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プシューケー(Yuchv)

 ギリシアの「女性霊」で、ヒンズー教のシャクティに当たる。ギリシア・ローマ神話はプシューケーを愛の神エロース結婚させた霊魂と肉体の結合である。アプレイウスによる物語は、プシューケーとその花婿は闇の中でのみ一体となることができたと述べている。プシユケーが灯火でエロースを見たいと言い張ったとき、エロースはプシューケーの許を永久に去らねばならなかった[1]。寓話として考えれば、これは霊魂の情熱が肉体の情熱を追放しうることを述べたものである。本来の物語は、おそらく古代のスパルタにあったような習慣から作られたと思われる。スパルタでは、若いが妻を訪ねるのは夜に限られていた。「ときには2人が昼間互いの顔を見る前に、子供が生まれた」[2]

 プシューケーは化身してチョウになった。古代のギリシア人は、人間の霊魂は1つの生命から他の生命に移るとき、飛ぶ虫の身体を借りると信じていたからである。この考え方は忘れられていなかった。 1329年にカルカッソンヌ〔フランス南部〕で、ある好色なカルメル会修道士が、女性の家に愛のまじないを穏したという理由で告訴された。彼はまたサタンを呼び出して、チョウを生贄として捧げたかどで非難された。これは霊魂を捧げることを象徴的に意味したからであった[3]


[1]E. Hamilton, 92-100.
[2]Crawley, 42.
[3]J. B. Russel, 186.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



Psyche_Box 《魂》の意。ホメ一口スではは生きている人間の物質的な性質を失った、弱いのごときものと考えられていた。のちヘレニズム時代になって、とエロース・アモル《愛》とを結びつけて考えることが多くなった。有名なプシューケーとアモル(エロース)の恋物語は後2世紀のローマの作家アーブーレイウスの《黄金のろば》中の、嫁いじめに関する民間のおとぎばなしが神話のなかに混えられた話である。

 プシューケーは王の娘で、二人の姉妹があった。三人ともに美しかったが、プシューケーは絶世の美女だった。他の二人は結婚したが、あまりにも美しすぎるために、プシューケーを貰う者がいない。両親は心配して神託に伺ったところ、彼女に花嫁の衣裳を着せ、怪物の人身御供にすべしとの答えを得た。両親はやむなく彼女を山頂の岩の上に残して去ったが、彼女は突然風によって持ち上げられて、深い谷間に運ばれた。深い眠りから覚めると、美しい庭園に囲 まれた宮殿があった。彼女が内に入ると、扉はおのずから開き、姿は見えないが、声だけがあって、あらゆる用はこれらの召使たちによって彼女の思いのままに果される。夜になってその怪物が彼女を訪れ、やさしく彼女に近づき、二人は夫婦の契りを結ぶが、彼は自分の姿を絶体に見せない。彼女は幸福に暮していたが、家族に会いたくなった。彼は反対したが、妻の願いによってついに折れ、風はふたたび彼女を両親の所に運んで行った。彼女の幸福を妬んだ姉妹らが、彼女に夜の間にびそかに燈火によって、の姿を見るように勧めたので、帰ったのち、彼 女はそのとおりにしたところ、横に眠っていたのは美しい青年エロース・アキルであった。しかしその時あつい燈油の一滴が彼の上に落ち、彼は驚いて目覚め、たちまちにして逃げ去った。後悔したプシューケーは彼を求めて世界中をさまよったが、神々は彼女の願いを開かず、彼女はついにエロースの母アプロディーテ一に捕えられ、女神によってあらゆる難事を強いられる。まず彼女は夜までにいろいろな種類の混った穀物の山を選りわけることを命ぜられるが、蟻が彼女に同情して、この業をやってくれる。その他の多くの難事をやり了せたのち最後に地獄の女王ペルセポネーから実の函を持参することを命ぜられ、はとんど地上に帰らんとした 時、好奇心を押えることができず、開いたところ、そこには美のかわりに深い眠りが入っていて、彼女を眠らせる。アモルは彼女を忘れがたく探しに出て、眠っている彼女を発見して、自分の矢でつついて目を覚まさせ、オリュムボス に上って、ゼウスの許可を得、アブロディーテーとブシューケーも和解した。(『ギリシア・ローマ神話辞典』)

 ギリシア語Yuchvはまたチョウチョウの意味でもある。


[画像出典]
Dictionary of Mythology
Psyche Opening the Golden Box (1903)
John W. Waterhouse, Private Collection