である海蛇のティアマートを退治したあと、これ以上危害を加えないようにと、みずからの手で彼女をしばりあげてしまったのである。バビロニアの創世神話では、洪水をひきおこしたのはほかならぬ彼女である。

 海の女神としてのアスタルテ一にはパレスティナの海岸のいたるところに神殿があったし、トロイアでは彼女はへーラクレースが別の海の怪物から救いだしたといわれる「アジアの女王」ヘーシオネーの名で知られていた。(グレイヴズ、p.352)